第2話:強者たる僕02

「さあ、入ってくれ」




格ゲー部の部室前に立った僕のために、屋良さんがドアを開けてくれた。




その中は、僕にとってはすごい光景であった。


両壁に液晶画面が並び、その倍の数のアーケードコントローラが置いてある。


部室の一番奥には、ゲーセンにある筺体が一台置いてある。


真ん中に大きな机が置いてあり、そこに部員が座っていて、全員が僕のことを見ている。


その机の上にはノートと、ゲーム雑誌が散らかっている。




「ようこそ、格ゲー部へ」




なかなか中へ入らない僕の後ろから、屋良さんが僕の両肩に手を置き、部室へ入れる。




「あ、君が屋良が言っていた子か!」




一人の女子生徒が僕に近寄ってくる。




「大きいとは聞いていたけど、まさか屋良よりも大きいとはー…」




女子生徒は自分の頭に手を乗せてから、その手を今度は僕の頭の上に乗せようとする。


頭一つ分程の身長差があり、女子生徒はつま先立ちになった。


その際、僕に視線を合わせたまま顔を近付けるものだから、思わずドキリとしてしまった。




「いきなりからかうなよ。気にしていたらどうするんだよ」


「そうかな?」




屋良さんに軽く叱られた女子生徒は、僕の様子を少し伺う。


当然僕は、ただただ固まったまま。




「私は気にならないけどね。屋良はコンプレックスみたいだけど、あんまり気にする必要無いと思うよ」




背が高いのがコンプレックス?


そういう人もいるのかな。




少し不思議に思ったが、世の中色々な人がいるということにして、考えるのをやめる。




「私は、3年A組の箕内(みうち)真和(まわ)。よろしくね」




箕内さんは、にっこりと僕を見上げながら、手を差し出してきた。




ポニーテールが似合う、勝気な姉御肌。


少しギャルっぽい雰囲気がするが、制服を着崩すことなくきっちりと着ている。




勢いに押されて、僕はノータイムで握手してしまった。




手が小さくて、ちょっと冷たい。


女子の手を握っている右手に神経が集中する。




手を離してから、女子の感触に興奮してしまっている自分が恥ずかしくなった。


顔が熱い気がする。


なんとかなだめようと静かに深呼吸した。




「よし、さっそく対戦しようよ」


「だめだ。まずはミーティングしてからな」




「ちぇ」と箕内さんは席に戻っていった。




「現内くんは、とりあえず俺の横で」




屋良に連れられて、テーブルの一番奥の席へ行く。




「ごめん、ちょっと待っていてもらえる?まぁ、部活紹介も兼ねるということで」




屋良さん達格ゲー部のミーティングが始まった。


スケジュールや活動の報告などがされている。




それをなんなとなく聞きながら、部員たちを眺めてみる。


数を数えてはいないが、20人はいるかな。その内女子は4人か。


稀にゲーセンで見かけることがあるが、格ゲーをやる女子はめずらしかった。


この世界でも、もしかしたらそれは変わらないのかもしれない。




4人の女子は固まって座っていた。


さっきの手の感触を忘れられない僕は、チラチラと盗み見てしまう。




全員、屋良さんの方を見て話をしているのだが、4人の内の1人と目が合ってしまった。


バレたことが恥ずかしくなり、思わず目を伏せてしまう。




目が合ったのは、女子の中で一番背が高くて、髪も長い子だった。


他の3人が小柄でかわいいタイプなせいか、あの中で一番の美人だと思った。


箕内さんとは逆で、おとなしい印象。




って、僕は何を考えているんだ?


女子に免疫の無い男子の一番の欠点は、すぐに舞い上がってコントロール不能になる点だ。


さっきから屋良さんの話を聞いていなかった。


もしかしたらー…、などと妄想を膨らませ続けて、他に手がつかなくなっている




でも、自分から何かをするわけではない。黙って無関心を装って、次の何かを待つ。


狼ではなくハイエナといったところか?




急いで屋良さんに意識を集中する。




「それじゃ、今日の部活を始めよう!」




ちょうど、ミーティングが終わったところだった。




「お待たせ、現内くん。これから対戦してもらえるかい?」




さっきまでの後輩にじゃれる感じではなく、部長としての威厳を伴った雰囲気になっていた。




そのまじめな様子に、少しひよってしまったが、覚悟を決める。




「はい、お願いします」




「私も混ぜてよねー」




箕内さんが席を立ちながら、そう言った。

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