第1話:ゲーマーがステータス04

軽快で幻想的な音楽が対戦台から流れてきて、20を超えるキャラクター達が並んだ。


ここから一人を選んで、対戦する。




僕は二人のキャラクターで悩んだ。




一人は、一作目から使い続けている、相棒と言ってもいいキャラ「シハラ」。


もう一人は、僕と相性が良かったのか、新キャラなのに一番勝率がいいキャラ「テンカー」。




そして、色々悩んだ結果、僕はシハラを選んだ。


新キャラと比べて苦手なキャラが多いが、キャラも自分も一番信用できる。…と思う。




が、最後の確認画面から進めない。


本当に大丈夫か?


本当に勝てるか?


本当にちゃんと戦えるか?


僕は、ここ一番で力を発揮できない人間だぞ。




「心理戦のつもりか?早くしろよ!」




反対側から加藤の野次が飛ぶ。




焦らなくても、確認画面の猶予は短い。


自動でOKが選択されて、対戦へと進んでいった。




お互いが選んだキャラが顔を合わせ、ステージに立つ。




加藤が選んだキャラは、僕がシハラを使う上で、もっとも苦手とするキャラであった。


しかも、ネットではSランクの性能と言われている強キャラだ。


突進技と、画面端の連携攻撃が強いキャラで、ワンチャンスでそのまま負けることがよくある。




もうすぐ対戦が始まってしまう。


捕まったらダメだ。まずは距離を取って、相手の出方を伺おう。




ゴング代わりにACTIONの文字が画面中央に現れる。


僕は対戦開始と同時にバックステップした。




その瞬間、僕の心臓は跳ね上がった。


加藤は真っ直ぐ僕へ向かってダッシュしてきている。


完全に最初の一手を読まれていた。




「だと思ったぜ。お前が開幕牽制なんて、ありえない!」




まずい。


僕は相手の攻撃に備えてガードする。




それすらも読まれていて、加藤にまんまと投げられてしまった。


「投げ」は、自分が少し無防備になるが、相手のガードを崩す一番有効な手段だ。




あ…あぁ…。




加藤は投げから安定コンボをきめて、画面端付近できっちりダウンを奪う。




ま・まずい…。




加藤の使っているキャラ「ブルーテ」の本領が発揮されるのは、相手が画面端付近でダウンした時。


立ちガード不能攻撃としゃがみガード不能攻撃の二択をノーリスクでできて、攻撃が当たればゲージ無しで二割体力を減らせることができる。




二択というだけあって、見て反応することはできない。


運が良ければ、格下が格上に勝つことが可能。故に強キャラ。




勝てない。


このままじゃ負ける。




僕の焦燥はピークに達し、涙こそ流していないが、泣き顔を晒していた。




そして願った。


どうか…。


どうか、凌いでくれ。




僕からゲームを奪わないでくれ…。




シハラが立ち上がった次の瞬間。




ヒット音がしなかった。


ブルーテの攻撃を、シハラはガードして耐えている。




た、助かった。




しかし、ホッとしたのも束の間、画面端から逃げることだけに必死になってしまい、ブルーテの足払いをくらってしまい、再びダウンしてしまう。




やばい!


せっかくガードできたのに!




後悔をしている暇もなく、ブルーテの二択がシハラを襲う。




が、これも無事ガードすることに成功。


今度はきっちりガードしきって、ハイジャンプからの空中ダッシュで画面端から抜ける。




「んだよ!!」




加藤のマナーの悪い叫びが聞こえてきた。




なんとか脱出したことで冷静さを取り戻したのか、頭の中が少しずつ晴れていき、ゲームに集中し始める。




加藤の二択、もしかして未完成か?




ダウンした相手の起き上がりに攻撃を重ねる事を「起き攻め」という。


ブルーテの起き攻めは完全な二択である。


ただし、難易度は低くはない。格キャラ毎に練習が必要な程には。


ちゃんと相手の起き上がりに攻撃を合わせる技術が必要なのだ。




そして、不完全な二択をガードする技術が存在する。


それが、僕が無意識に選択していた「ファジーガード」だ。


しゃがみガードから立ちガードへとすばやく移行することで、出の早い下段攻撃と、出の遅い中段攻撃を同時にケアできる。




上級者の対戦になると、その技術を使う使わないの駆け引きにまで発展してしまうのだが、どうやら加藤はそのレベルには届いていないようだ。




さらに、僕を昂ぶらせる要因がもう一つ。


それは、こんな特殊な状況でも、しっかりとプレイできている自分自身だった。




よかった。




本当によかった。




僕は、ゲームならちゃんとできる。




僕は、ゲームでなら戦える。




レバー操作に力が漲る。


ボタン操作に軽快さが増す。




さぁ、ここから反撃だ。




僕の表情に、もう不安の色は無い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る