第2話 リベリティア学園

「ほっ、ほっ」

いつもの通学路を跳ねるように駆けていく。

暖かな風も、小鳥のさえずりも、うるさいバイクのエンジン音も。

いつもと変わらない光景が僕を祝福してくれているようだった。

要するに、僕は浮かれていた。

憧れの英雄へ、一歩、一歩と近づいているという感触が、この足取りを軽くしていた。

「僕の英雄譚はここから始まる、ってね。」

将来に思いを馳せながら、学園へと向かっていった。



「それでよぉ、その英雄に出会えたらどうすんだよ?」

教室につくやいなや、僕より早く教室に来ていた友人がこちらに話しかけてくる。

斉藤 亘さいとう わたる。この学園に入って初めてできた友人であり、1番仲のいい存在である。

「どうするってそりゃ、あの時のお礼言って…… あとは……趣味を聞くとか、写真撮ってもらうとか?」

「ファンかよ」

「まぁファンみたいなもんよ。 その情熱だけで今まで生きてきたみたいなとこあるからな」

「結局具体的なことは決まってないのな。お前そんなんでよく今まで頑張ってこれたよなぁ」

「……それだけの出会いをしてしまったからな」

「……そうか」


話が途切れ、スマホで時間を確認する。 始業まではまだ40分くらいある。

こいつと喋るために早く来たけど、せっかくだし外で体でも動かすか。

「ん?そんなオシャンティーなものつけてたっけか」

亘がスマホケースの羽根を指差して尋ねてくる。

「あぁ、これは英雄の羽根だ」

「そんなのがあるのかよ…… つか真っ黒じゃん」

「僕が救出されたときに大事に握ってたらしい。 倒れる直前に羽根を見た記憶があるから多分そうなんだと思う」

「ふーん」

「まぁお守りみたいなもんだ」

「お守りねぇ……」

一瞬、困ったように笑い、すぐに真剣な表情になってこちらを見る。

「お前は実際に被害にあったんだろ? 普通そういうの見たら嫌なことも思い出しちまうんじゃないのか?」

「……」

「恐怖が全くないわけじゃないんだろ? それでも、やるのか?」

「あぁ…… だからこそやるんだ」

実際に被害を受けた人は、魔族に対して憎しみより恐怖を強く感じている人がほとんどだろう。

多分葵だってそうなのだ。だからあの話をするといい顔をしないのだろう。

でも、だからこそ、葵が、みんなが安心して暮らせるように僕がやらなければいけないんだ。

震えるこぶしを握り締め、外の空気を吸いに2人で教室を出た。





そして始業し、授業を受けているのだが…

「今日はおさらいがてら、この世界と学園の歴史について……」

(ね、眠い……)

朝の元気はどこへやら、座学、座学、座学で頭が疲れてしまっていた。

(午後に歴史の授業とか…… 全く頭に入らん……)

座学も大事なのは分かってるつもりなんだけど~…… 今は眠くて頭が働かない。

(せっかく実戦的な経験ができるコースに入ったのに…… このまま座ってたら寝ちまう……)

何とか起きようと顔を上げるが、抵抗むなしく意識が遠のいていった……


……


「……た。 おい、雛太ひなた

「ひゃ、ひゃいっ!」

隣の席の女子にわき腹をペンでつつかれ、慌てて飛び起きる。

危ない、完全に落ちる所だった。

「危ない、じゃないでしょっ 完全に寝てたわよ」

「高宮く~ん、そんなに先生の講義はつまらなかったのかな~?」

「いえ!そういう!わけでは!……ないです。 すみませんでした……」

「続けさせてもらってい~い?(にっこり)」

「はい…… お願いします……」

つまらなかったから寝てたというわけじゃないんだけど……

実際に寝てしまったわけで。否定もできずに素直に謝った。

てか先生の笑顔こっわ~…… 次から気を引き締めねば。

「ユッキ~、起こすならもうちょい優しく起こしてくれんかね~」

起こしてくれた女子、雪貴に小声で話しかける。

「ちゃんと声かけたんだけど。 先生の顔やばかったんだから、感謝してよ」

雪貴もまた、小声で応じる。

東雲 雪貴しののめ ゆき。亘よりも前からの知り合いで、ちょくちょく同じクラスになる腐れ縁みたいな存在である。

真面目ぶってるけど意外とノリが良くて、なんだかんだで仲良くしてはいる。 あと可愛い。

ただ自分の過去については一切話したがらない。どこ出身なのかとかも分からない。

そういうことを話せるくらいに仲良くなれたらな、と思うことはないこともないんだけどもね。


「まだ集中できてないみたいだから、高宮君に答えてもらおうかな~」

「げっ」

物思いにふけっていたら、また先生に目をつけられてしまう。

「げっ、じゃないでしょまったく……」

そう言いながら先生がこちらに姿勢を向ける。

「それじゃあ…… 10年前に魔王が現れた影響として未だに残っているものは何であるか、分かるかな?」

「……魔王ウイルスと魔族の残党」

討伐された魔王は世界にウイルスをまき散らしながら散っていった。

そのウイルスによって、体が不自由になる、体の成長が止まるなどの恐ろしい症状が何件も報告された。

ウイルスによる被害は、襲撃による被害の倍以上の規模であったらしい。

今では空気中を漂うウイルスは非常に希薄なものになっているが、完全に消え切ったわけじゃない。

だから、ウイルスに対抗するためにが用意された。

「そうですね。 そして、そのウイルスに対抗するための薬が作られました。 症状の重さから、子供たちに多く投与されました」

薬は国から配布され、今も毎月必ず服用することを義務付けられている。

「しかし、薬には副作用がありました。 その副作用はどんなものでしたか? 東雲さん」

「魔法を使えるようになりました」

「そうですが、少し違いますね。 現在、薬には魔力が含まれており、その魔力によってウイルスに抗体を出来たということが判明しています」

「また、体内の魔力量が一定を超えると、魔法が発現するということも判明しました」

「そうして魔法が使えるようになった子供たちが集められたのが、ここリベリティア学園になります」

そして2つ目の影響、魔族の残党への対抗策がこの学園にある。

要するにこの学園は、であった。

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