第8話 男友達と話しているのも悪くない

「———今日さ、直人ん家遊びに行かね?」

「お、良いねぇ! 久し振りにス◯ブラするかぁ! で、お前ら強くなったんか?」

「ふっ……愚問だな、俺はお前に勝つためだけにス◯ブラ買ったぜ……! まぁまだ1時間くらいしかやってないけど」

「じゃあ全然強くないな。何が愚問だよ。めちゃくちゃ有能な質問だったじゃねぇか」


 親に買い物のお金をたかった次の日の昼休憩での事。

 弁当を食おうとした俺の前で俺の友達———秋原祐樹あきはらゆうきが突然そんなことを言い出した。

 それに便乗して、生粋のゲーマーである石川健太いしかわけんたも良さげな反応を上げる。


 ただ———少し待って欲しい。


「いや、駄目だぞ。普通に無理やね」


 だって、ゲームも丸ごと新しい家に持って行ったのだから。

 勿論新しい家にコイツらを呼ぶなんてことは絶対に出来ない。


 来たら速攻で同棲がバレそうだし、澪に勝手に上げるなって怒られそうだし。

 アイツ、ガチで怒ったら笑顔の圧力掛けてくるからガチで怖いんだよな。


 俺が昔澪が怒った時のことを思い出して身震いしていると、提案して来た祐樹が俺に泣きついて来た。

 そう、本当に涙を流して。


「うおっ!? 離れろ汚いな! 無理無理無理無理鼻水擦り付けようとするなぶっ殺すぞ!?」

「何でだよぉおおおおお!? いつも適当に許してくれたじゃん! そこを何とか頼むよぉ!! 俺ん家じゃお前ん家みたいなでかいTVないんだよぉおおおおおお!!」

「おう一旦落ち着け叫ぶなやかましい! ただ、普通に無理なんだよっ! それにTV換え変えたし、昔より小さくなったぞ」


 俺は必死に祐樹を引き剥がしながら話すと、ゲーマーの健太が俺達のやりとりを見て苦笑する。

 ただ、全然助けてくれる気配はないので、つくづく使えんな、と俺はジト目で睨む。

 ジト目で睨まれた健太は、肩をすくめた。


「おいおい俺をそんな目で見んなって。俺にはコイツみたいな生粋の運動部を引き剥がせるほど力はねぇぞ」

「確かにヒョロいけど、多少は役に立つだろ。俺も現役運動部を引き剥がすの大変なんだからさ、手伝えよ」

「嫌」

「ねぇ頼むよぉおおおおおお!! 今日お前ん家でス◯ブラやろうぜ!! 何か今日なら健太をボコせる気がするんだよ!」

「それはねぇな。1、2分でボコされて半泣きになるお前の姿しか想像出来ねぇわ」

「俺に勝つとか……寝言は寝て言うもんだぞ、祐樹?」

「お前ら酷いな!? もう少しくらい俺の勝ちを信じてくれよ!」


 そう言うなら、今までの勝負結果を自分で思い出してから言って欲しい。


「お前、今まで健太との戦績は?」

「159戦1勝158敗」

「無理だな」

「うん、流石に負ける気しないな。直人なら普通に負けるかもだけど……祐樹は同じコンボと技しか使わねぇからな」

「くっ……この俺を単細胞だと言いたいのか!?」

「「うん」」

「くそぉおおおおおおおおおお!!」


 地に両手で伏せて慟哭を上げる。

 俺が言えることじゃないけど、1番仲が良いコイツらも大概変な奴だ。

 

 祐樹は単細胞バカで、お笑い性能も高い。

 この俺のノリツッコミとか言葉にめちゃくちゃ違和感なく返答してくる辺り、陽キャ特有のコミュ力を感じる。


 健太も始めは少しおっかなびっくりとしていたが、今では完全に馴染んで、俺も祐樹もいじってくる様になった。

 まぁ切れ味鋭くて、俺とか祐樹の心にモロに刺さる時もあるけど。


 俺はワーワーと騒いでいる2人を横目に、澪に素早くL◯NEを送る。



《直人:今日さ、祐樹と健太が俺達の家に来たいって言うんだけど、助けてくれない?》

《澪:は? 絶対にダメよ。100%バレるわよ?》

《澪:あと私が入ったら怪しまれるから無理》



 まぁ何となく分かっていたので特に何とも思わないが……コイツとことん他人任せだなおい。

 俺はお前みたいになんでもそつなくこなせる完璧人間ちゃうぞ。


 心の中でそう愚痴りながらも、この2人を如何に説得するか模索し始めた。


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