27:冒険者の覚悟
フレンさんは気を失い。
タン達も倒されてしまった。
俺はなんとか動けそうだが、冒険者達が太刀打ちできない相手に、いったい何ができる?
魔具だって万能ではない。
俺一人逃げるくらいならできそうだが…。
「ウパ、これを持って逃げるんだ」
俺はウパにシェルタートルを渡した。
鍾乳洞の入り口をインプットしてある。距離と時間を稼げれば、ホワイトドラゴンがウパを追いかけるのをやめるかもしれない。
「ハリネは?」
「俺は…」
変な気分だった。
普通だったら我先にとシェルタートルに入って逃げるところなのに。
あんなに怯えていたのに、今は妙に冷静だ。
ウパを守りたいのか?
フレンさん達を見捨てられないのか?
冒険者として腹をくくったのか?
短かったけど、いい夢を見れた気がする。
こんな気持ちで死ねるなら、悪くないかもしれない。
死。
『幸福な死』。
犬死にしかならなそうだが…。
俺なんかがホワイトドラゴンに勝つために賭けれそうなもの。
「いいか、すぐに逃げるんだぞ」
俺はウパの頭を撫でる。
「うおおおぉぉ!」
サンダーを連射しながら、俺はホワイトドラゴンへ特攻した。
見るからに効果は無く、目くらましにもなっていない。
「エアライド」
エアライドの機能を応用して、横に素早く飛ぶ。
あまりの速さにバランスを崩したが、見事ホワイトドラゴンの真横をとる。
「ブリザードランチャー」
手首に付けている腕輪から、氷の矢がいくつも発射される。
氷の矢がホワイトドラゴンに当たると、そこからどんどん氷漬けにしていく。
さすがのホワイトドラゴンもそれを嫌がり、体を振って取り払おうとする。
その隙に、俺はタンにファストリカバリをかける。
「動けるな?フレンさん達を連れて逃げてくれ」
「お前は…」
俺はタンの言葉を聞かずに、サンとスイの所にも向かい、治療していく。
「ブリザードランチャー」
さらに追い打ちをかけていく。
次に何か攻撃されたら、そこですべてが終わってしまう。
「ヒューズセイバー」
テープをエアライドでホワイトドラゴンの目の前へ飛ばし、爆発させる。
俺の時間稼ぎのかいもあり、タン達はフレンさんとウパを連れて出口へ向かっていた。
どんなに無様でも、生きて帰るのが第一。
会ったばかりの俺を気遣い、俺が望んだ最善の行動をとってくれている。
さすが冒険者、かっこいいな。
「ハリネ!」
フレンさんの声が聞こえた。気が付いたようだ。
思っていたよりもうまく事が進んでいる。
これなら俺も逃げられる。
そう思った瞬間、突風が俺を襲う。
ホワイトドラゴンが翼を広げ、氷や煙を一気に払いのけていた。
そして、青い目が俺を見据える。
死の予感がした。
「タイプスペル:リフレクト」
俺が手をかざすと、向かってきた力を跳ね返す、半透明の壁が現れる。
ホワイトドラゴンが広げた翼で勢いをつけ、俺へ目掛けて突進してきた。
リフレクトと衝突すると、もの凄い音を立てて火花を散らす。
耐えたように思えたが、俺の体が徐々に押され始め、ついには浮いてしまう。
ホワイトドラゴンの力が、リフレクトの能力を上回っていた。
俺は再び壁に叩きつけられる。
しかも今度は、ホワイトドラゴンが俺を押し潰そうとしている。
グローブが熱くなり、ギチギチと動き始める。
こ、壊れる。
ホワイトドラゴンがダメ押しに腕を使ってくる。
その腕が、リフレクトを破って俺を捕まえた。
「はぐぁ…」
壁とホワイトドラゴンの腕に挟まれ、体が潰れたかと思った。
体がまったく動かない。骨が折れたような鋭い痛みを全身に感じる。
「ハリネ!!」
ウパの叫び声が届く。
ホワイトドラゴンが腕を引くと、俺は地面に落ちた。
受け身を取ることもできず、嫌な音がする。
「いやぁぁぁぁ!」
ウパの絶望の声がする。
ホワイトドラゴンが口を開け、俺にトドメをさそうとしている。
さぁ、『幸福な死』よ。
俺を。
守ってみせろよ。
「…エアライド」
俺はウパ達とは逆の方へ飛んだ。
彼らなら逃げきれる。
あとは俺が俺をなんとかするだけ。
急に辺りが暗くなった。
地面と天井が急に俺の近くにある。
目の前に、鋭い牙のようなものが並んでいる。
「あっ…」
気が付いた時にはすべてが遅かった。
俺は、ホワイトドラゴンに丸飲みにされた。
エアライドが思っていたよりも速度が出なかったおかげか、牙が俺を押し潰すことはなかった。
しかし、まるでパイプにむりやり押し込められるように、足の先から吸い込まれていく。
狭いを通り越して痛い。
真っ暗い中、身動きはおろか、息をすることもできない。
絞られるように体が締め上げられ、もう手足がどこにあるのかさえわからなくなる。
嫌だ。嫌だ。嫌だ!
ちょっとでも希望を見てしまったばかりに、恐怖が俺を支配する。
死にたくない!
でも何もできない。
いのまま黙って苦しみながら死んでいくことしかできない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ!
気が狂いそうな苦痛。
本能がそれから逃れようと、意識が次第に薄れようとしていく。
が、それも束の間。
いきなり体を大きく揺さぶられると、今度は頭から引っ張られていく。
急に体が楽になるのを感じると、固い何かにぶつかり、俺は吐き出されたことを理解した。
なんとか目を開ける。
少し遠くに、まるで炎が揺らめいているようなオーラが目に入る。
その中心には、髪を赤く煌めかせる女の子がいる。
………ウパ、なのか?
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