20:ルパの願い

思いっきりバレているじゃん!




俺は突然のことにリアクションが取れない。


こっそりフレンさんを見てみると、同じように固まっている。よく見ると、ちょっぴり顔が赤かった。




「そんなに構えないでください。別にヒューマンを敵視しているわけではありません」




俺らの様子にルパさんも驚いたようで、あわててフォローしてくれる。




「ただ、ここにいる間は耳を隠していることをお勧めします。


この里にはおそらく、ヒューマンを知っている者はいないでしょうから。


危ない事にはならないと思いますけれど、やっかいな事にはなると思います。


みんな好奇心が強いのに、ここはご覧の通り娯楽がないですから…」




俺らは、素直にルパさんの話を聞くことにした。




「単刀直入に言います」




ルパさんは背筋を伸ばし、両手を膝の上に乗せる。




「ウパを…外の世界に連れて行ってやってくれませんか?」




突然で予想外の要望に、俺らは二度驚かされる。




「それは、どういうことですか?」




フレンさんは、冷静になって理由を聞く。




「はい、実はあの子、エルフとヒューマンのハーフなんです」




「ハ…ハーフ?」




「ということは、ウパの父親は…人間?」




俺とフレンさんは顔を見合わせた。


もしかして、あの冒険者?




「そうです。


48年前に、私は怪我で倒れているヒューマンを見つけました。


最初は耳を隠していたので気が付きませんでしたが、お世話をしている内に知ることになります」




48年前か。エルフが長生きだと小説に書いてあったが、本当だったんだ。


そうなると、何百年もエルフと人間は会っていないことになりそうだ。


というか、ウパはあの見た目と性格で、俺よりも年上ってことにならないか?




「本来なら、親に相談したりするべきだったのでしょうが…」




ルパさんは頬に手を当て、少し恥ずかしそうに俯く。




「秘め事を持っているのが楽しくなってしまい、


あの人は色々と私のことを褒めてくれたり、外の世界の話をしてくれたり、


私もあの人に興味を持つようになり…」




「それで、その人の子を妊娠することになったのですね?」




ちょっとフレンさん。ここはもう少し大人しく聞くべきじゃないの?


もしかして、他人のそういうのには興味無いの?




「あっ、はい」




ルパさんはバツが悪そうに頷く。


きっとルパさんは、内心この話ができる事を喜んでいたと思うよ俺は。




「ウパに気が付いたのは、あの人がこの里を去ってからでした。


突然の孫に家は大混乱でしたが、家族は暖かく受け入れてくれました」




そして、ルパさんは少し悲しそうな顔をする。




「でも、ウパがハーフだと知らない家族が、他のエルフと違うウパを心配するようになり、


色々と調べ始めたりするようになりました」




俺らは黙って聞いた。


この家には、ウパとルパさんしかいない。この話の結末はある程度決まっている。




「そしてある日。


ウパの特徴が、災いをもたらす伝承に酷似していることがわかりました。


家族はそれでもウパを守ろうとしてくれましたが、私は怖くなって最後まで言い出せず、ついに家族は森で事故にあい、帰って来ませんでした」




食卓がしんと静まり返る。


ルパさんの目には、いつの間にか涙が溜まっていた。


やっぱり、この話を誰にできることを、何十年も待っていたに違いない。




「その災いの伝承が、ウパを外へ連れ出すのと関係があるんですね?」




ルパさんの様子を伺いながら、フレンさんが話を進める。




「はい。具体的に何かがあったわけではありません。


でも、成長するに従ってあの子はおかしな事を言い始めるし、里の者達も気味悪がるように…」




「待ってください。それじゃあ、ただの厄介払いじゃないですか!?」




あんまりな理由に、俺は大声を出してしまった。




「ハリネ」




そんな俺を、静かにフレンさんがなだめる。




「わかっています。私は母親として…いえ、そもそもエルフとして間違いを犯し続けているのは、わかっているんです。


でも、何年考えても、どうしたらよいのかわからないのです」




「このまま何も起きず、里がウパを受け入れてくれる可能性だってあるんじゃないですか?」




「おそらくそれは無いです。


ここへ来るまで、誰にも話しかけられなかったんじゃないですか?


興味深そうに見てくる割に、誰も近づいてこなかったんじゃないですか?


私たちはもう、直接手を出されていないだけで、もう里の者とは扱われていないんです…」




俺は言葉を失った。


たかが変な子がいるだけで、そこまでするのかと疑問に思った。


けれど、それが何十年と続けば、黒い感情は詰み重なり、表へ出て来るようになるのかもしれない。




「あと何十年も破滅に怯えて生きるくらいなら、


様々な種族が生きる外の世界の方が、ウパが幸せになれる可能性があると思うんです」




「そんな…。怯えているのは、あなたじゃないんですか?」




なるべく冷静に俺は言った。


すると、ドアが開く音がする。




「ただいまー!」




玄関からウパの元気な声がする。




「ご検討をお願い致します」




ルパさんは頭を下げると、ウパを迎えに行った。




「ど、どうするの?この話…」




「どうするもこうするも、とりあえず保留よ。


ルパさんには悪いけど、この家は今の私達にとっては命綱。


最悪、嘘をつくことになるかもね…」




フレンさんの表情が曇る。




俺は、再びライフサーチを見てみる。


俺と同じくらいの反応が無数にあり、その中に、とりわけ大きい反応が一つ。


ルパさんの話通り、ウパは普通のエルフではないのかもしれない。




その原因が、エルフと人間のハーフだからなのかは、まだ不明である。

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