28:赤毛の魔術師
「ごほっ…ごほっ」
呼吸が戻ってくる。
視界もクリアになっていき、状況が少しずつだがわかってくる。
フレンさんとパークス三兄妹がいて、となると、やっぱりあれはウパだ。
髪色が変わり、少し伸びているか?
でも間違いない。
ウパは右手をホワイトドラゴンの方へかざすと、ゆっくりと歩き始める。
それを見たホワイトドラゴンが、小さくだが怯えた声を出す。
俺を吐き出させてくれたのも、ウパ?
ホワイトドラゴンが完全にウパに気を取られているのがわかった俺は、少しでもホワイトドラゴンから離れることに努めた。
「ェア…ライド…」
どこに飛ぶかわからなかったが、俺はホワイトドラゴンの下をくぐり、ウパを含めて正三角形ができるくらいの位置に転がる。
「ハリネ」
フレンさんがこちらへ駆けつけてくれる。
「ホオジ山の時と、同じことできる?」
俺は黙って頷いた。
フレンさんは栄養ブロックの在り処を覚えていて、すぐに取り出してくれる。
袋から取り出すと、それをかじる。
水筒を少し飲むと、あの時と同じように口移しで与えてくれる。
「ファスト…リカバリ」
みるみる体が楽になっていく。
もしかして、俺は冒険の度に重症になるのだろうか?そんな予感がした。
「いったい、何があったの?」
俺はウパを見ながら、フレンさんに聞いた。
「わからない。
あなたが食べられた後、ウパが叫び出して、そしたらあの姿に…」
ウパとホワイトドラゴンの距離が詰まる。
ホワイトドラゴンが一鳴きすると、タン達を倒したあの白い球を出した。
それがウパを包囲するように回り始めると、次々にウパへ襲い掛かる。
「ウパっ!!」
俺は叫んだ。
今度は、衝突と共に爆発が伴っていて、煙が上がりウパの姿が見えなくなる。
ダンッ!!!
大きな衝突音と共に、あれだけたちこめていた煙が一瞬で消える。
ホワイトドラゴンの頭は跳ね上がっていて、限界まで反り返り、力無く地に落ちた。
その目の前に、右手を上にかざし、ホワイトドラゴンを見下すウパ。
「よくもハリネを!!!」
ウパの絶叫と共に、空中に無数の穴が開いた。
その奥は夜空のように小さな光が見えたが、底知れない怖さがあった。
そして、その穴からホワイトドラゴンへ目掛けて赤い光線がはしる。
グワアアアアァァァァア!!
ホワイトドラゴンが叫ぶ。
赤い光線は翼や腕に穴を開け、体や頭は貫通しなかったものの、火花を散らし痛め続けた。
光線がやみ、空中の穴が閉じると、今度はウパの前に巨大な魔方陣が広がっていく。
ウパがその中心を指で触れると、魔方陣からさらに巨大な赤い光線が出る。
ホワイトドラゴンが吹き飛ばされ、遠くの壁にめり込み、動かなくなった。
ウパが両手を前に突き出す。
「ウパっ!」
トドメをさすつもりだとわかった俺は、ウパを止めるために叫んだ。
俺自身にも理由がわからなかったが、このままウパに殺しをやってほしくなかった。
しかし、ウパには俺の声が届いていないようで、見向きもしてくれない。
「フレンさん、俺、ウパを止めに行きます」
フレンさんとは一瞬目があっただけだったが、俺の意図は伝わったようだ。
俺に肩を貸してくれて立ち上がらせてくれる。
俺が一人で立てることを確認してくれると、タン達の方へ後ずさった。
「エアライド」
俺はウパの所へ飛ぶ。
傍まで来るが、まだこちらを見てくれない。
ウパの周りだけ気温が高くなっていて、肌がチリチリする。
「ウパっ!」
肩に手をかけるが、まったく反応してくれない。
なんだこれ?
何がどうなっているんだ?
ルパさんから聞いた災いという言葉が頭を過る。
このままじゃダメだ。
俺はウパの前に立ち、両手首を掴む。
そして、おでこが当たるくらい顔を近づけ、目を覗く。
「ウパっ!」
目が俺と一切合わない。
それどころか、ウパの歩に押されている。
何か、何か手はないのか?
意識を逸らせるような、衝撃的な何か。
頭に浮かんだのは、たった一つの思い出。
こんな時にそんな事を考えている時点でどうかと思ったが、他に思いつくものもない。
えーい!なるようになれ!
俺は覚悟を決める。
ウパに口付けをし、ウパの背中へ手を回すと抱き上げる。
そして、左手をお尻へ持っていくと、思い切り掴んだ。
「ひゃん!」
聞いたことがあるウパの声がした。
赤いオーラはいつの間にかなくなっていて、髪色がだんだん元に戻っていく。
「ハ…ハリネ…?」
無垢でかわいいあの瞳が帰ってきていた。
よかった。効果がある気が全然しなかったが、うまくいって本当によかった。
おの夜、ウパはとにかくお尻が敏感だった。
言葉が届かない。目も合わない。
そうなったらもう、一番反応がすごかったこれしか思いつかなかった。
「ウパ!よかった」
思わず泣きそうになる。
「私…」
何かを言おうとして、ウパは気絶した。
「おい!ウパ!」
必死に呼びかけるが反応がない。
「ちょっと見せて」
フレンさんが素早くやって来てくれる。
呼吸や脈を手早く確認すると、緊張していた顔が緩んだ。
「大丈夫。気を失っているというより、寝ている状態かも」
何が違うのかわからなかったが、とりあえず無事であることを俺は喜んだ。
「お前も大丈夫なのか?」
タン達もかけつけてくれる。
「あぁ、魔法である程度怪我を治してある。
それよりも…」
俺はホワイトドラゴンの方を見た。
まだ気を失っているのか、動き出す気配がない。
「俺らがトドメをさしていいか?」
タンが、サンとスイに目配せをしながら言う。
「できるのか?」
「あぁ、気絶している今なら。本当なら毒殺なんてしたくないけど」
固い外殻に守られていても、ホワイトドラゴンといえど生き物。
内側から内臓をやられればただではすまない。
フレンさんは黙っているが、それしかないと判断したようで、ゆっくり頷いた。
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