29:ウパの決意

あれから俺たちは、タン達もつれてエルフの里へ戻った。


彼らは相当驚いていたが、俺らの前置きをしっかり理解して、他言無用を約束してくれた。


俺らに、エルフの里を隠す義理があるのかはわからないが、何百年もここで平穏に暮らしているなら、このままの方がいいのではないかと思う。


タン達も信用できる冒険者のようだし、これからもここは伝説のまま続いていくだろう。


ただし、フレンさんのホラ話はしばらくいじられた。




ウパの家には、あと三人増えても十分な広さがあり、外の世界へ帰れるだけの体力が戻るまでお世話になった。


特にスイはエルフの里にかなり興味を持ったようで、家にある書物をずっと読んでいた気がする。




また、その間にドラゴンアイの分配も決まり、


結果としては、大玉一つを俺たちが、小玉全部をタン達が取ることになった。


フレンさんのそもそもの目的が大玉であり、俺の頑張りとウパの活躍も考慮され、タン達もすんなり了承してくれた。


彼らとしても、総量が多い方がよかったらしい。




そして、外の世界へ帰る日の前日。


俺とフレンさんは、ウパの事について話し合っていた。




「………」




と言いたいのだが、まずどこから手をつけてよいのかわからない。


ウパが拒否すればそれで済む話なのだが、行きたいと言われた場合どうするのか?


冒険者の立場で言えば、赤毛ウパは戦力としてほしい。なんと、あれからウパは自由に変身して、力を使えるようになっていたのだ。


ウパが言うには、空間を操る能力らしく、それが無意識に働いて昔の奇行に繋がっていたということらしい。森で迷わないのも、マナを感じられるからだけではなかったようだ。


ただ一般的な大人の立場で言えば、ルパさんが望んだ事とはいえ、親子を引き離すことはなかなかできない。




「もういっそ、ウパに決めさせてもいいんじゃないか?」




素直に言って、ウパに情を持ってしまった俺は、ウパが望むならそれでもいいのではないかと思った。




「まぁ、それは私も思っているんだけど…」




フレンさんも概ね同意だが、引っかかる所があった。




「もしも、ウパがエルフだって世間に知られたら、私たちもがっつり巻き込まれる。


最悪の場合、全員冒険どころじゃなくなってしまうかもしれない」




それについては何も言えなくなる。


フレンさんに迷惑はかけられないので、俺とウパで人里離れて生きていくという手もあるが、それではここに残るのとあまり変わらない。


なにより、ここで冒険者であることを手放すのもおしい…。




「フレンさんは、リスクがあるから無理ってこと…かな?」




「そこまでは言っていないけど…」




フレンさんとしても、ウパのことを考えて悩んでいる。




また沈黙が訪れる。


長いこと黙っていると、ウパが俺らのところへやって来た。




「ウパ、ど…どうしたんだい?」




話題を悟られたくない気持ちから、不自然な態度になってしまう。




「あのね」




ウパもなんだかしおらしく、遊んでいた感じではなかった。




「私、ここから出ようと思うんだ」




いきなり気になっていた真相が明るみになる。




「ど、どうしたんだい急に?」




その理由は、ウパ自身も要領を得ない内容だったので、聞き出すのに時間がかかったが、簡単に言うとこういうことのようだ。




まず、ホワイトドラゴンを殺してしまったことで、この森はこれから大きな変動が起こるらしい。空間能力で、色々な所でモンスター同士の争いが起こっていることを感じると言う。


フレンさんの考察では、ホワイトドラゴンを頂点にこの森のバランスがとれていて、ドラゴンアイは寿命で死んだ亡骸から偶然拾ってこれていただけじゃないかとのこと。


その争いに、能力に目覚めたウパが巻き込まれるのは時間の問題らしい。ウパが負けることはないが、実際に決着をつけなければいけないのが自然界。エルフの里で戦闘になるのは避けられない。




災いとはこの事を指していたのだろう。


たぶん、ウパと同じ能力に目覚めた昔のエルフが、一度変動を起こしていたのかもしれない。


昔から人間と交流がなかったことを考えると、ハーフであることは関係なかったかも。




「もしかしたら、外の世界でも戦いになるかもしれない。


私は外の世界を知らないから迷惑をかけるかもしれない。


でも、ちょっと間だけでいいから、私も連れて行ってくれませんか?」




ウパは顔を赤くして涙を流していた。


理不尽な思いも、寂しい思いも、申し訳ない思いも、全部押し殺して頭を下げている。


その姿に俺は感動していた。同じ立場になった時、俺は同じようにできるだろうか?




「うわーん」




そんな健気なウパとは対照的に、フレンさんが大声で泣く。


そして、ウパを強く抱きしめると、力強くこう言った。




「ウパはもう私たちの仲間、パーティーだよ!


お母さんと離れるのは寂しいかもしれないけど、これから一緒に冒険しようね」




「…フレン」




ウパは相当我慢していたんだろう。


もらい泣きをして、二人でエンエンと鳴き続けた。




これでウパの今後が決まった。


あとはルパさんだ。


ウパの旅立ちを望んでいたが、このまま何もなく別れていいのだろうか?


あの親子が会うことは、きっと二度と来なくなる。v

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る