第3話:再始動02

イヤリングと赤い口紅、制服よりも短くなっているスカート、胸元が少し空いているVネック。


格ゲーの並ぶこのフロアには、到底似つかわしくない恰好で栄樹さんは立っていた。




ちらちらと、他の人の視線が見える。


その気持ちはよくわかる。なんといっていいか、エロかわいい?


おしゃれすぎて、知り合いでなければ、避けて通っていたくらいだ。




「偶然ですね。ランブルギアをやりに来たんですか?」




栄樹さんはそう言いながら、さらに僕へ近づいてくる。




「そ、そうなんだけど…」




やばい、どうしても目線が栄樹さんの顔より下へ移ってしまう。


なんとか誤魔化そうと、ランブルギアの台へ顔を向ける。




「あー、休みの日ってほとんど使えないですよね」




「そうなの?」




僕の質問に、栄樹さんは「え?」と驚く。




「現内さん、本当に一人で格ゲーやっていたんですね」




うぅ…。心が締め付けられる。




しゅんとした僕を察したのか、栄樹さんはちょっと申し訳なさそうにした。




「あれを見てください」




栄樹さんが僕をさっきのポスターへ案内した。




ポスターは、スケジュール表のようになっていて、びっしりと文字が書いてある。




「たぶん、どこのゲーセンもこんな風に、2時間区切りくらいの貸切が主流です。お金もそれなりにかかるから、チームなんかの複数人が借りていることが多いです」




あっ、これが屋良さんが最初に聞いてきたチームか。


たしかに、強いのに部活に属していないとなると、チームの方で活動しているって考えたのは、この世界では自然なことかもしれない。


元の世界でいえば、フットサルやテニスがそんな感じだったかな?


グラウンドを借りて練習するみたいな。ここがそんな感じ。




「そうだったんだ。でも、ランブルギアってもう家庭用が出ているから、わざわざここでやらなくても」




「んー、部活動やプロ集団でもない限り、大人数が同時にプレイするのは難しいんじゃないですか?」




なるほど。


じゃあネットは?と疑問に思ったけど、顔を合わせた方がいいこともあるだろう。




再びスケジュール表へ目を移す。


土日は全部埋まっていて、プレイできる状態ではなかった。




「じゃあ、どうしようかな」




そうつぶやくと、栄樹さんがずいっと身を乗り出してきた。




「もしかして、暇になったんですか?」




「う、うん」




香水の匂いが香ってきた。


ドキリとして、半歩下がる。




「じゃあ、私とランチしながら、格ゲーを教えてくれませんかー?」




そう言いながら、栄樹さんは携帯ゲーム機を取り出した。




「前作になりますけど、レッスンなら問題無いですよね?」




なにやらランランとした様子で、ゲーム機を胸元に抱いて詰め寄ってくる。




「そ…そうだけど…」




「やったー!どこ行きます?ちょっと高いですけど、クラオーっていう喫茶店が空いていますよきっと」




栄樹さんの体はもうすでに出口へ向いている。




これって、僕、これから女子と二人でごはん食べるの?


栄樹さんは見た目通りというか、なんか慣れている感じだけれど、握手一つで破裂しそうになっていた僕にはハードルが高すぎる。




しかし、今更断ることもできないし、理由もない。


なにより、どんなにビビッていても、下心が勝っていた。




ワクワクドキドキしながら、下りるエスカレータに手をかけた。


最後にランブルギアのスペースを見つめる。




チームか。すごい人数だな。


もしかしたら、ここらへんでは有名なチームだったのかもしれない。


ギャラリーがいてもおかしくないくらい。




………。




そして、僕ら二人は喫茶店へ入った。




道中、栄樹さんから質問攻めにあい、答えたり答えられなかったりして、すでに少し疲れた。




でも、こうやってリードしてもらえると、僕としては助かるのかもしれない。


この状況をデートだったと考えると、栄樹さんがとてもいい子に思えた。




二人で別々のランチメニューを注文する。




「現内さんって」




「うん」




「女の子とこうやってごはん食べることってあるんですか?」




「いや、…ないよ」




「もしかして、これが…」




「う、うぐ」




「なんて、まさかですよね」




「あ、あはは…」




たまにこういう際どい質問が飛んで来る。


先ほどの感想を改めそうになった。




そうこうしている内に、ランチが運ばれてくる。


空いているだけあるのか、本当にあっさりと来た。




「あ、よく考えたら、私それ食べたことないかも」




栄樹さんはそう言って、僕の注文したカレーを眺めた。




「一口もらってもいいですかー」




「えっ?」




「あ、ダメでした?」




「ううん、いいよ」




僕が少しお皿を前に出すと、栄樹さんはお礼を言って、端っこを少し食べた。




欠けたごはんの山の所に、カレーのルーが流れる。




僕はまだ一口も食べていないし、栄樹さんが使ったスプーンもまだ未使用だった。


だから、栄樹さんが食べた部分を僕が食べたとしても関節キスにはならないのだ。




でもですよ。これは意識してしまう。




「私のも一口食べますか―?」




「いや、僕はいいや」




女子と二人でごはんを食べられる状況は非常にうれしいが、その状態を維持するのがすごく疲れる。


他の人って、どうやって恋愛とかしているだろう?


柄にもなく、そんな疑問が浮かんで、消えた。

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