第三章
31:ダンジョン攻略へ
エルフの里を出てから数か月。
俺はリゾート地にいた。
サンサンと照らす太陽と澄み渡る空、白い砂浜に青い海。
そして、砂浜で遊ぶ水着美少女と、俺の横でくつろいでいる水着美女。
高そうなフルーツを肴に、これまた高そうな酒を昼間から飲む。
まさか、こんな贅沢ができるとは、夢にも思っていなかった。
「ハリネも海に入ろうよー」
ウパが足を濡らしながら、俺に手を振った。
耳が隠れる帽子をかぶったままなのが少し不自然だが、とても絵になる光景だ。
「行ってきてあげたら?海はおろか、水遊びも初めてみたいだし」
フレンさんが俺の肩をポンと叩く。
さっきまで冷えたグラスを持っていたので、水滴が少し冷たかった。
「そうだな。よーし、いくぞーウパー」
俺は海へとかけて行く。
時は遡ること一週間前。
俺らはオラウさんに招待され、ゴーガンカンパニーが経営するリゾートホテルにやって来た。
そこには、いくつも冒険者パーティーが集められていて、その中にはパークス三兄妹もいた。
話によると、近々実施されるAランク依頼を受けていないパーティーから、ゴーガンカンパニーが選抜した冒険者達らしい。
俺らの場合は、ドラゴンアイの大玉が高評価だったんじゃないかとタンが言っていた。
冒険者が集められた理由は、合同のダンジョン攻略を実施するため。
なんでも、観光地の目玉となっていた海底神殿に、さらに深い階層があることが判明。それと同時にモンスターも沸いて出るようになったので、早急に解明、攻略してほしいのだと。
世界的カンパニーなだけあり、成功報酬だけでなく、武器や防具を買え揃えるお金まで用意してくれている。
俺に至っては個別面接中に、新しい魔具まで支給してもらっている。
いくつものパーティーが分担して、安全を確保しながら探索するわけだから、危険度もグッと下がる。
初めてのダンジョン攻略としては、これ以上の条件は無いだろう。
ダンジョン攻略が始めるのは二日後。
今日一日は、思いっきり羽を伸ばせる。
「あははー、やったなウパ」
「やめてよハリネー。あはは」
くぅ、楽しいなぁ。
お昼ごはんも砂浜付近になるカフェで優雅にいただく。
「なにこれ!おいしい!!」
「ハンバーガーっていうんだ。あんまり大口で食べると口が汚れるぞ」
「ふふ、すっかり親子みたいね」
フレンさんも心なしか楽しそうにしている。
いつも明るく接してくれているが、少し気丈に振舞っているような気もしていたので、どこか安心した。
「あの、すみません」
わいわいと食事をしていると、誰かがやってきて声をかけられる。
リゾート地には似合わない騎士のような装備をした女性と、ロングコートを着て襟で口元を隠している男性だった。
「もしかしてハリネさん達ですか?」
女性が俺の目を見て問いかける。
「はい、そうですが?」
「やっぱりそうでしたか。私たち、皆さんと同じ班になる"閃光"という二人組パーティーです」
女性は軽く会釈をし、男性は少し頷く。
「あー、話は聞いていました。まさか最近話題のパーティーと組めるなんて、私たちとしても幸運です」
フレンさんがそう言いながら、握手を求める。
女性はその手に視線を落とし、それに答えた。
そして、今度は俺に手を差し出す。
俺は右手を軽く拭いてから手を伸ばすと、女性の両手にがっちりと握られた。
「私、ミーヤといいます。それでこちらがゴルデ。
どうぞ、よろしくお願いします」
フレンさんの時とはあきらかに態度が違う。営業スマイルとも思えない満面の笑み。
「そうだ。もしよろしければ、このままご一緒させていただけませんか?」
俺はフレンさんとウパの顔を伺った。
ウパはよくわからないという顔をしていて、フレンさんはちょっと嫌そうだった。
だが、断る理由もなく、同じ班なのだから交流を深めておくのはよいと思い、一緒に食べることになった。
ミーヤさんが俺の隣に座り、ミーヤさんの向かいにゴルデさんが座る。
「フレンさん、最近話題って言っていたけど、どういうこと?」
「…うん、まだ冒険者になって間もないのに、依頼を鮮やかにこなす美形二人組がいるって耳にしたことがあるんだ」
言われるまでもなかったが、たしかに美男美女である。
フレンさんのような美しさでもなく、ウパのような可愛さでもなく、かっこいいという表現がしっくりくる顔立ちだった。
「たしかに、二人ともかっこいいし、人気が出そうですね」
「ありがとうございます」
そう言いながら俺との距離を詰め、目を見つめてくる。
なんだ、この人は?
美女に近づかれて嬉しいのだが、なにか不自然である。しかし、ゴルデさんの様子を見るに特に変わった様子では無さそうだった。
その隣にいるフレンさんを見ると、俺かミーヤさん、もしくは両方を軽蔑するような目になっている。
俺の隣にいるウパに腕を取られたので見てみると、こちらもやや不機嫌な態度になっていた。
「あ…あの、俺に何か言いたい事があるというか、思うところがあるというか、急にどうしたんですか?」
なぜか急に綱渡りでもしているような感覚に陥る。
「よくわかりましたね。さすがです」
ミーヤはそう言って手を合わせ、尊敬するような眼差しを向ける。
「実は私たち、ハリネさんのファンなんです」
「………えっ?」
「私は年上がタイプってこともあり、ここへ来た時に見かけてから気になっていて、班の話を聞いた時は絶対にあの人だと思いました。
まだ冒険者になりたてなのに、ギガオウルを倒して、ドラゴンアイを入手している。
しかも、魔法使いとしてかなりの実力者。
おまけに、ゴーガンカンパニー社長の恩人でもあるとか。
尊敬しちゃいます。もしかしたら、これは何かの縁かもしれませんね」
ミーヤさんは首を少し傾げながらニコっと笑う。
人は一生の内に三回モテ期があるという。
ただ、俺の場合モテ期の効果が小さすぎて、気が付かない内に終わっていたと思っていた。
まさか最後のモテ期が、まだ残っていたとは…。
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