2章 - 04

左肩から落ちたのだろう。勇者は左腕をだらりと垂らし、動かせる気配が無い。


さらに転がり、城の壁にぶつかったダメージが全身に見てとれる。


右手に持った大剣を杖代わりに、立つのがやっとの状態だ。




万全の態勢でも間に合わなければ意味が無い。それはもっともだが、そんな状態でそこからいったい何ができるというのだ?


私は目の前の理解しがたい存在から目が離せないでいた。


今日は想定外の事が続いている。一刻も早く立ち去らねば、他の人間がすぐに駆けつけて来る。


一瞬、今なら勇者を倒せるのでは?と欲が出てきたが、それをすぐに捨て去る。




「アカバネ?」




さっきまでしゃべれなくなっていたシロエが勇者の名前を呼んだ。


勇者はゆっくりとだが、私との距離を詰めている。




「お前、シロエを離しやがれ」




勇者はそう吠えると、戦う態勢をとった。




「ふん、そんな状態で来たところで、私を捕まえることはできない」




私は勇者が不利な状況であることを指摘いつつ、飛び立つための魔法詠唱を始めた。




「こんな怪我、どうってことないぜ!」




勇者は大剣を私に向けつつ矢のように引くと、高速で私に突進してきた。




なに!?


私は大きくのけ反り、寸前のところで大剣を渡す。


そして、勇者はまた地面を転がった。




くそっ。勇者はすぐに体制を立て直すと、すぐに先ほどと同じ構えをとった。




「きさま!こいつがどうなってもいいのか!」




私は反射的にそう叫んだ。


あんな捨身の攻撃、何が起こってもおかしくなかったぞ。




「いいわけないだろ。だが、それはお前も同じじゃないのか?」




勇者は冷静に答える。




そうか、こいつ。私がシロエを生かしたまま連れ去らないといけないことをわかっている。


預言者が味方についていると言っていたな。そいつの入れ知恵だろう。


だからと言って、これはいくらなんでも乱暴すぎるのではないか。


なぜ私がシロエの身を按じなければならない。




ふとシロエに目をやる。


まだ怯えてはいるが、勇者が来たことに少し安堵しているようにも見えた。




「シロエ、絶対助けてやるからな!」




勇者が大剣を上へ掲げると、大剣は光を放ち始めた。




「だから、怖いかもしれないけど。少し目を閉じていてくれ」




そして大剣は、パキンと割れる音を立てて双剣へと姿を変えた。


片方はそのまま右手に、もう片方は横笛のように柄を咥えられた。

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