第8話追放してくれてありがとうございます!
成人の儀よりも前に、アメリアはチューベローズの一族会議に呼び出され、一族からの除名を宣告されたのだ。
「アメリア、お前をチューベローズの家名から抹消することが決定した。明日からは只人として生きていくがよい」
いい加減、無能がチューベローズを名乗っているのが許せないという声が大きくなり、一族から抜けてもらおうと満場一致で決定したそうだ。
アメリアが大魔女から生まれたという事実そのものを抹消するというのが、一族の決定だった。
メディオラに七番目の子がいたと言う事実はこの場を持って消され、アメリアは家名を捨て一族との関りを一切絶つという魔法契約書を目の前に差し出される。
契約書には、絶縁の項目のほかに、チューベローズ家の悪評を流さないとか、家名を利用して商売しないなどの細かい項目もあり、読むだけで辟易した。
その中には結婚をするときは家長の許可を得るようにとか、勝手に国外に移住してはならないなど意味不明なものもあり、これでは絶縁なのに関わりが続いてしまうのでは? と疑問を口にしたら、チューベローズ家の血筋である以上、子世代にメディオラの恩寵を持った子が生まれる可能性も捨てきれないからだと言われ、仕方なしに魔法契約書にサインをした。
「お世話になりました」
一応手切れ金として随分な額のお金を渡されたので、アメリアは反論することなく急いでその場から逃げ出した。
本来ならば、家族に捨てられてショックを受けて泣きわめいたり縋ったりするのが普通なのかもしれない。
だがこの時のアメリアは、開放感と喜びしかなかった。結界が張られている魔女の集落から走って出て行くと、余りの嬉しさに笑いがこみあげてくる。
「自由だ――――! やった――――!」
もう無能と罵られなくて済む! 鞭で叩かれない! 頭がよくなるという激マズ料理を毎食たべなくてもいいんだ!
ひゃっほーう! とうっそうとした森のなかでスキップするアメリアは、はたから見たらさぞかし不気味だっただろう。
けれど、少しの休息も許されずストレスで血を吐いても休ませてもらえない過酷な教育に心底疲れ切っていて、もう精神的にも肉体的にも限界だったのだ。解放されてちょっとおかしくもなるというものだ。
愛情なんて一ミリもないのに、頻繁に訪れてアメリアをネチネチネチネチいじくって勝手にがっかりしていく兄姉や親族たちに、親愛の情など抱けるわけもない。
だから絶縁を言い渡されて、喜びこそあれ悲しみなどひとかけらもありはしなかった。
そういうわけで、アメリアは何の未練もなく生家であるチューベローズ家とさよならしたのであった。
家を出たアメリアがまずしたことは、もらった手切れ金で辺鄙な場所にある一軒家を即金で購入することだった。
勉強はさんざんしてきたけれど、それらは全部魔女界隈の知識にすぎない。只人が暮らす市井での常識や暮らし方などは全く知らないため、どうやったら家を借りたり買ったりできるのか、今のアメリアに分かるはずもない。
仕方なく町役場に飛び込んで『住むところを紹介してほしい』とお金の入った袋を見せながら言うと、役場の人に子どもが家のお金を盗んで家出してきたと誤解され、大変な騒ぎになってしまった。
けれど、自分は魔女だと告げ、子供だましのような魔法を披露するとすぐに納得してくれた。
只人の暮らす町では魔女の存在は珍しく、割と歓迎してくれて役場が管理する売り家を紹介してもらえることになった。
いくつかある物件のなかからアメリアが選んだのは、人里から遠く離れた森の中にポツンとある小さな家。
かつては炭焼き小屋だったその家は、あまりにも森の奥深く不便な場所にあるので、誰も買い手がつかず、長いこと放置されていたので驚くほど安かった。
魔女とは言え、若い女の子ひとりでこんなところで大丈夫なのかと親切な役場の人が心配してくれたが、魔女だから大丈夫と言って押し切って購入した。
そうして無事、アメリアは住む家を確保できたのである。
アメリアがこんな辺鄙な場所の家を選んだのは、とにかくただひたすらに、一人きりになりたかったからだ。
家にいた頃は、おはようからおやすみまでどころか、睡眠学習だと言われ、寝ている間も誰かしらそばに居て何かを耳から流し込まれ、無意識に発揮するスキルあるかもしれないと監視されるような環境に置かれていたのだから、もう一生誰とも話さず静かな生活がしたいと願うのは当然の帰結であろう。
あの生活でアメリアは人とかかわること全てに疲弊しきっていたのだ。
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