40:グッドラック

俺とフレンさんもひと眠りする。


感覚的に3時間くらい寝たくらいでウパに起こされた。


お腹がすいたと主張されたので、持ってきた軽食を三人で食べる。




そして、ウパにも聞かなければならない話がある。




「なぁウパ。昨日はいったい何があったんだ?


あのクリスタルの広間に入ってからを、覚えている限り話してくれないか」




ウパは最後の一口を飲み込み、水を口にして頷いた。




「うん、私も話そうと思っていたところ」




三人で向かい合うように座り、ウパの話に耳を傾ける。




「えっと、まずはあの部屋に入ってからずっと頭がぼーとしてた。


夢なのか現実なのかわからない感じ」




たしか、クリスタルから現れたアレは"波長"と言っていた気がする。


意味はわからないが、ウパは何か中途半端な影響を受けていたのだろう。




「それで、急に歌が聞こえていて、そしたら勝手に赤髪になってた。


無理やり変身させられたみたいで、頭がすごく痛かった」




たしかにアレはあの時歌っているような音を出していた。


ここまでは見た通りの内容だ。




「私が苦しんでいる時に、誰かが現れたり、爆発したり、わけわからなくなって…」




老婆やミーヤさん達がアレと戦闘している時だ。


あの間もずっと何かされていたのか?




「突然呼ばれたの。顔を上げたらおでこに何か当たって、そしたら色んな事がわかった」




「「色んなこと?」」




俺とフレンさんの声が重なった。




「うん。例えばー…、あの人は私の先祖だとか」




「先祖?」




ウパの特徴は災いの前兆と記録されていて、それが赤髪のことだと俺らは推測した。


姿も似ていたし、わからなくもない話だが…。




「アレ…あの人はずっと生きていたってこと?」




「ううん、魔力とマナを使って記憶と意識を残していたみたい」




そんなことできるの?というのが正直な感想だ。


そもそも、肉眼でアレを見ていたし、確かにそこに存在していた。


魔力とマナを使えば、肉体も再現できてしまうということ?


そうだった場合、とんでもない発見だ。


ということは…。




「あの老婆が狙っていたのは、ウパの先祖というより保存の技術ってところね」




フレンさんが俺よりも先に言う。




「そう。おばあさんも別の方法だけど何百年と生きているみたい。


あの人は最後に逃げろと私に伝えてきた。たぶん、ずっと追われていて、辿り着いた所があそこで、私を待っていたんだって」




「なんのために?」




「……おばあちゃんを殺してほしいんだってさ」




「殺す!?」




何百年も追い続けてくる相手となると、もう相手を倒す以外逃れる方法が無いのだろう。


でも、本当に可能なのか?昨日の戦いを見た限り、赤髪ウパでも敵わなさそうだが。




「でないと、おばあちゃんが世界を壊しちゃうんだって」




「壊しちゃうって…。方法は何か言っていたのか?」




「言ってない。でも…」




ウパがじっと俺を見る。




「ハリネから離れるなって」




「俺から?」




なんで俺?


魔法使いでもなければ、人の力を借りて冒険者をやっている偽物なのに?


何か理由があるとするならば、それはやはり『幸福な死』か?


しかし、冒険者になるまでの一連の出来事は、あの老婆が仕組んだ必然だったのだ。


そうなると、『幸福な死』という話も嘘である可能性が高い。




「ねぇ、ハリネは何かないの?あの老婆と関係があること」




フレンさんが俺に問いかけた。




「関係…」




二人は包み隠さず打ち明けてくれた。


次は俺の番ということだ。


俺はアルバイトをクビになった晩のこと、フレンさんに冒険に誘われるまでのこと、そして、オラウさんから借りている魔具のことを話した。




「そういうわけで、俺は魔法使いなんかでもなければ、実は冒険者でもないのさ」




できれば隠しておきたかった、情けないすべてをさらけ出した。


でも不思議なことに、そんなに抵抗はなかった。


こんな状況で気にしていられないというのもあるが、きっと俺は二人を信頼しているのだ。




「なるほどね。変わっているとは思っていたけど、まさか偽物だったとは」




「うん、通りでハリネからはなんにも感じないわけだね」




軽い感じで俺の急所を突いてくる。


けれど、そんなことはみんなどうでもよくて、次の話題に移っていく。




「となると、ウパの先祖がハリネと離れるなと言ったのは、やっぱり『幸福な死』ってやつが関係あるかもね」




話も終盤に差し掛かって来たので、フレンさんが出発準備がてら髪を後ろで縛り始める。




「でもさ、それもでたらめなんじゃないの?」




「たしかにそうだけどさ、『幸福な死』に似た話って昔からけっこうあるらしいよ」




「そうなの!?」




まさかそんなものまで知っているとは、フレンさんは本当に博識だ。




「戦乱の英雄、未踏の開拓者、幸運の女神。そういう人たちの話に必ずと言っていいほど出てくる"実は生きていた脇役"。昔はそういう人を敬意と冗談を兼ねてこう呼んだそうよ。グッドラッカーって。


それを本気で研究した人がいたみたいでね。たまたま本があったから読んでみたことがあるんだけど。


結論としては、偶然にしては出現頻度が高すぎるってだけだったけど」




グットラッカー。


運だけはいいやつってことか。


でもまぁ、フレンさんがそう言うならちょっとだけ意味がありそうな気がしてくる。




「それで、これからどうしようか?


話しているだけじゃ、何も変わらないからね」




いつの間にかフレンさんが荷造りを終え、すっと立ち上がる。




「そうだなー、なぁウパ。ここがどこだかわかる?」




「もちろん」




「それも教えてもらったの?」




「うん、行き方もそうだよ」




「で?どこらへんなの?」




「シャコ・ゾウリシゴ」




「えぇ!?」




フレンが悲鳴に近い声を上げる。


今まで落ち着いて話していたのに、びっくりして耳が痛い。




「ど、どうしたのフレンさん?」




「いやいやだって、そうか…あなた偽物だもんね」




俺は悪かったなと心の中だけで反撃した。




「もう少ししたら、Aランク:未開の地への冒険が、大規模で実施されるのは知っているでしょ?」




「まぁ…、ってまさか!」




「そうよ。私たちは海底神殿から、人類に残された最後の地に来ているってこと」

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