第9話 デート(親による強制)①
「…………行くか……」
「そうね……」
俺達は揃って大きなため息を吐きながら玄関を開けた。
それに服はちゃんとお洒落をしているのに、明らかに出掛けるテンションではないのは分かっている。
———親にデート強制されるマ?
事実なのである。
発端は1時間前に遡る。
———1時間前。
「やったぁぁぁぁぁ……!! 遂に……遂に休みだ……!! 今日は絶対に家から出ん! 勉強もせん! ずっと家の中でゴロゴロしてやるんだ!」
「アンタねぇ……シャキッとしなさいよ———っていつもならそう言ってるかもしれないけど、今日ばかりは私も同意見ね。1日くらいゆっくり休みたいわ」
今日は待ちに待って待ち焦がれた土曜日。
俺がソファーで寝転がってそう宣言すると、いつもなら『何馬鹿なこと言ってるの?』とか思ってそうな顔をする澪が、珍しく疲れた様子でビーズクッションに倒れ込んだ。
「だよなぁ……てか、毎日毎日気付いたら剛志先生が目を光らせてるの何なん? ガチで怖いんだけど」
「あそこまで来たら逆に尊敬に値するわね……普通にキモいけど」
だってよ剛志先生。
華のJKにキモいって言われてるぞ。
「よし、今日はゲームでもしながらゆるく過ごそうぜ」
「いいわね。ついでに直人をボコボコにしてストレス発散しようかしら」
「お、あんま俺を舐めて掛かると痛い目見るぞ? 俺はサンドバッグと違うからな」
「でも今までサンドバッグにしかなってないじゃない」
なんてこと言うんだこの女は。
「やるか? ゲーマーに鍛えられた俺を舐めんなよ? お前なんて瞬殺よ?」
「アンタがね」
「…………勝負じゃコラ!! ぶっ潰す!」
「あら、わざわざサンドバッグになってくれてありがとう。これでストレス発散が出来るわね」
俺達が火花を散らしながら対戦するべくゲームの準備をしていると———『ピコン』と俺と澪のL◯NEの通知音が聞こえて来た。
その後を聞いた瞬間、俺達の顔が強張る。
「……なぁ澪?」
「……何かしら、直人?」
俺達はスマホからゆっくり離れて溢す。
「…………嫌な予感しかしないんだが。俺の本能が『無視して画面見ずに電源切れ』って言ってるもん」
「奇遇ね直人。私も今全く同じことを本能が囁いていたわ。絶対に見ない方がいいわよ」
俺達はスマホとお互いを何度か見た後、小さく頷き、スマホの電源を切るために動き出す———にはにはあまりにも遅すぎた。
2人のスマホが同時に鳴り始めたのだ。
「おいおいおいおい……電話掛かって来たマ? ホラーかよ」
「出たくないわ。出てよ直人」
「断固拒否する! 何でわざわざ地獄行きの片道切符を取りに行かないと行けないんだよ! もう無視しようぜ。まだ寝てるってことでいいだろ」
「…………それもそう———」
———ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン———!!
「殺すぞクソ親父!! スタ連してんじゃねぇぞ!!」
「あ、やっと出た出た。やっぱり起きてたなぁ? ん? 親からの電話に出んとはどう言うことだ?」
「五月蝿ぇ前時代機械音痴ジジイが。俺の神聖なる休日を穢すならば、末代まで呪ってやる覚悟だぞこちとら」
「ほぉ……言う様になったな直人。ところで澪ちゃんはいるのか?」
電話もスタ連も全て父さんだった。
恐らく澪のL◯NEは、澪のお父さんによるものだろう。
俺は電話をしながら澪にどうするか目で確認すると……澪は諦めた様に肩をすくめて頷いた。
「いるぞ。でもそれがどうかしたのか? 分かってるよな? 俺は休日を穢されるのだけは許せないんだ」
「分かってる分かってるって———じゃあ2人ともデートしろ。強制な」
……………は?
「なぁ話聞いてた? それとも遂に頭固すぎて崩壊でもしたか? なら1度病院行って頭のレントゲンを撮ることをオススメするぞ」
「随分と酷い言われようだな……ただ、さっきも言ったけどこれは強制だから。どうせそうでも言わんとお前ら半年後に許嫁をやめると言いそうだからな」
父さんにしてはよく分かってるじゃないか。
「だからお前らの仲を深めるためにも毎週1度はデートをして貰うぞ? 勿論バレないとか考えるなよ? バレるからな?」
言いたいことだけ言って父さんは一方的に電話を切った。
場に物凄い静寂が訪れるが……俺達は同時に呟く。
「「…………今度必ず絞める」」
俺達はそう心から誓った。
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