24:邂逅
準備を終えた俺たちは、鍾乳洞へと入っていった。
最初は外からの光で周りが見えていたが、徐々に暗くなっていき、奥の方は真っ暗闇になっている。
「ブライトボール」
俺は辺りを照らす魔具を起動させる。
球体の魔具が俺の手からふわりと浮くと、ほんわりやさしい光で俺らを照らした。
「すごーい」
「これ、どのくらいもつの?」
「丸一日はいけたと思う」
俺らはさらに奥へと進んでいく。
たまにモンスターと出くわしたが、襲い掛かって来るタイプではなかったので、今のところ戦闘も無く済んでいる。
「ねぇ、ウパ」
「なに?フレン」
「ここって、昔は誰かが来ていたとかって話、聞いたことない?」
「んー、無いかな。ここら辺は岩しかないし、マナが多すぎて不吉だと思われているはずだよ」
俺はウパに質問しようと思ったが、一旦冷静になり、トークレスでフレンさんに聞いた。
(なぁ、そもそもマナって何?)
(はぁ?あなた魔法使いでしょ?)
予想はできていたが、やっぱり基本知識だった。
(そうなんだけど、勉強嫌いだったというか…)
(なにそれ?自分は天才型だって言いたいの?)
(そう言わないで、お願いします)
(…はぁ。
マナは、ありとあらゆる物や現象に力を与えるモノ。
マナが濃いということは、それだけ力が蓄積されているということであり、大災害や巨大モンスターの前兆とされているわ)
(おいおい、じゃあここはやばいってことじゃないか?
ウパも大きい何かを感じるって言っていたぞ)
(それはそうよ)
(どういうこと?)
(ドラゴンアイは言わばマナの塊だもの。そりゃ、巨大な怪獣に感じても不思議じゃないんじゃない?)
なるほど、どういうものかわかっていなければ、恐くて誰も近づかない秘宝というわけか。
マナを感じるエルフじゃ、ただただ不気味な場所だったと。
「ウパは本当に怖くないの?」
「うん、一人じゃ入れなかったから近づかなかったけれど、ずっと気になっていたんだ」
言葉の通り、特に怯える様子もなく俺たちについてきている。
ハーフだと、マナの感じ方に違いがあるのだろうか?
「それで、話は戻るんだけど、フレンさんはなんでウパにあんな質問したの?」
「それは、なんか歩きやすいなと思って。
壁や天井はあんなにごつごつしているのに、地面は平に近くない?」
言われてみるとたしかにそうだった。
小説の挿絵でしか洞窟をイメージしたことがなかったから、普通に歩けている事に違和感を感じなかった。
自然にできた鍾乳洞であれば、これはちょっと不自然なのかもしれない。
実は、大昔に誰かが道を作り、ドラゴンアイを守るために罠を張っているとかないだろうか?
嫌な予感を募らせていると、前方にブライトボールとは別の光源があることに気が付いた。
俺たちは足を止め、それがなんなのかを探ろうとする。
ついに戦闘になるか?緊張がはしる。
俺は銃に手をかけた。
「いくわよハリネ。ウパはちょっと下がっていて」
俺とフレンさんは並び、ゆっくりと光の方へ近づいていく。
突然、複数の影が動いた。
岩場に何かがあたる音があり、金属音さえしてくる。
複数か。やばいな。
俺は戦闘に入る覚悟を決め、銃を構えると、ブライトボールを真上に投げた。
「ブライトボール:ハイライト」
ブライトボールから白くまぶしい光が降り注ぐ。
普段暗闇にいるモンスターなら、失明するくらいの強さだ。
もっとも、目があるモンスターならだが。
「ぐはあぁぁ!なんだ!?」
「まぶしい!目がぁぁぁ!!」
それは人の言葉を叫び、体をうずめた。
俺の目がだんだん光に慣れてくると、見覚えのある姿が目に映る。
「たしか、パークス三兄妹!」
俺の声を聞き、男がそれに反応する。
「そ、その声は…」
俺はブライトボールの光量を抑える。
しばらく様子を見ていると、三人とも目が戻ってきたようだった。
「お前ら、生きていたのか!?」
俺らを確認したタンが、目を丸くして驚いた。
そして、俺の腕や肩を触り、その存在を再確認すると、うんうんと頷き笑った。
「よかった。ギガオウルに攫われたと気が付いた時には空の彼方だったからな。
できる限り追いかけたが、手掛かりも無し。
冒険は死と隣り合わせ。諦めて本来の目的に戻り、ここまで来たのだが…」
タンは少し涙ぐんでいた。
俺の視線に気が付き、あわてて顔を拭う。
「やっぱり、全員で帰れるのが一番だよな!」
そう言って、タンはニカッと笑う。
サンとスイも泣きながら、フレンさんを気遣っている。
なんだよこいつら。唯の気持ちのいい冒険者じゃないか。
嫌味に聞こえた最初の言葉も、照れ隠しの忠告だったのかよ。
しかも、何気にここまで来ていて優秀な冒険者じゃないか。
「何があったかは後で聞くとして、お前たちもここにいるということは、ドラゴンアイが狙いだったのか?」
「そういうことになります」
「なんだそうだったのか。
最初は背伸びをしただけの冒険者かと思っていたが、腕は確かだったようだな。俺の見る目もまだまだだ」
「兄貴は思い込みが激しいからな」
「それは言うな。ちょっとは気にいているんだから」
三人は笑い、俺もつられて笑った。
「それと」
ひとしきり笑うと、タンは俺らの後ろを指さす。
「あの子はなんだ?」
ウパは少し離れた場所から、俺らの様子を伺っていた。
思いがけない再開で、重要な事を忘れていた。
エルフハーフのウパと、人間のパークス兄妹が出会ってしまった。
もちろん、お互い耳は隠していない。
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