第4話なんかどんどん増えていくんだけど……
その次に出会ったのは、猫型の魔物、ケット・シー。
このケット・シーに関してはアメリアもうかつだった。
町から買い出しの荷物を持って家路を急いでいた時、小道の脇でやせ細った子猫が鳴いていたのだ。
「……」
「にゃぁ……にゃぁ……」
弱弱しくか細い声が聞こえ、思わず足を止めてしまう。
とはいえさすがに過去の経験から、また魔物っていうオチがあるんじゃないかと疑ったアメリアは、見て見ぬふりをしようとしたのだが、あまりにも切なげに鳴くので仕方なく買ってきたばかりにヤギミルクを献上してしまった。手のひらに少量出して、子猫の顔の前に差し出してやる。
「ほら、あげるよ……」
「うにゃいうにゃああい」
子猫は手のひらに乗せた分だけでは足りず、結局買った分全部全部飲み干すと、さきほどまでのヨロヨロ感はどこへやら、元気いっぱいになって全力ジャンプで飛びついてきた。
「にゃああああああん!」
「ぎゃー!」
多少疑いを持って身構えていたため、アメリアはその猫ジャンプをひらりとかわして猛ダッシュで逃げだした。
あの跳躍力、普通の子猫とは思えない。そういえばミルクが無くなっても手のひらをしつこく舐めていた。手のひらをひっこめたとたんに飛びついてきたところを見ると、ミルクではなくアメリアを食べようとしていたのかもしれない。
「あ、あれも魔物か! 可愛い子猫の姿にほだされるんじゃなかった!」
また余計なことをして魔物と接触してしまったと内心焦りながら、念のため後をつけられないように匂い消しのハーブを道の途中に撒いて、いつもと違うルートで遠回りして帰ったというのに、やっぱりソイツはやってきた。
庭仕事をしているアメリアの元に、二足歩行の猫が優雅なウォーキングで現れたのだから、もう驚くより笑うしかなかった。
あんなに可愛い子猫ですみたいな顔をしていたくせに、堂々と魔物丸出しの二足歩行で来られては、突っ込む気にもなれない。
「あ、この前はミルクをありがと~。おかげで命拾いをしたよ。だから恩返しをしてあげるね。僕はケット・シー。役に立つ魔物だよ」
「……あー、ウン。有名な魔物だよね……」
どうせ拒否しても帰らないでしょ? そうでしょ? と思いもう何も言わずにいたら、例によって先住民の魔物たちが『ケット・シーなら予知もできるし、いんじゃない?』と勝手に受け入れてしまい、新しい居候が増えることになった。
そうやっていつのまにか、アメリアの家には恩返しの名目で訪れてくる魔物がそのまま居つくというパターンが出来上がってしまい、断り切れなかった三匹の魔物が居候している。
(いや、今日一匹増えたから、計四匹だわ……)
終の棲家と決めた大切な我が家がビックリホラーハウスと化していく。どうしてこんなことになったのだろう。この家を買ったときは、森のなかで魔物とこんなに出会うなんて想像もしていなかった。
(それにしても、魔物に出会いすぎじゃない? それに世の中の怪異ってこんなに義理堅く恩返しにくるものなの……?)
もしかすると、今までアメリアが気付かなかっただけで、魔物や幽霊などの人ならざる者は世の中にたくさん紛れているのかもしれない。
だがどの文献を見てもそんな事実は書いていないし、ましてや『魔物の恩返し』なんて話は聞いたこともない。
とはいえ、家族も友達もいないアメリアには相談する相手もいないので、単に自分が知らないだけかもしれないとかモヤモヤ考えているうちに、魔物たちは勝手に家事分担などを決めてすっかり生活に馴染んでしまった。
この状況にアメリアも困り果てていた。
アメリアだって、ただ黙って受け入れたわけではない。
命を助けたなんてなんて大袈裟だし、恩返しも必要ないと言ったのだが、魔物連中は、アメリアは遠慮深い謙虚な子だね! と斜め上の反応で、帰ってほしいという意図は全く伝わらなかった。
ケット・シーが家に来たあたりで、魔物の居候が増え続ける不可解な現象に恐怖が限界に達し、ついにはっきりと告げたことがあったのだが……。
「あの、皆さんいつまでこの家に滞在するつもりなのかな……? 本当に、ほんっとーうに、もう恩返ししてもらったし十分なんで、帰ってもらっても大丈夫なんで……」
もう何もしてもらわなくて良いと告げると、魔物たちはあからさまに悲しげな表情になった。
「それって……アタシたちがアメリアの役に立ってないってこと?」
「そっか……。働きが足りなかったか。じゃあもっと働くから、お前の要望を言ってくれ」
「不満があるならちゃんと言ってよ。僕らもっとアメリアのために頑張るからさ……」
もっと恩返しするから、どうしてほしいか言ってくれと涙ながらに詰められて、逆にアメリアが恩知らずなことをしているような気分になって、前言撤回するしかなかった。
「いや、いやいやいやすっごく助かっている! 全然足りなくない! むしろしてもらいすぎで申し訳ないっていうか! 心苦しいから!」
なーんだ、遠慮することないのに~と皆が笑顔になった時点でアメリアは己の負けを悟りもう彼らに出て行ってもらうのは諦めた。
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