第3話:再始動01

なんだこれー!!!


と叫びたくなったのを必死に抑えながら、僕は朝から途方に暮れていた。




ゲーム機が無い。コントローラーも無い。電源ケーブルすら無い。


代わりに置いてあるのが、何やら筋トレに使いそうな道具ばかり。




昨日は疲れ切ってしまい、晩御飯を食べて、お風呂に入って、そのまま寝てしまった。




えっ?なに?どういうこと?


頭の中でぐるぐると、今までの出来事を思い出していく。




すると、あの夢のことを思い出した。


そして、ありえない推理が頭をよぎる。




ひょっとして、この世界に別の僕が存在していて、その僕と精神が入れ替わったのか?


真っ暗なスマホ画面を鏡代わりに、自分の顔を見つめる。




この世界の僕は、ゲームではなく、筋トレにハマっている。


だから、ゲーム機じゃなくて、トレーニンググッズが並んでいる。




せっかく世間がゲームで賑わっているのに、一人で筋トレかよ。


形は違えど、この世界でも僕の立ち位置はあまり変わっていないようだった。




なんだか少し切なくなる。




となると、元の世界の僕に、こっちの世界の僕の精神が入ったことになるのかな?


ごめんな。一から筋トレをし直してくれ。




いや、そうじゃなくって。


そんな推測も大事だけれど、ゲームができない方が一大事だ。




急いで自分の全財産を確認する。


なんとかゲーム機とソフトを買える額があったが、アーケードコントローラーが買えない。




親に相談するしかないか。


気が重い。


昨日の感じだと、この世界でも僕の親子関係は良くない。




でも、バイトだと一ヶ月かかるし、バイトしたらゲームをする時間がなくなってしまう。


背に腹は代えられない。




父親は自室にいるようだが、母親は外へ出てしまっている。


話をするなら、夕食の時だな。




そうなると、それまでどうするか?


決まっている。ゲーセンしかない。




…。


……。




近場のゲーセンにやってきた。


ここまで自転車で来たのだが、地形は変わっていなかったが、街模様が全然違うからかなり迷った。




「このゲーセン。こんなに大きかったっけ?」




元々大きい方であったが、高さが3倍くらいある。


パッと見た感じ、上が駐車場になっているようだ。




さっそく中へ入る。


激しい電子音が僕を迎え入れた。




一階二階には目もくれず、僕は真っ直ぐ格ゲーのある三階を目指す。




「うおっ」




エスカレーターから出てすぐ、その光景に思わず笑ってしまった。


まるで超有名ゲーセンに新作が入った時のような賑わいだった。




今までだったら一歩引いてしまう密度だが、僕はちょっとだけこの世界に慣れ始めたようだった。




ランブルギアが並んでいる所へ行く。


人気タイトルだけあって、人数がすごい。


順番待ちよりも、ギャラリーの方が多いくらいかもしれない。




まぁ、様子見もできるし、ゆっくり並ぶか。




そう考えた僕は、それっぽい列の後ろに並んだ。




すると、僕の前に並んでいた男の人と目が合った。


ちらっとではなく、まるで僕の顔を確かめるように。




が、特に何も言わずに画面に視線を戻した。




なんだ?ちょっと嫌な感じだな。




「あの、もしかしてここに並んでいますか?」




後ろから別の男性に声をかけられた。




「あ、はい」




「あれ見てください」




男性はちょっと離れた柱のポスターを指指した。




「今は、俺らが使っているから」




「それってどういう…」




「え?どういうって、俺らのチームが今の時間を取っているの。やりたいならあっちで」




と遠くへ追い払うような仕草を男性はした。




僕は「すみませんでした」と頭を下げ、しかたなく列を離れた。




貸切ってことかな?


こんなに人がいる時間によくゲーセンは許したな。




と思った時、思いのほか冷静な自分に気が付いた。


あんな態度を取られたら、色々心配になっておろおろしていた気がする。




なんでだろう?




ゲーセンのマナーをそれなりに嗜んでいるから?


それとも、相手が僕より小さかったから?




それはあるかもしれない。


正直、背が高い人と話す時、相手にその気がなくても威圧的に感じて苦手だった。


今のはその逆、背の低い人から高圧的な態度を取られても、そんなに怖くなかったというか…。




もしかしたら、初対面ばかりの格ゲー部でちゃんと楽しくできたのは、なにも格ゲーだからってだけじゃなかったかもしれない。




同年代相手でも見上げることが多かった僕には、この発見は新鮮だった。


そして、体が大きい人に対して少しズルいぞという感情が芽生えた。




それはさておき、どうしたらいいのだろう?


他のゲーセンへいくか?




「あれ?現内さんじゃないですかー」




声の方を向くと、そこにいたのは栄樹さんだった。

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