第6話 バレない様にするのも楽じゃないな

 ———昼休憩。


「……あぁぁぁ……」

「どしたんコイツ……? 途中から来た分際で俺達より疲れてね?」

「さぁ? 遠月さんも死んだ様な目で放心してるし何かあったんじゃね?」


 皆がテンションを上げる時間に、俺は自分の机で口から漏れ出る声を抑えることすら出来ない程に疲労していた。

 普段なら先程の2人の男友達の言葉にも反応していただろうが……今は反応する気力すら湧かない。


 かく言う俺の2つ斜め前の席に座る澪も、昼休憩だと言うのに弁当も食べずに無言で机を見ながらぼーっとしていた。

 そんな姿に周りの女子が心配しているが、その声すらも届いていない様子である。


「おーい直人ー? 死んだかー?」

「死にそう……」

「あ、死にそうって言えるなら死んでないな。ならいいや」

「人の心ないんかお前は……」

 

 あまりの疲労で、いつもの様にツッコミにキレが出ない。

 そんな変わり果てた俺の姿に、男子達は困惑気味である。


「おいおいマジでコイツどうしたんだ? 遂に薬物でもやったか?」

「やってねぇよ……ただ、あのクソヤクザの話が異様に長くて死にそうになってるだけだ……」


 俺がそう言うと同時に、男子達が———聞き耳を立てていた女子も———一斉に驚いたかの如く目を見開くと、俺と澪を交互に見る。


「お、お前ら……付き合ってんのか!?」

「マジで!? 何でもっと早く言わないんだよ! 俺達友達だろ?」

「そうだぞ! 隠してたなんてお前も悪よのぉ……」


 俺の周りの男子達がニヤニヤと揶揄う様な笑みを浮かべて、俺の頭をガシガシと撫でたりしてくる。

 男子達の猛攻を必死に避けながら女子の方を見ると、同じく女子のキャーキャー言う黄色の声援をこれでもかと浴びていた。

 

 何でこうもお前らは恋愛話が好きなんだ?

 

「いや、全然付き合ってないから。完全にあのクソヤクザの勘違いだから」


 まぁ実際は付き合うなんて生温いものじゃなくて、将来を誓い合う寸前の許嫁だけど。

 ただ、付き合ってはないので、間違いも言っていない。


 俺の言葉に露骨にテンションが下がる我がクラスメイト達。


 お前ら本当に正直だなおい。


「何だよ違うのか……期待したのに……」

「まぁでもアイツガチで面倒だよな……怖くて何も言い返せんけど」

「何で教師やってんだよ。絶対ヤクザの方が向いてるだろ。言えねぇけど」


 俺も同感だ。

 あれほどだったらヤクザ以外に相応しい職業はないだろ。


 俺が話が逸れてホッとしていると、1人の男友達がふと何かに気付いたかの様に口を開いた。


「ん? なら何で2人とも遅刻したんだ? しかも一緒に来たんだろ?」

「「……」」

「確かに、それな。付き合ってないのにどうして同じ時間に来たんだろうな?」


 再び盛り上がりを見せるクラスメイト達の視線がギラリと光り、俺と澪を捉える。

 そんなクラスメイトの姿を見て、自分で理解出来るほどに顔を引き攣らせる。

 チラッと澪を横目で見てみると……これでもかと顔を引き攣らせていた。


「(おい、澪。今度こそお前が何とかしてくれ! こっちは疲れてんだよ!)」

「(今度こそ!? 結局河合先生の時は2人で必死に弁明したじゃない! アンタ即座に反論されてぐうの音も出てなかったじゃない! それに私も疲れてるわよ)」

「(うぐっ……くそッ、何で俺達がこんな目に遭わないといけないんだよ!?)」

「(そんなの私も知らないわよ!)」


 本当に面倒なことを言ったよなあの無責任な親共!!

 許嫁なんて一体いつの話だよ!

 

 だが、幾ら文句を言った所でこの状況を打破出来るわけじゃない。

 今はこの興奮し切ったクラスメイトを何とかしなければ。


「お前ら……教えて欲しいか?」


 俺がそう言うと、男女関係なくこの場にいるほぼ全ての人間が大きく頷いた。

 まぁ何とも元気が良いことで。

 

「でも———教えなぁぁぁぁい!!」

「「「「「「何やねんっ!! なら言うなや馬鹿野郎!!」」」」」」

「ちょっと! 上げるだけ上げておいて下げるなんて卑怯よ!!」

「そうだそうだ! 私達の期待を返せ!」

「ハハハハハハハハ!! 教えるとでも思ったか馬鹿共め!! 誰がプライベートを教えてやるってんだ!! ハハハハハ———痛っ、ちょっ、おいやめろお前ら! 脇腹突くな! 脛蹴るな! あと今頭叩いた奴誰や! ぶっ飛ばすぞ!!」


 脳がめちゃくちゃ揺れただろうが。

 俺が本当に馬鹿になったらどうしてくれんだよ。


 俺がそう言ってみるも、煽り過ぎたせいか、全く止まる様子がない。

 何なら女子まで参加してくる始末。


「お、お前ら……み、澪!! た、助けてくれ———って居ねえ!?」

「遠月さんならもうどっか行ったぞ」

「全部お前が悪いんだよ! 遠月さんを巻き込むな!」

「そうだぞ直人。往生際が悪いぞ。大人しく罰を受けろ」


 あ、あのクソ女……俺を犠牲にして自分だけ助かりやがったな……!?

 

「くそッ———い、一時撤退!」

「「「「「「あ、逃げんなこの野郎!!」」」」」」


 放課後まで追いかけ回された。 

 

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