第1話:ゲーマーがステータス03
校門前で停車したバスから降りて、僕は衝撃の光景を目の当たりにした。
「え?あれ?校庭は?」
運動部がスペースを分け合って走り回っていた校庭が、きれいな畑になっていた。
校舎の方には小屋が見え、鶏の鳴き声さえ聞こえてくる。
「は?なにふざけているんだよ」
呆けて立ち止まっている僕を、加藤が後ろから小突いた。
「…あ、あぁ、ごめん」
校門から校舎までの道は今まで通りだったので、とりあえず歩き始める。
見事な畑だ。こんなものが、どうやって一晩で?
すぐにでも誰かに聞きたかったが、もちろん、そんな度胸は無い。
「おい、てめぇ、どこいくんだよ」
校舎に入ろうとすると、加藤に怒鳴られた。
「逃げんなよ。こっちだろうが」
今度は佐藤に、背負っている鞄を引っ張られる。
向かった先は、体育館?
なんでだ?
ランブルギアは携帯ゲームではないし、家庭用もまだ発売されていない。
対戦するなら、放課後ゲーセンにいくしかない。
じゃあこれって?対戦とは別に、まだ何かされるのか?
僕の気持ちが一層落ち込む。
しかし、体育館に近づくにつれて、とても聞きなれた電子音が聞こえてきた。
え?
えぇ?
まさか…。
思わず、息を飲んだ。
外見はいつもの体育館だったが、中はまったくの別世界。
言うなれば、巨大なゲームセンターだ。
あちこちから電子音が飛び交い、まぶしい光を発している。
壁際には音ゲーなどの大きな筺体が並び、真ん中には、向かい合ったアーケードゲームの筺体が、所狭しと並んでいる。
思わず、加藤達三人を置いて中へ進んで行ってしまった。
ジャンルは様々、年代も問わず、電源も入っていて、コイン要らず。
生徒の数も相当いる。みんなそれぞれゲームに興じている。
しかも、楽しそうに。
夢か?
なんかもう、朝起きてから色々あったけど、それどころじゃない。
この空間に、すごくワクワクしている。
そうまさに、夢の様な空間だった。
しばらく眺めながら歩いていると、ある区画で足が止まった。
ランブルギアの対戦台が並んでいる。
人気タイトルの最新作だけあって、ここだけ人数が多かった。
プレイしている人だけでなく、ギャラリーも相当いる。
「おい」
加藤に横から声をかけられた。
「あそこの台を取ったから、番が回ってくるまで反対側で待ってろ」
そう言って指を差したのは、区画の一番奥にある台だった。
僕は言われるがまま、奥まで行って回りこもうとする。
反対側へ行こうとした時、横目に大きな画面が入ってくる。
もしかして、この台。
そう、大画面で観戦できるようになっていた。
横から覗くよりも見やすいので、ギャラリーも一番多い。
こ・こんな所で対戦するの?
浮ついた気持ちは飛散した。
そんな、人に見られながら対戦したことなんて無い。
緊張している自分に気づき、指の感覚を確認する。
なんだか力が入らない。
これ、大丈夫なのか?
やばい、まともに動かせる気がしなくなってきた。
焦りが体中から気力を奪い、少し震えてくる。
泣きそうな自分がいる。
突っ立っていると、肩を押された。
「空いたぞ。早く座れよ」
思考は完全に停止して、ネガティブな単語だけが飛び交う。
それでも、僕は台に座り、スタートボタンを押してしまった。
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