32:来客
その後、俺は終始ミーヤさんから質問攻めにあった。
俺の生い立ちから武勇伝まで、まるで有名人にでも会ったかのようなテンションだったと思う。
純粋に俺を尊敬してくれているなら気持ちよかっただろうが、ミーヤさんが尊敬しているのはあくまで冒険者魔法使いであり、それは俺の偽りの姿なので誤魔化すことで精いっぱいだった。
ただでさえ、フレンさんとウパの機嫌がよくなかったので、せっかくモテたのに何も楽しくなかった。
「それでは、また」
30分くらい話して、二人はどこかへ行ってくれた。
俺だけのごはんが残り、すっかり冷めている。
「………」
お腹いっぱいだな…、色々な意味で。
「よかったね。楽しそうなメンバーで」
フレンさんがトゲトゲしく言う。
嫉妬故だと思いたかったが、これは絶対にミーヤさんが気に入らないからだ。
あんな露骨な態度を取られては、誰だって面白くない。
ウパもすっかり飽きて、外をぼーと眺めている。
「ま、まだ時間もあるし、もう少し遊んでいくか?」
俺は早くこの空気を流したかった。
ウパはそれを聞いてこっちを向いてくれる。
「いく。あの遠くにある島に行ってみたい」
ウパがひと泳ぎすれば辿り着けそうな位置になる小島を指さした。
「いいんじゃないか。面白そうだ」
ウパは泳げないし、俺も得意ではないが、あの距離なら浮き輪一つで行けそうだった。
「私は遠慮しておく。海水ってちょっと苦手だし、ダンジョン攻略の準備しているわ」
フレンさんはそう言って席を立った。
「そう?」
「ほしい道具がなかった場合、ゴーガンカンパニーに相談したいから、早めにやらないと」
本音っぽかったので、避けられたわけではないことに安堵する。
フレンさんは更衣室へ向かい、俺たちは小島まで泳いだ。
ウパに泳ぎ方を教えながら遊んでいると、ウパはあっと言う間に習得して、帰りは浮き輪なしで戻って行った。
これが若さか?などと自分の老いを目の当たりにされ、感慨深くなる。
そして、晩ごはんを食べ、リゾート地らしくショーなどを鑑賞して、俺は女性陣と別れて自分の部屋へ戻った。
海水浴の後に体を流したので、そのままベットへダイブする。
ふかふかベッドと程よい疲れで気持ちよくなる。このまま眠ってしまいそうだった。
そういえば、昔こうやって海に家族旅行で来たことがあったな。
遊び疲れた体が、少年時代の記憶を呼び覚ます。
今思えば、あの頃はどこへ行くにも冒険のようだった。
旅館は住んでいた町のどの建物よりも高く、海はどこまでも広く感じた。あの時食べた料理の味を今でも思い出せる。
見る物すべてが新しく、一日が本当に長かった。
俺は仰向けになり、天井をぼんやり眺める。
その感覚が、今になって戻ってきた。
遊びではないから、痛い思いもつらい思いもたくさんあった。
でも、あの頃のように、明日を楽しみにしながら眠る毎日。
充実しているの一言に尽きる。
『幸福な死』
俺は今、それに向かいながら生きているのだろうか?
コンコン
ドアがノックされた。
ウパが遊びに来たのか?と思いながらドアを開ける。
そこに居たのは、ミーヤさんとゴルデさんだった。
二人とも普段着になっていて、昼間に会った時とは全然違う印象を受ける。
特に、あまりよく見えなかったゴルデさんの顔に驚いた。あまりにも美形、男の俺でも少しドキッとしてしまった。
「こんばんは」
「こ、こんばんは」
「急にすみません、ハリネさんとゆっくりお話しがしたくなって、お邪魔だったりしますか?」
ミーヤさんがそう言うと、ゴルデさんが手に持っている食べ物や飲み物を見せてくれた。
何やらおいしそうな物がちらほら。
「大丈夫ですよ、あとは寝るだけでしたし、フレンさん達も呼んで来ますよ」
「うーん、そうではなくてですね」
「…?」
「ハリネさん個人とお話ししたいんです。私たちだけじゃダメですか?」
うぐっ、なにやらすごい事を言い出した。
まさか、こんな露骨にフレンさん達を避けてくるとは思いもしない。
フレンさんとウパの事を考えるなら、ここは無難に断った方がよさそうだが…。
「そんなに長くは居座りませんから、いいじゃないですか」
などと明るく言って、ミーヤさんは俺の部屋へ入ってきた。
続いて、ゴルデさんも一礼して中へ入ってくる。
その際、就寝中の札がドアに取り付けられたのだが、俺は気が付かなかった。
強引にとはいえ、ここまで入り込まれてしまうと断りづらい。
ミーヤさんが椅子に座ると、持ってきた物を広げ、コップにお酒を注いでいた。
「どうぞ」
俺はそれを受け取り、ベッドに座る。
なんだか信用できないが、ちょっとだけと言っていたし、俺はしかたなく付き合うことにする。
「かんぱーい」
三人で杯を交わし、コップに口を付ける。
「うぐっ」
それは相当強いお酒だった。
二人は半分くらいを一気に飲んでいる。
「ぷはっ、あれハリネさん。もしかして、お酒はあまり得意でなかったです?」
「いや、たぶん君たち二人が強いんだと思う」
「そっか、じゃあこっちの方がよかったですね」
「いや、飲めなくはないから、これはいただくよ」
「ふふ、いいですね」
この二人、未だにどういう人間なのかわからない。
俺のファンだと言うが、あまり敬われている感じもしなくなってきた。
「それで、昼間の話の続きなんですけどー…」
再び、俺の話が始まる。
始めはテンション低めだったが、強いお酒で酔いが早く、次第にテンションがおかしくなっていく。
余計なことをじゃべらないように気を付けないと。
それを念頭に、頑張って正気を保とうとする。
「ちょっと、暑くなってきたね」
そう言ってミーヤさんは首元を仰ぐと、上着を脱ぎ出した。
胸は隠れていたものの、ほぼ下着である。
俺の頭がクラッとした。
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