第2話:強者たる僕01

あの対戦後、僕の日常はいつも通りであった。


まじめに授業を受けているフリをして、一人でお弁当を食べて、スマホをいじる。




僕に話しかける人はいないし、僕が話しかける人もいない。


加藤達もあの一件以来、まだ接触が無い。一日に二回くらいはからんでくるのだが。




でも、おかげで少しわかったことがある。


これが夢でないとしたらだけど、この日本は僕がいた日本ではない。




社会の教科書から偶然見つけたのは、僕の知らない戦後の歴史。


簡単に説明するとこうだ。


第二次世界大戦後、世界的に人口が増えすぎて食糧難になる。


日本に食糧が輸出されなくなる。


自力で食糧を得ることが必須になった日本は、あらゆる土地を農産・畜産にあてる。


人口増加は日本も同じで、それ以外を団地などの住まいにする。


そのせいで、スポーツ・イベント・祭りなどを実施する場所がなくなる。


そんな日本が行きついた先が、ゲームのようだ。




あらゆるジャンルのゲームが国民的な娯楽になり、競技になり、プロリーグができた。




もう少し色々あったようだが、僕の学力だとこの理解が限界であった。




たしかに、ゲームなら一部屋でみんなで遊べる。


大型スクリーンさえあれば、最小限のスペースで大人数が観戦できる。


そして何より、ゲームなら性別も年齢も体重も関係ない。




僕がゲーマーだからか、この理屈は納得しかない。




そんな日本の高校には運動部が無く、ジャンル別にゲームの部活が存在する。


そう、この日本では、ゲーム部が花形なのだ。




本日最後の授業が終わり、放課後を迎えた教室は賑やかだった。


僕は何をするでもなく、机に座って外を眺めている。




屋良さん、迎えに来るとか言っていたけど、本当かな?


悪気無く社交辞令を言って、そのまま忘れる人なんてよくいるからな。


僕みたいな人間は、何回それに振り回されたかわからない。




それでも教室で待っているのは、その格ゲー部が気になってしょうがないからだ。


もし屋良さんが来なくても、自分一人でも行くか?と自問自答を続けている。




僕の身に今、何が起こっているのかはまったくわかっていないが、楽しめるものなら楽しんでやろうというのが僕の気持ちだ。




突然、小さく「きゃっ」と黄色い声が聞こえ、教室が静まった。




声のした方に目を向けると、入り口にいる女子三人と屋良さんがいて、目があった。




「おっ、現内くん、来たぞー!」




屋良さんがこっちに手を振る。


僕はどうリアクションしたらいいかわからず、軽く会釈をした。




えっと、これは屋良さんの方へ行った方がいいの?


なんか、ちょっと行きにくい雰囲気なんだけど…。




僕がもじもじしていると、屋良さんが教室に入ってきて、僕の前まで来た。




「なんだよ、まだ帰る準備もしてなかったのか?」




そう言って、机の横にかけてあった鞄を、「ほいっ」と机の上に置いた。




「…すいません」


「いいって、いいって」




僕は思わず謝ってしまい、急いで鞄に物を詰める。




その間、顔を合わせられずにいたが、おそらく屋良さんは終始笑顔だった気がする。




「そんなに緊張するなよ。みんなに君のことを話したら、みんな興味津々だっだよ」




それは余計緊張するんだけれど。


さっきから心臓が早いのを感じる。




僕が席を立ち、鞄を背負うと、屋良さんは「よし、いこう」と先に歩き始めた。




僕は屋良さんの背中以外を見ないようにしてついていく。




教室を出てもそれは変わらず、屋良さんの問いになんとなく答えながら、背中を追う。




廊下にいた同級生達は、屋良さんに気付いて道をあけ、屋良さんを見送ると、次になぜかついていく僕に気付く。


そして、僕の後ろでひそひそと話を始める。




こ・この程度では、まだ音を上げないぞ。


僕は、格ゲーのためなら頑張れる…はず。

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