第7話 買い物

「———さて、何か弁明はあるか? ん? 俺を置いて1人しれっと助かった澪さん?」


 放課後、俺は誰も居なくなった教室で仁王立ちしながら、席に座る澪を見下ろす。

 そして被告人である澪は俺を見ると……それはもう露骨に目を逸らすではないか。


 これは確信犯ですな。


「……な、何のことかしら? 全く記憶にないわね……」

「どの口が言っとんねん。めちゃくちゃ覚えあるだろ」

「私、過去は振り返らない性格なの」

「あれ? 今回のテストの時、昔の戦績出してきた負け犬は誰だったっけ?」

「過去のことは知らないわ!」

「遂に全部覚えてないことにしやがったよこいつ。頭の中どうなってんだよ」


 何かこれ以上追求しても大して良い言葉は得られそうにないので、一先ずここらでやめておくことにした。

 ただ、過去は振り返らないって言葉だけは、いつか澪を煽る時に使えそうなので覚えておこう。


 俺はやっと本題に入る。


「澪……買い物に行こう。我が家の冷蔵庫はすっからかんだ」

「それくらい言われなくても分かってるわよ。だって朝料理したの私だもの」


 まぁ確かに。

 余計なお世話だったかもしれない。


「なら俺は先に帰る———何だねその手は」


 俺が回れ右して教室の扉に向かおうとした所で、俺の袖が軽く引っ張られる。

 後ろを向けば、ジト目で此方を見ながら袖を掴む澪の姿があった。


「何1人で帰ろうとしてるの? 直人も一緒に来てよ」

「何で? 普通に嫌なんだけど……」

「1週間分買うのよ? 全部私に持てって言うわけ?」

「うん」

「アンタたまに鬼畜よね」


 いや今回はお前が原因だよ。

 だって昼休憩の時俺のこと見捨てて逃げやがったんだしな。


「じゃあ頑張っ———」

「———許嫁である私が1人で買い物してたのを親に見られたらどうなると思う?」

「よし、行くとするか。おい何してんだ? 早く行こうぜ」


 華麗なる手の平返しだと思われるだろうが、ウチの親は澪のことになるとマジでクソ面倒なのだ。

 どのくらい面倒かと言われれば、ソシャゲのリセマラくらい面倒くさい。

 しかもめちゃくちゃ五月蝿くて小言&両親の昔話まで話が長引く。


 まぁつまり———死ぬほど面倒、と言うことだ。

 

「ふふっ、ありがとう」

「別に割と本気でお前のためじゃないんだからな」


 と言うことで俺は、買い物の荷物持ちとして同行することになった。








「ねぇ……しれっとお菓子を入れようとするのやめてくれないかしら? あの親達が家買うことにお金使い過ぎて仕送りが殆どないんだからそんなの買っている余裕はないの」

「全部俺らのせいじゃないじゃん。良いじゃんたかろうぜ。俺らの今日の苦労の対価ってことで」


 スーパーにやって来た俺達だったが、何度も籠にお菓子を入れようと試みる俺に、澪は若干キレ気味に眉をヒクヒクさせていた。

 と言うか、俺には1円も仕送りなんて来ていないのだが……。


「アンタのは私が預かってるわよ」

「何で!? と言うかまたしれっと俺の考え読んで……で、因みにそのお金って返したり———」

「返さないわよ? アンタが持ってたら碌なことに使いそうにないじゃない」


 流石腐っても幼馴染。

 俺のことをよく分かっていらっしゃる。


 絶対自分のお金じゃなかったら、課金とかに使ってしまうこと間違いなしだからな。

 結論、お金欲しい。

 

「はぁ……何でこう言う反論して欲しい所で反論せずに、普段の頭のおかしな所で反論するのかしら……?」

 

  何故か澪に呆れた様にため息を吐かれてしまったが、俺にはそのため息の意味が理解出来なかった。

 

 こうして俺達の買い物はつつがなく進んで行った。

 お菓子は結局買って貰えなかった。


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