第10話 デート(親による強制)②

「準備終わったかしら? と言うか何で女子の私より準備が遅いの……よ……」


 澪が洗面所で色々と準備している俺の顔を見て、何故か声を小さくしながら少し目を見開いた。

 俺はそんな不可解な行動をする澪に首を傾げると、澪は何故かスッと目を逸らす。


「どうした? なんか変か? 久し振りに髪型セットしてみたんだけど……」

「い、いや、別に変ではないわよ。ただ……少し驚いただけよ」


 ふーん。

 俺の変化に驚いたねぇ……。


 俺は意識してカッコいい顔と立ち姿を作ると、澪に問い掛ける。


「どうだ? 思ったよりイケメンか?」

「調子に乗るな。まだまだよ」

「……まぁ分かってたけどさ……せめてお世辞でも行ってくれたらいいのに……」


 これでも久し振りなりに結構頑張ったんだが……まぁ久し振りだししょうがないか。

 今度からは学校の日もやってみるかな。


「見とけよ澪。絶対お前にカッコいいって言わせれるくらいまで髪セットして見せるからな!」

「そう。精々頑張りなさい」

「相変わらず冷たいなぁ……お前は相変わらず綺麗だな。これが毎日やってる奴とやらない奴の違いか」


 澪はいつもはストレートな髪(スーパーロングと言うらしい)をゆるく巻いている。

 更に服は言うまでもなくオシャレで、ハイウエストストレートデニムとか言うらしいズボンと、無地のTシャツというシンプルながら大人っぽい服装だった。

 

 因みに俺はテーパードパンツに無地のTシャツをインナーにして上に長袖のシャツを羽織ってネックレスを付ける程度。

 良くも悪くもない、男子高校生なんて大抵こんな感じと言った風な服装だ。


 まぁ正直澪の服装には到底敵いそうにないが……これでも結構頭を悩ませて選んだ。


「……っ、早く行くわよ!」

「お、おう……」


 澪は褒められたせいか少し頬を赤くしながらズンズンと玄関へと向かって行くが……ふと此方に戻って来て、俺と目を合わせずに言い放った。


「…………似合ってるわよ……」

「え?」

「……っ、何でもない! じゃあ外で待ってらから!」


 今度こそズンズンと歩いて行って玄関を閉める音が洗面所に聞こえて来た。

 そんな家に1人取り残された俺は———


「ど、どうしたんだあいつ……?」


 ———普段と少し態度の違う澪に、ただただ首を傾げることしかできなかった。








「———勢いで出たは良いけど……何する? 全く考えてないぞ俺は」

「私もよ。その日のほんの数時間前に決まったんだからしょうがないけれど……何しようかしら」


 俺達はデート開始早々する事がなくて困っていた。


 本来なら何日も前に決めてそれまでに考えておくのがデートみたいな感じだと思うのだが……その日の内に決まったし。

 何なら当日行くとしても、どこかしら行きたい所があって始めて行こうとなると思うんだが……。


「どうする? 澪はどっか行きたい所ある? 因みに俺はない」

「そんなに急に言われても……あるわけないじゃない」


 澪も困った様にため息を吐く。

 そこで俺は天才的なことを思い付いた。


「なぁ澪———今の俺の服装どう思う?」


 俺が手を広げて訊くと、澪は意味不明とばかりに首を傾げながらもしっかりと俺の服装を見てくれる。

 そして僅か数秒後。


「———普通ね。良くも悪くもないって感じかしら」

「ぐふっ……分かってたけど直に言われると心にダメージが……」

「なら何で聞いたのよ……」

「いや、澪に服を選んで貰おうと思って。俺のファッションセンスじゃこれ以上は無理。よって頼んだ澪」


 そう———澪に俺の服を選んで貰えばいいのだ。

 そうすれば次のデートに行く時も服を決めやすいし、この無駄な時間も解消できる、正に一石二鳥なのではないだろうか。


 澪も直ぐに俺の意図に気付いたのか、ふっと笑みを浮かべると、自信満々と言った表情で言い放った。


「いいわ。この私がアンタをコーディネートしてあげる。その代わり———物凄い時間が掛かっても文句言わないでよ?」

「勿論だ。俺って器広いから待つの得意なんだよね」




 この後こんな言葉を言ったのを心の底から後悔するなど、この時の俺はまだ知らない。

 



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