42:ウパの正体
おじいさんと付き添いの男性に案内され、シャコ神殿の奥へと案内される。
海底神殿と比べると内部はシンプルな作りで、入り口から真っすぐ歩くだけで中心部へ辿り着けた。
そこにもクリスタルが大部屋の中心で光り輝いている。
ただ、海底神殿にあったクリスタルよりも深い蒼色をしている。
おじいさんがクリスタルの前に立つと、何か呪文のような言葉を唱え始める。
しゃべっている内容が俺には伝わってこないので、言葉としての意味は無さそうだ。
おじいさんが唱え終わると、クリスタルは徐々に輝きを失っていき、小さく縮んていく。
隣の男性はもちろん、おじいさんも驚いているので何が起こるかは知らなかったのだろう。
たぶん、ウパの先祖と同じ赤髪が来たらこうしろとだけ伝わっていたのかもしれない。
みるみる小さくなっていくクリスタルは、やがて片手で握れる大きさになると、下にある台座に落ちた。
カーンと宝石が落下したような音を立て、光は完全に失われ大部屋は暗がりに包まれた。
ほぼ何も見えなくなったので、俺はブライトボールで大部屋を照らす。
男性はクリスタルに駆け寄り、触れはしなかったが何が起こったのかを大慌てで確認する。
そして、よほどの事態なのだろう。あれだけやさしく補助していたおじいさんに対して、大声で色々と訴えかける。
あのクリスタルは村の守り神で、それがこんなことになって大丈夫なのかと。
やはりおじいさんも伝え聞いた事を忠実に守っただけのようで、男性の抗議に答えることができず、焦燥している。
とりあえずあの二人を止めたいが、俺から話しかけることができない。
すると、ウパがクリスタルの方へ静かに歩き寄っていく。
男性がそれに気が付いて立ちふさがるが、ウパと数秒目を合わせると少し怯えたように道を譲った。
ウパがクリスタルを手に持ち、俺ら四人に見えるように手を広げる。
それと同時に小さくなったクリスタルは少し浮かび上がると、俺らの目の前にウパの先祖を映し出した。けれど、海底神殿の時のような存在感は無く、まるで幻のようにぼんやりとしている。
「ありがとう、バルマの子孫よ。私との約束を守ってくれて」
映し出されたウパの先祖はおじいさんにそう言った。
おじいさんはその言葉に驚き、地面に膝をついて祈るように頭を下げた。
「たしかにバルマはここの開拓者であり、私のご先祖様になります。
それをご存じということは、あなた様は伝え聞いていたカーマ様なのですか?」
「そうです。隣にいるのはあなたの息子ですね。ここを守り続けてくれたことを感謝します」
男性も遅れて膝をついた。
おじいさんと同じようにウパの先祖の話は聞いていて、ようやく実感が湧いてきたようだ。
「そして、私がこうして話をできているということは…」
ウパの先祖が振り返る。
「あなたが新しい私ね」
カーマと呼ばれたウパの先祖はたしかにそう言った。
「新しい私?」
ウパも意味が分からなったようで、首をひねる。
「あの…」
勇気を出してカーマを呼びかけると、彼女は振り返ってくれた。
「あなたはいったい、何者なのですか?」
ウパと姿が似ていたので先祖だということをなんとなく納得していた。
しかしよく考えてみると、この島からやってきて、海底神殿でその生涯を終えたカーマと、何百年とミノコバンパスで暮らしてエルフ達と繫がりがあるのか疑問である。
「本当にウパの先祖なのですか?」
「先祖?」
カーマは少し考えこむ。
「もしかしたらどこかで血筋が繫がっているかもしれませんが、先祖とは違います。
言わばこの子は私の生まれ変わりです。
もっとも、この事を理解したのが死ぬ間際だったので、向こうの神殿の私は知らなかったのです」
「何も言っているのかよくわからないけれど、生まれ変わりということはあなたとウパは同一人物ということですか?」
「いいえ、個体としてはまったくの別人です。
生まれ変わりというのは、私と同じ使命を持った神の使いということです」
ついに神という存在まで登場してきてしまった。
まるで素人が考えた神話を聞かされているような気分だ。
話についていけなくなった俺はウパに問いかける。
「ウパは、カーマが言っていることをわかっていたのか?」
それに対してウパは小さく頷いた。
そこにはなんの感情もなく、ただ事実を伝えただけ。
なんとなくウパらしくないと思った。思い返せば、海底神殿の時から少し変わっている。
これまでの出来事で、ウパが一番衝撃の事実を知らされたはずなのに、特に動揺もせず落ち着いている。
「心配しないで、ウパはウパのままだよ」
頭がぐちゃぐちゃになり不安が顔に出てしまったようで、ウパにそれを悟られてしまった。
しかしウパがそう言ってくれても、俺はもう何も実感できないくらい混乱している。
クリスタルを見つけてから事態は目まぐるしく変わる一方だ。
そもそも、俺が冒険者なれたことすら仕組まれたことで、何が本当なのか疑心暗鬼になりそうである。
フレンさんにバンと背中を叩かれる。
「しっかりして、わからないことがいっぱいあっても、やらなくちゃいけないことははっきりしているでしょ」
喝を入れられたところがジンジンする。
痛みで一旦思考が停止したおかげか、今はスッキリしている。
「………」
「なによ?」
俺がじっと見つめるものだから、フレンさんが少し怯んだ。
こんなにかわいいのに、本当に頼もしい人だな。こうやって支えられるのは何度目だろう?
フレンさんだって、巻き込まれる形で命を狙われるかもしれないのに。
この人の隣にいたい。
そう思うと、ちょっとだけ勇気が湧いてきた。
俺は自分の両頬を思いっきり叩くと、カーマに再び問いかける。
「ウパからだいたいの事情は聞いています。
正直わからないことだらけだけど、本題に入らせてください。
あの老婆…あなたの宿敵に、どうやったら対応できますか?」
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