第2話 おい、許嫁とはどう言うことだよ!?

 ———数時間前。

 高校生が日々の学校生活唯一楽しいと言っても過言ではない昼休憩の時間。

 

 友達といつも通り昼飯を食べながらわちゃわちゃしていた俺の下に、突然1つのL◯NEが送られてきた。


「ん? 父さん? 珍しいな……あの機械音痴の父さんがわざわざL◯NE使ってまで連絡してくるなんて……」


《明彦:今日は澪ちゃんと一緒に真っ直ぐ家に帰って来なさい。絶対に寄り道なんてしない様に》


「え……何だこの怪奇文……? 理由も書いてないし……俺なんか怒られる様なことしたっけ? 細々とありすぎてどれか分かんねぇわ」


 俺が速攻で考えるのを諦めて何気なく澪の方を見ると、ご自慢のキラキラ輝く漆黒の瞳を大きくし、澪もスマホの画面と俺を何度も見ている。

 そして面倒になったのか、友達に断りを入れて此方へやって来た。


「ねぇ直人、少しいいかしら?」

「ああ奇遇だな。俺もお前に用があったんだよ」


 俺も友達に断りを入れてから席を立つ。

 その際に毎回俺が澪といると茶化してくるが、いい加減慣れて、今では軽く流せる様になった。

 

 俺と澪は教室を出ると、中々人が来ない空き教室へと移動する。

 そこの適当な席に座った俺達は、お互いにL◯NEのトーク画面を見せ合う。

 しかし、俺達何方にも全く同じ文が送られていた。


「お前もか」

「アンタもなのね。因みに聞くけど、直人は心当たりある?」

「あると思うか?」

「ないでしょうね。直人が使えないのはいつものことだから」


 いつも通りのすました表情でとんでもなく失礼なことを宣う澪。


 ……コイツは俺を貶さないと気が済まないのだろうか?

 これがバレないとでも思っているのなら、少々……大分俺を舐め過ぎだ。

 

「おいしれっと貶すな。お前も大して使えんだろ」

「へぇ? 私は自分でアンタより数倍使える人間だと思っているわ。まず見た目からレベルが違うもの」

「胸はな———痛っ!?」


 胸はないけどな、と言おうとして、まさかの3文字目に俺の脛への強襲キックが襲いかかって来た。

 恐ろしい反射神経である。


「何か言おうとしたかしら? まさか直人ともあろう者が、女の子の身体的特徴について言及なんてしないわよね?」

「……安心しな! この世には貧乳好きの人も沢山———ぐふっ!! な、慰めてやったのに……」

「慰め方が明らかに違うわよ! 誰が貧乳よ! これでもBはあるんだからね!」


 いやBって世間一般では十分貧乳の部類に入るんじゃ……なんて思ったりもしたが、俺を見る視線が異常に冷たくて顔が怖いので笑って誤魔化す。


「は、はは……で、結局澪もこの怪奇文については何も分からないと」

「もはや隠そうともせず話題を変えるわね。まぁいいけど」


 澪は真面目な顔で、怪奇文と再び睨めっこを始めるが、直ぐに諦めた様に視線を外し、スマホの電源を切った。


「分からないわ。あまりにも情報が書かれて無さすぎ」

「マジそれな」

「それに、『直人と一緒に帰ってこい』が本当に意味が分からないわ」

「ほんとそれな」

「———それな、ばっかり五月蝿いわねッ! もう少しマシな相槌うちなさいよ!」

「えぇ……別に澪だしいいじゃん」

「くっ、あんた……はぁ。取り敢えず今日は一緒に帰るわよ」

「りょーかい」


 と言うことで、俺達は一緒に帰ることになった。









「はぁ……はぁ……はぁ……し、死ぬ……」

「はぁ……ふぅ……ふぅ……な、何で、こんなに急がないといけないのよ……」


 俺達は現在、俺の家の前で息を切らして膝に手を付いていた。

 

 原因は分かりきっている。

 学校が終わると、なるべく早くに教室から出た俺達に、下駄箱辺りから2人のスマホの着信音が鳴り始め、何かと思えば『早く帰ってこい』の嵐。

 アプリを開いていないので、今通知が70件くらい溜まっているが……そのせいで、俺と澪には、確実に2人の親への怒りが溜まっていた。


「……なぁ澪……提案があるんだが」

「奇遇ね。私も提案したいことがあるわ」

「取り敢えずあのバカ達をしばいてから話を聞くのはどうだ?」

「珍しく意見が一致するわね。私も丁度同じことを考えていたわ」


 俺達は覚悟と煮えくりかえる怒りを持って玄関の扉を開き中に入ると、親達がいるであろうリビングに移動。

 そのまま2人で親に蹴りをキメようとして———長テーブルにスーツ姿で座る俺と澪の父親と、その両端でニコニコと笑みを浮かべている母親という構図に気圧されて動きが止まってしまった。


「……待ってたぞ、直人、澪ちゃん」

「父さん? いつものふざけた態度隠して何してんの?」

「待ってたよ、澪、直人くん。ささ、早く父さん達の反対側に座りな」

「お父さん? 何してるのか教えてくれないかしら? そのスーツ何?」


 両方の父親に、それぞれの子供からツッコミが入るが、ガン無視され、俺達が座るまで話さないと言った空気を放っていた。 

 その中で相変わらずニコニコしている母さんと澪のお母さん。


「……どうする? 座らないと始まんなそうだぜ?」

「……座るしかなさそうね」


 俺達はイマイチ状況が理解出来ないままに席に座る。

 すると、俺の父さんが口を開いた。


「俺達天音家と、遠月家で、昔から話し合っていたことがあるんだ」

「昔から僕達が仲がいいのは知っているだろう?」

「それで早速だが、本題に入るぞ」


 父さんと、澪の父さんが一瞬目を合わせたかと思うと———



「「———2人は今日から許嫁だ(よ)」」

 


 訳の分からないことを言い出した。


「「……はい?」」


 俺も澪も全く話について行けずポカン状態である。

 しかし、そんな俺達を置いて、4人が楽しそうに話し出す。


「いやぁーまさか本当に男の子と女の子が生まれるとはなぁ……」

「僕も感慨深いですよ……」

「これで昔から考えてたことが実現———」

「「いやちょっと待て(待ちなさい)!!」」


 盛り上がる4人を俺と澪が止める。

 そして、俺は澪を、澪は俺を指差すと———



「「俺(私)が、澪(直人)と結婚!? 絶対に無理だと思うんだけど!?」」



 全身全霊でそう叫んだ。


——————————————————————————

 これで最初に戻りました。

 次話で話が進みます。

 その次話の更新は18時です。

 是非とも☆☆☆とフォロー宜しくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る