第3話 アナウンスさん

※次回10/09


……。解釈一致。


 いやね、ジュリアが使えたら絶対近接戦闘型のキャラクターになるって思ってたんだよ。


 あの性格のキャラで魔法使い、バッファーとかヒーラーとかそんなサポート系は似合わない、というかそうなってくるとなっがいローブ着たりするでしょ?

 いやいやいや、ジュリア好きはキャラデザした人がコミケのグッズ用に書き下ろしたへそ出しショーパンの冒険者スタイルが脳に刻まれてるんだってば!


 職業で言うなら剣士、じゃなくて戦士一択でしょ!



『――最初の窮地を打破しました。新しいルートが開拓されました。ジュリア死亡まで残り1週間。次回窮地適正レベル60。視点継続。【蘇生】可能までもうしばらく静かにお待ちください』



 いわゆる神視点。肉体を感じられない不思議な状態でジュリアの先頭を見守っていると、またアナウンスが流れた。

 

 ゲーム世界に転生したんだから別に違和感はないんだけど、わざわざこうやって助言してくれるってことはジュリア生還のルートをゲームマスター? 的な存在も望んでるってことだよな?

 それが一体誰になるのか、なんで転生なんて言うことが可能性のなってるのかは分かんないけど。


 というかテンション上がってて考えてなかったんだけど俺これ帰れるのかな?


 俺にも生活はあるし、あんまりにも帰れないとみんなが困る……ってわけでもないか。


 次回のヤバい展開まで1週間。

 別に俺としては1年でも10年でもこの世界に留まってたって構わなく、はあるな。


 だってずっとスライムなんだよね?

 あんな身体じゃできることに限りはあるし、そもそもジュリアを助けるために行動したとしても結局は殺されるだけじゃん。


 やっぱ人間の肉体は欲し――



『静かに、ってお伝えしましたよね? 私。まったく、今度の人はうるさくて仕方ないったらありゃしないわよ。はぁ、まぁ今まで転生条件をクリアしてきた人たちもそこそこに変人ではあったけど……』



 ん? アナウンスさん?

 なんか本音漏れてない? 


 それに今まで転生条件をクリアしてきた人たちって俺以外にも転生者がいるってこと?

 いや、それ以上に気になったんだけど、アナウンスさんってもしかして人間――


『過度な干渉はお控えください。気持ちが悪いから、じゃなくてゲームに支障が出ますので』


 気持ち悪い助かる……じゃなくて、はいすみません。


『……。蘇生までもうしばらく時間がありますので、あなたの疑問を少しでも解消できるよう、そしてモチベーションを維持できるよう説明をさせていただきます』


 ヤバい。俺、ゲーム世界だからってオタク全快過ぎてドン引きされたっぽい。

 今後の蘇生時間はもうちょっと黙っとこ。まぁ出来れば、だけど。

 俺ってばあんまり人と会話しない分、妄想したり思考巡らせたりがどうしても――


『こほん! まずあなたがここに来れた理由は条件を満たしたからですが、それについてお伝えはできません。それをお伝えすると意図的に転生したがるものがゲーム内に溢れる可能性があり、データがパンク。この世界自体が崩壊する恐れがあるからです』


 あー。なるほど。確かに現実で生きてくのが嫌な人間なんてざらですからね。


『はい。そのため条件は絞られ、偶然あなたがそれに該当しました。あなたにはゲームの、そして自身の意思に従ってジュリアというキャラクターを救っていただきたく思います』


 ゲームの意思、ね。

 なんかゲームが生きてるみたいな言い方だけど……。


『生きてます。このゲームは特殊な方法によって生み出され、意思を獲得しました。そうして次第に思うようになったのです、不遇なキャラクターにも機会を与えようと。そしてそれ以上のことも……』


 特殊な方法ねえ。……。にしてもそれ以上かぁ。


『私ゲームの意思から生まれいでたいわゆるこのゲームの子供。近しい存在ではありますが他人です。そこについて深く知り得ることはできません。またそんなゲーム自体ですが、その存在はあくまでゲーム。何もかも自由に、思う通りに動かすということはできません』


 だからプレイヤーが必要で、俺みたいな奴を欲したと。


『そうなります。また、これはゲーム。クリアは一筋縄ではありませんし、失敗した場合ペナルティも存在します』


 ペナルティ……。あ、そういえばリセット回数ってのがあったっけ。


『リセット回数というのは救うべき対象、今回でいえばジュリアが死んでしまった際に減少するものになります。リセットは残り5回。これがあなたのやり直しができる回数になります』


 そんでそれが0になるとペナルティってことですね。……。多分ですけど、死ぬことになりますよね? 俺。


『いいえ。ただただこのゲームの一部になってもらうだけですよ。ただ実質死、と思う方もいらっしゃると思いますが』


 ふーん。ゲームの一部になるねえ。


『そろそろ蘇生可能な時間になります。レベルアップの方法は従来と同じくモンスターの討伐。正攻法としてまずはジュリアにダンジョンやフィールドでレベルを上げさせることが考えられますが……』


 俺の場合は自分が強くなって……殺されるのがいい、と。

 面倒なような面倒じゃないようなって感じっすね。


 それならいっそのこと俺自身がその窮地を打破――


『それは不可能です。あなたはあくまで野生のモンスター。物語に絡むことはできますが、主人公ではないのです。この先の新たな物語はジュリアに切り開かせるのです』


 了解。でも殺されて殺されて、しかもリアルでも命かかってて……これだけのリスク背負ってるんですからクリア後に報酬とかありますよね?


『ジュリアの生存ルートをあなただけが見れる、それ以外に何か欲すると?』


 そう言われると十分な気が――


『冗談で言ったのに、不満そうな顔をしないところがオタクって感じで気持ち悪い、じゃなくて変わってますね』


 助かるぅ、じゃなくて気持ち悪いは止めてくださいよ。


『……。報酬は有ります。でもそれはクリア後のお楽しみしていてください。それでは健闘をお祈りいたします』



 ――キィン。



 高い耳鳴りのような音が響くと視界が一瞬暗くなった。


 この感じはこの世界に訪れた時と同じ。

 一度目を開ければゲームは開始され――



「――様子を見に行った俺のダークウルフたちがあんなちっちぇえ、しかも勇者もいねえ村で返り討ちって、おかしいとは思ったけど……。なるほど、お前が原因か」

「ぺぽ?」



 目を開けるとそこにはダークウルフを2匹従えた人間、じゃなくて魔族が。


 確かこいつってこの村の勇者ルートで再びここを訪れたときに出てくる中ボスの1人だっけ。

 イベントが起きるときはもう勇者のレベルも高くて雑魚扱いだけど……。



種族:悪魔族

名前:ヘリオス

HP20000/20000



 レベル1の状態で対面していい奴じゃないって! 鬼畜すぎんだろこのゲーム!


 に、逃げるしかねえ!!


「ちょ、お前! 逃げるな! 俺が殺して……経験値にしてやるからよお!! テラファイア!!」


 テラ!? それ上級の火属性魔法じゃねえか!!

 お前そんなの保有してたっけ!?


 魔法無効化無かったら死んでたんだけど!


「くそ! どこ行きやがった!」


 幸い火が周りの木々に移って俺の姿を見失ったっぽいな。


 コツコツ弱いモンスター倒していこうと思ってたけどこのまま村近くのこの森、フィールドに留まっているのは危険すぎる。……仕方ない。まだレベルが全然足りないけど、ダンジョン潜るか。

 

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