25:ドラゴンアイ
「っていうか、その耳、エルフみたいだな」
タンは核心をつく。
サンとスイもまじまじとウパを見つめた。
ウパがゆっくり近づいてくる。
俺は何か誤魔化せないかと考えたが、何も頭に浮かばない。
「違うよ」
ウパは三人の目の前まで行くと、きっぱりとエルフであることを否定した。
「ほら、ちゃんとよく見て」
ウパが右耳を三人に向ける。
「あれ?普通の耳だな…」
タンはそう言って、目を近づける。
ちょっと離れた所にいる俺には、今まで通りエルフ耳が見えている。
「見間違えか…たしかにそう見えたんだけどな」
タンは不思議そうにしている。
「まぁいいか、じゃあ、なんで子供をこんな所につれてきているんだ?」
「それは…」
俺が言葉に詰まっていると、フレンさんが三人へ近づく。
「それは先に進みながら説明するわ。ハリネ、ちょっとだけウパと一緒にいてあげて」
フレンさんが三人を押すようにして前へ進ませる。
「あんまり、あの子に聞かせたくないの…」
まるでウパを不憫に思い、気遣ってあげているような演技。
どんな嘘を話すのか気になるが、俺にはもう聞こえないくらい距離をあけられてしまった。
俺はウパの耳を再び確認する。
やっぱりエルフ耳だった。
「なぁウパ、あの人達に何かしたのか?」
「へへ、私が擬態したんだよ」
「擬態?」
「エルフは自然の民。生き物も自然の一部。ちょっとだけなら同種に見せかけることができるんだ。
エルフだってバレていると、使えないけどね」
エルフってそんなこともできたんだ。
たまに見せるこの神秘的な能力が、伝説を色褪せさせない。
「…というか、ウパは俺らがエルフでないことを知っていたんだな」
「うん」
「そっか」
「おじいちゃんに教えてもらったんだ。私のパパはヒューマンだって。
まだ小さかったから、ほとんど覚えていないけど、
私がエルフとヒューマンのハーフである事実が、いつか必要になるって言っていた」
必要になる時。それが災いを指しているのだろうか?
「ハリネが空から降ってきた時、もしかしたらと思っていた。
それでね…」
ウパが急に顔を赤らめて、俯いてしまう。
「昨日の夜ではっきりした。
ハリネはヒューマンで、私はエルフのハーフであることが…」
もじもじと話すウパに影響され、俺も昨晩のことを思い出してしまう。
でも、その中で一つわかった事があった。
ウパは人間とのハーフだから、人間の男である俺も対象に含まれた故に、あんなことに…。
きまずい空気の中、二人で沈黙していると、フレンさんを置いてパークス三兄妹がこちらへ戻って来る。
サンとスイがウパを両側から抱きしめ、タンはウパの頭をやさしくなでた。
「今まで…よく頑張ったな」
三人は何かに感動している様子だった。
フレンさんはいったい、ウパにどんな設定を背負わせたのだろうか?
ウパもわけがわからずポカンとしている。
「強いなお前は、尊敬に値する。約束しよう。俺らが絶対に家へ帰してやるからな」
タンは背を向けながら、かっこよく宣言する。
「う、うん…」
なんで家に帰るだけの事に、こんなに熱くなっているのだろう?
ウパの表情がそう語っていた。
(いったい、どんな話をしたんだ?)
トークレスでフレンさんに問う。
(冒険者あるある)
俺は色んな意味で笑えなかった。
気持ちを切り替え、張り切るパークス三兄妹を先頭に、さらに奥へと進んで行く。
モンスターも狂暴になっていき、俺らに襲い掛かってくるようになったが、サンダーで十分倒せる相手だった。
それにあの三兄妹、普通に強い。兄妹なだけあって鮮やかな連携を見せる。
「お前って魔法使いだったんだな。手に持っている明かりも便利だし。
しかも杖じゃなくて銃を使っているなんて、なんかかっこいいじゃないか。師匠とかいるのか?」
「悪い、それはちょっと人に言えない事情があるんだ」
「そっか、気にするな。冒険者に秘密は付き物だ」
俺はちょっとだけタンの扱いを心得た。
そして俺たちはついに、最深部らしき所までたどり着いた。
今までの道中と異なり、広く開けた空間になっていて、辺りは真っ白な岩で覆われている。
大理石のように綺麗で、まるで神殿の中にでもいるような気分だった。
とりあえず、壁沿いに歩いてみる。
半分くらい進んだあたりで、他とは質感が違う壁に行きついた。
「ここだけ、なんかザラザラしているね」
スイが壁を撫でながら言った。
「所々へこんでいたり、出っ張っていたり、怪しい」
サンが明かりを上の方へ向ける。
すると、かすかに青い輝きが見えた。
全員がそれに気がつき、思わず声が出る。
「ドラゴンアイ!?」
「埋まっているみたいだね。どうやって掘り出す?」
「慎重に岩を削りたいが、位置が悪いな。時間はあまりかけられないぞ」
「ねぇハリネ、なんとかならない?」
俺は何かないか考える。
ドラゴンアイがあるのは、壁から突き出た岩の中。
まるでドラゴンの頭ようなその形と大きさから、名前の通り竜の目を取るような作業だ。
「ドラゴンアイって、どのくらい大きい?」
「わからないけど、人が抱えられるくらいだと思う」
それなら、なんとかなりそうな魔具がある。
「なぁタン。荒っぽい方法になるけど、俺に手がある」
タンは少し考え、答える。
「ここから出れなくなったら元も子もないからな。わかった。お前に賭けるぞ」
タンはサムズアップする。
他の二人もタンに同意しているようだった。
俺は壁と出っ張りの境目にテープのような魔具をぐるっと巻く。
テープを伸ばしながらその場から離れ、テープ入れに付いているスイッチを押し、暗証コードを唱えた。
「ヒューズセイバー」
岩に巻かれたテープから鋭い炸裂音と共に、煙が上がる。
囲った所を切断する魔具ヒュースセイバー。
これで岩が落ちてきて、ドラゴンアイが壊れなければ、運び出してミッション完了である。
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