第2話:強者たる僕05
さらに対戦を重ねて、時間はあっという間に過ぎた。
最後にもう一度ミーティングをして、今日の格ゲー部の活動は終わった。
ほとんどの部員はすでに帰っていて、部室に残っているのは、僕と屋良さんと他数名。
女子はみんなで帰る予定なのか、4人全員揃っていた。
「結局、1勝どころか1本も取れなかったな我が部は…」
とほほといった感じで、屋良さんは今日の結果を述べた。
「そうなんですか?すごい…」
おしゃれ女子の栄樹さんから尊敬の眼差しのようなものが向けられる。
身だしなみにこだわりがある人ほど、僕の扱いが雑になっていく傾向にあったのだが、この子はそうではないらしい。
本当にこの世界は、ゲーマーが認められているようだ。
なんにせよ、女子の甘い声はこそばゆくて、照れる。
「そんなに強いのに人前では対戦してなかったんだって?もったいないなー、モテただろうに」
ポニテ姉さんの箕内さんが、ひじで僕をつつく。
「そ・そんなことは…」
と言いつつも、この世界にはその可能性を見出してしまう。
おまけに、今の僕の身なりは並み以上になっているはず。
今度、た…試してみるか?
「あはは、まんざらでもなさそうだな」
僕を中心に、みんなが笑った。
「それでだ現内くん、ひとつ提案させてくれないか?」
ひとしきり笑った後、屋良さんがそう切り出した。
「単刀直入に言うと、格ゲー部に入らないか?」
まわりの視線が、僕に集まった。
「みんな、まじめに対戦をしているが、格ゲーを楽しむのがこの部活の大前提だ。だから、研究や練習っていうのが二の次になっていて、今日の結果から分かる通り、あまり強くないんだ」
気のせいかもしれないが、屋良さんに真剣みを感じ始める。
「けれど俺は、できれば大会でも成績を残せる部にしたい」
夕日が差し込む部室に、屋良さんの声だけが響く。
「来れる時だけでも構わない。何か理由があって一人でやっていたのだと思うんだけれど、君が来てくれたら、みんなのいい刺激になる」
コミュ障の僕でもさすがにわかる。屋良さんは本気で僕を勧誘している。
僕の力を必要としてくれている。
だからこそ、簡単に「はい」と言えなかった。
なぜなら今日僕はただ楽しく格ゲーをしに来ただけで、今までもそうであった。
勝ちにはこだわってきたつもりだ。
けれど、実績を残すといった明確な目標を定めたことは一度もなかった。
そう、遊びの範疇からは出ていないのだ。
むしろ、たかがゲームなのだから、それでもやり過ぎなくらいだったはず。
だから、屋良さんの求めているものではない気がした。
僕がこの中で一番格ゲーをやっているだろうけど。
「………」
何も返せない。何て言ったらいいのだろう。
部室に静寂が流れ続ける。
「あー…、えと、そういえば涼奈ちゃんと蓮子ちゃんがまだ残っているなんて珍しいね。屋良に用事とか?」
気まずい空気を察して、箕内さんが別の話題で間を埋めた。
「そうではないのですけれどー…」
眼鏡優等生の関泉さんがそう答えると、ロンゲ美人の花尾間さんと顔を合わせた。
花尾間さんは少し困ったような顔をしている。
それを見た関泉さんは、少し考えて、こう言った。
「花尾間さんが、現内くんに用があったので、待っているんです」
「えっ!?ちょっと…涼奈…」
今までおとなしく立っていた花尾間さんが、急に声を上げて慌てだした。
「うはっ、マジで?」
意外な回答に、箕内さんが思わず食いついた。
「花尾間さんと現内さんって、知り合いだったんですかー?」
栄樹さんもそれに乗っかる。
「あ、えと…その、クラスメイトではあるんだけど…」
花尾間さんが答えるも、語尾がどんどん小さくなっていって、最後は消えてなくなった。
花尾間さんと一瞬目が合うが、すぐに伏せられてしまう。
いったい何が起こっているのだろう?
僕はただドギマギしていた。
「えーと、じゃあ、こうしよう」
硬直した場を、屋良さんが持ち直す。
「花尾間さんを待たすのも申し訳ないから、来週の月曜日に返事をくれないかい?」
「わ、わかりました」
僕がそう答えると、この場はお開きになり、全員で部室を出た。
「では、後は若い者に、でも瑠歩ちゃんはこっちね」
「なんか気になりますけど。…しかたないですね」
屋良さんが部室に鍵をかけると、僕と花尾間さんと関泉さんを残して、あとの全員は階段を下りて行ってしまった。
これはいったい…?
他に誰もいない廊下で、僕は女子二人といる。
静かすぎて、逆に落ち着かない。
関泉さんはまだ屋良さん達を見送っていて、花尾間さんもその様子だが、どちらかというと俯いている。
僕はこの後、どうなるのだろうか?
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