第5話 うーん……どう言い訳しよう

 優雅な朝食を終えた俺達は、テレビを見たり、ゲームをしたりして時間を潰しながら準備をしてやっと家を出ようとしていた。


「さて……現在10時23分。面倒な現代文の授業も始まってるし行くかぁ……」

「ふーん、そう言うこと。通りで『あと1時間! あと1時間だけ待ってくれ!』言ってたのね」


 玄関の鍵を閉めながら、澪がどこか納得した様に頷く。

 まぁ澪の推理は的を射ているのだが、認めるのは何か癪なので誤魔化しを謀る。


「ち、違うが? べ、別に現代文の課題1ヶ月出してなくてめちゃくちゃ怒られそうで怖くて行けなかったとかじゃないからな? 断じて違うぞ?」

「全部言ってるじゃない。と言うか、あれほど私が課題は出した方がいいって言ったのに出してないの?」

 

 澪はジト目で呆れた様にため息を吐く。

 俺は澪の視線に耐えかねてそっと目を逸らしながら苦し紛れの言い訳を重ねてみたが、逆に墓穴を掘ってしまった様だ。


 そう。

 俺達は本来ならば9時には家を出れたのだ。

 しかし、俺がごねにごねて何とか1時間延長して貰った。

 理由は勿論、現代文を学ぶ意味が全く理解出来ないから。


 現代文って明確な答えないし、勉強せんでもその場のフィーリングでいけるだろ。

 寧ろ授業で何を学ぶんだよって話だよな。


 俺がそんなことを思いながら駅に向かって歩いていると、横に居る澪が不思議そうに聞いて来た。


「ねぇ、何で現代文嫌なの? 点数高かったわよね?」

「先生面倒くさいやん。文字数制限ないのに無駄に文字数多くするの何なん? 簡単に1行で終わるところを3行分でやるのマジで意味不明なんだが? あと普通に先生面倒だし」

「面倒って……アンタが課題を出さないから面倒に感じるだけでしょ?」


 ごもっともな意見ですね。

 でも出す気はサラサラないです。


「はぁ……ほんとバカね……何でこんな奴に負けたのかしら……?」


 しれっと俺の思考を読んでため息を吐く澪に軽く戦慄を覚える。


「な、何で分かるんだ……!? お前……エスパーか何かだったのか!? あと、現代文以外は出しています」

「なら何で現代文は出さないのよ……」


 だって出す意味ねぇもん。

 あんなのやったって時間の無駄だし。

 小説読めば勝手に解ける様になるって。


「はぁ……これは何言っても無駄ね」

「だからしれっと俺の心の声を読むのやめよう? え、何で分かるの?」

「直人が分かり易いだけよ。バカだから」

「———なっ!? お、お前———」


 俺達は2時間以上遅れで学校へと登校した。


 








「———で、どうしてお前らは遅れたんだ?」

「「……すいません……」」


 11時頃に学校に着いた俺達だったが、即座に生徒指導の先生に生徒指導室へと連行されてしまった。

 今は取り調べを受けている真っ最中だ。


 因みに俺たちの対面に座って聞いてくるのは、学校一怖い先生である河合剛志かわいつよし先生。

 身長180越えでムキムキで尚且つ強面の先生である。


 正直ヤクザにしか見えなくて草。 


「おい天音、今何考えた?」


 ジロッと剛志先生が鋭い眼光で俺を睨む。

 どうやらこの先生も心を読む能力を持っている様だ。

 周りに能力持ちが多くて困る。


「うす、何でもないっす!」


 怖いって。

 あんなのに睨まれたら漏れるって。


 俺が心の中で恐怖にガクブルしていると、咳払いをした剛志先生が再び聞いてくる。

 

「話がズレたが……何で遅刻した?」

「「…………」」


 先生の言葉に俺達は言葉が詰まる。

 この先生にだけは『俺達許嫁になって新しい家に引っ越して色々あって気付いたら寝過ごしてました』なんてとてもじゃないが言えない。

 理由も勿論ある。


 この先生———学生の不純異性交遊許さない系の前時代の頭カチカチ先生なのだ。

 色恋よりも勉強をしろ、が口癖である。


 現に、この学校にカップルはほぼいない。

 進学校だからと言うのもあるが、この先生にバレたら面倒だからと言うのが殆どだ。

 昔バレた生徒は反省文を補修を受けたとか。


 理不尽過ぎだろと声を大にして言いたい。

 勿論言えないけど。

 そんな先生に許嫁とか同棲なんて言えると思うか?


 ———無理に決まってんだろ。

 無理、怖すぎ。

 

 試しにチラッと澪を見てみると……背筋を伸ばして姿勢良く座っているのに、その目はまるで世界競泳の如く泳ぎまくっていた。


 こ、こいつ使い物にならねぇ……!

 でも何か言わないと……。


「……ね、寝坊しました……」


 取り敢えず嘘は言ってない。

 重要な所の9割が抜けているだけで。


「遠月もか?」

「うっ……は、はい……」

「ほう……家の近い2人が寝坊して同時に来ると……それは随分珍しいことが起きるものだな?」

「「…………」」

「もしかして……不純異性交遊か?」

「「…………」」


 疑ってるよ!

 絶対疑ってるって!

 剛志先生の眼光がどんどん鋭くなっていってるって!

 絶対2人で何かしてたと思ってるって!


「(おい、何とかしてくれよ! めっちゃ疑ってるって!)」

「(む、無理よ! 何て嘘付くのよ! それにそう言うのは直人の得意分野でしょ!)」

「(こ、こいつ!? 俺に全投げしやがったな!?)」


 アイコンタクトで会議を試みたが、分かったのは澪が完全に俺頼みなことだけだった。


 俺は本当にこいつ使えねぇ……と思いながら、必死に足りない頭をフル活用してこの状況を打開する策を練った。 


————————————————————————

 昔居たんだよね、恋愛嫌いな先生。

 色恋に現を流して点が下がるって。

 恋人に親でも殺された?

 それともモテない僻みですか?


 因みにその先生はハゲの先生です。


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