第4話 調子が狂うな……。
「———俺、そう言えば新居に住んでるんだったな……」
翌朝、俺は見慣れない部屋やベッドで目を覚まし、部屋を見回してそんなことをふと思う。
今まで数年間は見慣れた自分の部屋だったので、正直全く慣れない。
「……ってそんなのどうでも良いくらい眠いんだが……」
新居と全く関係ないんだが、今俺は物凄く眠たい。
いや新居が関係あると言えばあるんだが、別に枕やベッドが変わって寝れなかったとか言う生優しいことではない。
———洗濯機、1つしかないんや。
俺達は何度も言うが、許嫁とは言えまだ普通に友達の感覚なんよ。
流石に異性の友達と同じ洗濯機で洗濯物は洗えんて。
そのことに、俺達も風呂に入る前までは全く気付いていなかった。
ただ気付いたら最後、俺達はガチで頭を抱えることとなり、結局親が悪いこと言うことで、下着系の物は別々で2回洗うと言うので何とか着陸したのだが……それに気付いたのが夜の1時。
更にもう数年以上澪の家に泊まりに行っていなかったので、少し緊張して寝れず……結局眠れたのは4時くらいになってだった。
「そう言えば今何時———どぇえええええええええええ———ッッ!?!?」
俺がふと時計を確認すると、8時20分。
学校の登校時間は8時40分までがギリギリセーフでそれ以降は遅刻扱い。
更に俺も澪も電車通だし、普通に電車でも学校の最寄駅まで15分くらい掛かる。
俺はそこまで考えて———急ぐことを素直に諦めた。
「うん、無理。どう頑張ってももう間に合わんに決まってんだろ」
諦めの極致に入った今の俺は、もはやマ◯オのスター状態だ。
俺は優雅な朝を楽しむため、ゆっくりと一歩一歩踏みしめる様に階段を下って行く。
すると———。
「あ、おはよう直人。アンタも諦めたのね」
「おう、おはよう澪。当たり前だろ? 全部親が悪いって言うことにすれば良いんだよ」
まぁ実際9割方は親が本当に悪いのだが。
俺が下に降りると、先に澪が目を覚ましたらしく、朝ごはんを作ってくれていた。
しかしまだまだ完成には程遠く、澪も俺と同じく寝坊してしまった様子だ。
「因みに澪は何時に起きた?」
「十数分前ね」
「あーそれは無理だな。お前身嗜み整えるの時間かかりそうだし」
俺は、まだ寝巻き姿の澪に視線を移す。
普段は綺麗に整えられた、腰まである漆黒の髪は、寝起きだからか少し枝毛が目立つ。
まぁそれでも俺なんかとは比べ物にならないほど整っているんだが。
俺がぼんやり澪を眺めていると、澪が料理をする手を止め、ほんのり頬を朱に染めながらジト目で此方を振り返って言ってきた。
「あ、あまり見ないで欲しいのだけど……」
「あ、わ、悪いっ……少し珍しくてな……」
俺は注意されて慌てて目を逸らす。
確かにまだ身嗜みを整えていない女性をじっと見るのは失礼だったかもしれない……ってそうじゃないな。
普通に女性をガン見してたのがアウトなんだわ。
朝からお互いに気まずい雰囲気が流れる。
昨日はおかしなテンションだったのであまり気にしていなかったが、一夜明ければこれから異性と2人で生活して行くと言うのを改めて意識させられる。
「……なんか手伝おうか……?」
「じゃ、じゃあお皿とか出しておいてくれるかしら?」
俺はソファーに座っておくのも気まずかったので、手伝う意思を見せてみると、澪も気まずい雰囲気をなんとかしなかったのか即座に食いついてきた。
しかし、皿を出したり箸を出したりするもなんてものの数十秒あれば終わってしまう。
「「…………」」
俺達は再び無言になり、テレビの音声と、澪が料理をする音だけが部屋に響き渡る。
「……気まずいな……」
「……気まずいわね……」
俺達は同時に同じ言葉を溢す。
本当に調子が狂うと言うのはこのことで、いつもなら頭空っぽでも話す話題が出てくると言うのに、こう言う時に限って何を話せば良いのか分からなくなってしまう。
まぁそれは澪も同じ様で、チラチラと俺を見ては何か話したそうな顔を———ん?
「なぁ澪……さっきから何見てんだ?」
「え!? い、いや何でもないわよ……?」
チラチラと見られながら俺が訝しげに聞くと、途端に挙動不審になる澪。
その澪の視線の先には———。
「……よ、涎の跡が……」
「くそッ!! 何でもっと早く言ってくれないんだよ!! めちゃくちゃ恥ずいじゃねぇか!!」
「い、言えないわよ! こんな気まずい時に言えるわけないでしょ!」
「そりゃそうだよなごめん今すぐ顔洗って来ます!」
俺は急いで洗面所へと駆け込んだ。
ただ、このお陰で一先ずは気まずい雰囲気も解消されたので……まぁ多少俺が恥をかくくらいはよしとしよう。
あと、澪の朝ごはんは驚くほど美味かった。
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