第6話大魔女メディオラ
アメリアの生みの母は、この国で一番高名な大魔女だった。
アメリアの母、メディオラ・チューベローズは、なんと六つの恩寵を持って生まれた非常に稀有な存在の魔女であった。
複数の恩寵を持つ魔女など過去に例がないため、メディオラの誕生は魔女界に衝撃をもたらした。
過去に複数持ちが生まれたという記録は残っていない。
魔女界の常識を吹き飛ばしたメディオラの誕生はまさに奇跡だと国を挙げて祝福し、彼女は国で最も尊ばれる存在となった。
幼い頃から複数の恩寵を駆使し、複雑な魔法を生み出して魔女界に革命を起こした。
新しい魔法の誕生、これまでにない洗練された技術の確立。不可能と思われた回復薬の完成。メディオラが成した偉業をあげたらきりがない。
魔女界のなかでも、下位の存在であったチューベローズ家はあっという間に他家に圧倒的な差をつけて頂点にのし上がった。
そんな大魔女メディオラには、七人の子どもがいる。
複数の恩寵を持つメディオラの子ならば、また複数持ちが生まれるのではないかと周囲の期待は大きかったが、残念ながら生まれてくる子は全て普通の魔女と同じ、ひとつの恩寵だけを受け継いでいた。
落胆する声もあったが、生まれてきた子はひとつだけとはいえ、大魔女から引き継いだ才能は飛びぬけていて、同じ恩寵を持つ者と比べても、その才能はけた違いだった。
子どもたちは受け継いだ恩寵を生かし、それぞれの分野で名を上げていった。
チューベローズの名は魔女界を席巻し、メディオラの血を受け継ぐ者の有能さを誰もが認めざるを得ない状況になり、チューベローズ家は魔女界で最も影響力のある存在となった。
そんな大魔女の七番目の子として生まれたのが、アメリアだった。
メディオラの子どもたちは、ひとりひとり違う恩寵をひとつだけ授かっている。
長男のモノリスは炎の恩寵。
次男のジレは水の恩寵。
長女のテューリは風の恩寵。
二女のテレサは雷の恩寵。
三女のペチュニアは土の恩寵。
三男のヘレックは光の恩寵。
ならば七番目の子こそ、六つ全てを受け継いで生まれるのではないかと周囲は期待したのだが……。
生まれてすぐのアメリアを鑑定した鑑定士の口からはとんでもない言葉が飛び出してきたのである。
「無能……?」
「何度鑑定しても我々の鑑定では『恩寵無し』という結果しか……」
一族が勢ぞろいした会場は、鑑定士の出した結果のせいでお祝いムードから一転、地獄のような空気になったという。
生まれたばかりのアメリアを、鑑定に長けた魔女が数人で視たのだが、なんと全員一致で『恩寵無し』という結果が出たのだ。
これにはメディオラ自身も、チューベローズの一族も心底驚いた。
そもそも恩寵を持たずに生まれると言うこと自体が魔女の家系では恥ずべきことで、それが大魔女から生まれた子だという事実を一族は受け入れることができなかった。
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