26:絶対絶命

炸裂音が響き終わり、煙も見えなくなった。


予想を裏切り、ヒュースセイバーは岩を切断するどころか、亀裂すら入れていなかった。




「うそ、今ので全然ダメなの?」




フレンさんも驚きを隠せない。




「威力も十分に見えたが、俺らが思っている以上にこの岩が固いみたいだな」




タンが岩を叩きながら言う。




「えー、じゃあどうするの?」




「このまま手ぶらで帰るの?」




サンとスイも、目の前にあるドラゴンアイを諦めなければならない状況に泣く。




俺は他に手がないか考えるが、威力が強すぎて使えない物を一つ思い付いたくらいで、あとはまったくダメだった。




しんと静まり返る。


小説のように、宝物が宝箱に入っているとは限らない。


ひょっとしたら、実物をちょっとでも拝めただけ、ラッキーだったのかもしれない。




さすがにここは引き返すしかないか。


誰が何を言うまでもなく、俺らはドラゴンアイに背を向ける。


無くなったわけではない。まだチャンスはある。




皆が次の手を考え、ここを後にしようとする中、一人まだドラゴンアイを見つめる者がいた。




「ウパ?」




俺はウパの肩を軽く叩いた。


しかし、ウパは反応してくれない。




俺もドラゴンアイの方を見る。


特に変わった様子はない。




「なにか…来る?」




ウパが怯えるように言った。




「えっ?」




うまく聞き取れなかった俺が聞き返した時、地面が揺れた。


地響きを鳴らし、砂利が上から降ってくる。




「地震だ!」




俺らは身を低くして、揺れをやり過ごす。


こんなところでさらに大きく揺れたら、生き埋めになってしまうかもしれない。


嫌な事ばかり考えてしまい、動悸が激しくなっていく。




すぐに揺れは収まった。


一時はどうなるかと思ったが、何事もなかった事に安堵する。




「ちょっと!あれ!!」




スイが指をさして大声を出した。


その先に目を向ける。




「ド、ドラゴンアイが…」




岩に埋まっていたドラゴンアイが、まるで目を開くように少しずつその姿を現していく。


しかも、その数は5つを超えている。




ドラゴンアイ。


透き通る青に包まれた、瞳のような漆黒。




ヒュースセイバーでも傷つけられなかった岩が、少しずつ動き始める。


岩の表面がボロボロと崩れ落ちながら、一歩、また一歩と壁の中から這い出て来る。


足や首を伸ばすと、パキパキと音を鳴らし、固まっていた皮膚が波打つ。


まるで脱皮するかように、一匹の巨大モンスターが、俺らの前に姿を現した。




顔の正面に大きな一つ目。


その両側にいくつも小さな目があり、長い角とするどい牙。


体は美しいほどに白く、全身を覆い隠せるほど大きな翼は、まるで彫刻のようであった。




そのモンスターは、静かに頭をこちらに向け、俺ら一人一人を観察する。




逃げなきゃ…。




頭の中で何度も自分に命令する。


でも、あの青い眼差しから目が離せない。


これは間違いなく恐怖。その姿を見ただけで、俺は自分の死を感じ取ってしまっている。


俺の何倍も大きいからだけではない。俺を殺せる武器を持っているからだけではない。


生物としての格の違いを、本能が認めてしまっている。




そのモンスターはホワイトドラゴン。


ドラゴンアイは、本当に竜の目のことだったのだ。




「マジかよ…」




タンがなんとか一言絞り出す。


さすがのフレンさんも、この状況を把握しきれず茫然としていた。




「…リネ」




どこからか声がする。




「ハリネ、逃げなきゃ」




聞こえてくる言葉の意味を理解できて、はっとする。




「に、逃げるぞ!!!」




俺は全力で声を張り上げた。


それが全員に届き、止まっていた時が動き出す。




しかし、それと同時にホワイトドラゴンも動き出す。


大きな目が瞬きをし、軽く息をすると、咆哮と共に衝撃波が俺らを襲った。




俺は壁に打ち付けられ、一瞬目の前が真っ暗になる。


肩から地面に落ち、自分が倒れていることを自覚すると、全身に痛みが走り、息ができないことに気が付く。




「ハリネ!!」




とっさに庇ったウパは無事だったようだ。


ついでにブライトボールも俺をクッションにしたみたいで無事だった。




「がはっ!」




ようやく呼吸ができるようになってくる。


よろとろと上体を起こし、フレンさんを探す。


同じように壁に叩きつけられ、壁にもたれるように倒れていた。




(フレンさん!)




トークレスで呼びかけるが反応が無い。


気を失ってしまったのか?




「ぬおおおぉぉぉ!!」




雄たけびをあげ、タンがホワイトドラゴンへ向かっていく。


それをサポートするように、サンとスイが銃と爆弾で先に攻撃する。


銃声と爆音を響かせ、攻撃は確実にヒットしている。


そこに、煙を引き裂くひと振りが、さらにホワイトドラゴンをとらえる。


凄まじい金属音がした。


ホワイトドラゴンの頭が下がり、一歩後ろに後退する。




ダメージがあったように見えるが、微々たるものだった。


ホワイトドラゴンは軽く首を振ると、先ほどと同じように雄々しく立ちはだかる。




三人は的を絞らせないために、散開して攻撃をし続ける。


ホワイトドラゴンの動きは鈍く、攻撃しようとする頃にはすでにタン達は視界から姿を消す。


先ほどの咆哮をしようとすると、三人で頭を集中攻撃して防ぐ。




一見圧倒しているように見えなくもないが、ホワイトドラゴンが弱っているようには見えなかった。




俺も早く参戦しないと…。


俺は震える足を抑え、痛みを我慢して立ち上がる。




「ダメ!」




ウパが俺の服を掴み、俺の参戦を拒む。


ウパに気を取られた瞬間、タン達の方から白い光が入る。




ホワイトドラゴンの周りに、無数の白く丸い光が浮かび上がる。


それらは、ホワイトドラゴンの周りを回り始めると、その勢いのままタン達にぶつかっていった。




「ぐわああぁぁぁ!」




白い球に何度も打ちのめされ、タン達は叫び声と共に地面に転がった。




残る敵は俺一人。


大き目が俺を捕らえる。

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