2章 - 03
「きゃあ!」
突然目の前に降ってきた私に驚いて、シロエは尻もちをついた。
長く整った長い髪に、きれいな顔立ち、細身だが健康的な脚、絵に描いたような王女であった。
シロエは痛みで閉じた目を開け、私と目が合った。
まんまると無垢な瞳に私が映る。
なんだこいつ?それが魔族の私に向ける目か?
「…ちょ」
シロエが地面に座ったまま口を開いた。
「ちょっと!危ないじゃない!ここまでしなくてもいいでしょ!」
怒りが籠っているものの、まったく威圧感の無い声が私の耳に響く。
「…って、なにその恰好?い・いやらしい。あのスケベじじいに踊り子でもやらされていたの?」
今度は細めた目が私の胸元へ泳ぐ。
まったく予想していなかった反応に、私の思考は一瞬止まっていた。
なんなんだ?
私の混乱をよそに、シロエは「私を起こしなさい」と言わんばかりに手を差し出してきた。
そこでようやく私はおおよその察しがついた。こいつまさか。
考えを巡らせつつ、私もその手を掴むために手を伸ばそうとした。
その瞬間、シロエはさっと私を躱して、城の外を目指して走り始めた。
私はその事態に焦り、逃がすまいと思わず拘束魔法を放つ。
くそ、今までのは私を油断させるための芝居か!?
思えば、私が来る前から外を目指していたのだ。
私はもう油断しないと拘束を強める。
が、拘束が強すぎて命に手がかかってしまっていることに気が付いた私は、すぐに魔法を解いた。
ここまで用意周到だと、魔法も対策されていると思い強めたことが裏目に出た。
危うく殺してしまうところであった。いったいなんなんだ?
体中を強く締め上げられたシロエは、地面に倒れこみ、体を丸めて苦しがっていた。
きれいな顔は今は崩れ、涙と唾液を流して嗚咽を漏らしている。
私はシロエの髪を掴むと、無理やり引き起こし、私と目線を合わさせた。
シロエは私に何かを聞こうとしているが、痛みと苦しみでえずいている口からは言葉が出てこない。
しかしまだ足りない。その目はまだ自分の死を悟っていない。魔族を見る目ではない。
私はシロエのほほを叩いた。少し間をあけて今度は逆側を叩く。一定間隔で何度も往復した。
だんだんと怒りで腕に力が入っていく。
こいつは始めからこの作戦に気付いていなかったのだ。
ただの興味本位で外を見に行こうとしていただけだ。
甘やかされるのに慣れているから人をなめるのだ。
安全に飽き、危険に無知だから、魔族の私を見て使用人か何かと勘違いしたのだ。
きっとそうだ。絶対にそうだ。私はそんなくだらない事に振り回されたのだ。
私はいつしか息を荒げていた。
目の前のシロエは、ほほを腫らし、いつの間にか目から光が失せていた。
何をやっているのだ私は。こんなことをしてなんになる。
怒りに身を任せてしまったことに後悔し、私はすぐにこの場を離れようと夜空に見る。
そこで初めて気が付いた。空から高速で何かがこちらに向かって来る。
私はシロエを庇うように身を構えるのが精いっぱいであった。
何かが凄まじい勢いで地面に着弾すると、轟音を立てた。
それは土煙を上げ、花々をなぎ倒し、城の壁に穴を空けて止まった。
私はそれを攻撃と判断して、次弾を見極めるために再び空へ目を向ける。
しかし、もうこちらに向かって来るものは無い。
その変わり、壁の穴から大声がした。
「シロエー!来たぞー!」
私が初めて対峙した勇者は、満身創痍で戦える状態ではなかった。
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