第7話絶望的に才能がない


 大魔女から無能の子が生まれてしまった。 

 この事態に、チューベローズの一族は持たざる者として生まれたアメリアの処遇について散々話し合った。

 生みの親であるメディオラ本人は、もともと子どもは産んだら産みっぱなしで、なんの恩寵もないアメリアのことなどどうでも良いようで、すぐにその存在を忘れた。ちなみに子ども全員種が違うので、この家に父親というものは最初から存在しない。


 第一案は、通例通りにアメリアをチューベローズの家系図から存在を抹消し、普通の人間の家に養子に出すことで話し合いが行われた。

 本来ならばその決定で話が終わるはずだったのだが、アメリアの場合、偉大なる魔女の娘である事実がそれを阻んだ。


 一族は皆、恩寵無しの鑑定されたアメリアに対し、『もしかしたら、なにか隠された恩寵や特別な才能があるかもしれない』という可能性を捨てきれなかったのである。


 ――――あの大魔女の子なのだから、無能なわけがない。

 ――――魔女界の常識を覆した存在であるメディオラから生まれたのだから、とんでもない才能を秘めているかもしれない。

 ――――鑑定できないだけで、七番目の子にはきっとなにかあるはずだ。


 そんな意見が一族の大多数を占めた。

 チューベローズ家から無能が生まれたと認めたくないという気持ちもあったのかもしれないが、もしも養子に出した先で特別な才能を発揮してしまったら、チューベローズ家にとっては大いなる損失となる。その可能性が少しでもあるうちに、他所にやるわけにはいかなかった。

 一族の各家の派閥ともかくアメリアは、魔女の成人する十三歳になるまではチューベローズの家で養育されることが決定した。


 ――――それがアメリアにとって、不幸の始まりだった。


 アメリアが覚えている幼い頃の記憶は、家庭教師の怒鳴り声だ。物心着く前からアメリアには様々な家庭教師がつけられ、彼女に秘められた才能を発掘せんと教師たちは躍起になって厳しい教育を受けさせた。

 恩寵がなくとも、教えた魔法は一通りできるようになる。

 それならばもしかしたら何か他の人とは違う魔法の才能があったりするのかもしれないと期待が高まったのだが……。


 アメリアはどの魔法も只人に毛が生えた程度の威力しか発揮せず、魔法学を教えていた教師が『絶望的』と烙印を押したほどだった。


 それでも、魔法以外に何か才能があるかもしれないと、アメリアへの教育は続けられ、定期的に一族から『鑑定』を受けさせられたが、何年たってもアメリアは秘められた恩寵が発現することもなかったし、特出した才能が開花することもなかった。


 アメリアの教育について決定権を持っていたのは、主に年の離れた長兄と長姉であったが、いくらなにをやっても何の成果も出ない事実に、次第に苛立ちをつのらせていくようになる。

 どの分野においても、どれだけ『才能無し』と結果がでても諦めきれず、頑張りが足りないから結果が出ないのだとアメリアを責めるようになった。

 

 アメリア本人も、メディオラの娘なのだから絶対に何か特別な才能があるはずだ! と言われ続けてきたので、きっとまだ覚醒していないだけで頑張ればきっといつか結果がだせるはずと信じて努力してきた。


 だが、本っ当に……まるっきり、アメリアにはなんの才能もなかった。



 魔女教育によって一般的な魔女の魔法や薬の作り方は覚えて使えるようにはなったが、他の魔女に比べれば、子どもの手慰み程度のものにしかならなかった。


 武術も学問も、思いつく限りのものをやらされたが、結局全て空振り。どれだけ努力しても、アメリアはどの分野においても『普通以下』の域をでない。せいぜい下の上。頑張っても中の下である。


 もう最後のほうは、一族も教育係も意地になっていたのだろう。

 これだけ時間と金をかけて教育したのに、全部無駄でしたなんて今更すぎるという空気がビシビシ伝わってきて、もう明らかになんの才能無いよと分かってからは嫌がらせのような時間が続いていた。

 

 こんな地獄のような勉強漬けの生活が続いて、そろそろ死ぬんじゃないかとアメリアが思い始めた頃、突然この生活が終わりを迎える。



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