第2話 レベルアップ【ジュリア視点】
※次回10/08
――ザシュッ。
唐突に飛び出したスライム。
そしてそれから時間を空けることなく私の持っていたナイフがスライムの身体に刺さる音がした。
通常のスライムとは違う見た目で銅色で照りのある身体。
明らかに硬そうではあったけど、どうしたことかその身体は溶けたチーズのようにどろりと溶けて私みたいな戦闘に長けてない村人の力でもなんとか核を捉えることができたらしい。
とはいえ倒れ込むようにして放った私の渾身の一撃は威力を殺されてしまった。
視線の先に見えるモンスターには届きそうではあるものの倒せるとは思えない。
これで本当に終わり。
あっけない。でも役目は果たした。そう私は、私には悔いなんて……。
「――あるに、決まってる。もう1回……会いたい。会いたいよ、ハルト」
周りの景色がおかしなくらいゆっくりに見える。
身体と頭が別々になったみたいに身体は考えた通りに急いで動こうとはしてくれない。
モンスターが距離を詰めてきてる。
その牙が、爪がどんどん近づいて……殺される。
嫌だ。私、やっぱり死にたくなんかな――
『レベルが20に上がりました。パラメーター上昇。レベルアップボーナスとして身体が全快しました。職業の選択が可能になりました。モンスターの状態を可能な限り表示させます。レベルアップによるスキルの取得を現在の戦闘スタイル、仕様武器、持ち物、レベルアップの要因、いずれから発現……。【ガードブレイク(小)】を取得しました』
頭の中に不思議な声が響いた。
そのほとんどがよく分からないし、危険な状況なことに変わりはない。
けど……。
「動け、る!」
あれだけの痛みが嘘みたいに消えたことはすぐに分かった。
それにゆっくりと動いた景色は普通になって、身体もいつも通り……ううん。いつも以上に俊敏に動いてくれた。
「がる!?」
「……。そうよね。当然驚くわよね。私ですら驚いてるんだから。……。それにしてもあなたたちのそれ……ダークウルフ、ねぇ」
私が攻撃を避けたことでモンスターたちは呆然とその場で立ち止まった。
そしてそんなモンスターたちの頭上には多分モンスターの名前と、良く分からない数字が浮かんでいた。
「その数字は一体――」
「ジュリア!」
「レイナさん! 気持ちは分かるが! そんなことすればあなたが!」
聞き覚えのある。ありすぎる声が聞こえ振り返る。
あれは村長と……お母さん。
なんでお母さんがここに……。お父さんと先に逃げたんじゃ……。
「離して! あの人が亡くなって……。ジュリアまで死んでしまったら、私は私は――」
「があっ!」
ダークウルフが、視点を変えた。
多分私がお母さんの姿に気をとられてることに気づいたんだ。
それで異様な姿、動きを見せる私を確実に殺すために……お母さんを人質にしようと。
「逃げてっ! お母さん!」
必死に声を上げたけど、お母さんは村長の手を振りほどいて私の下に向かってくる。ダークウルフたちは私を無視して動き出す。
止めないと。止めないと止めないと止めないと止めないと止めないとっ!
「殺す……。殺す! それ以上お母さんに、近づくなああああああああああああああああああああああああ!!」
雄たけびを上げながら私はダークウルフを殺すために走り出す。
思ったよりもダークウルフたち遅い、けど先頭のダークウルフはもうお母さんの側まで……。
他の個体は無視。まずはあいつを、あいつから……。
「と、届けえええええええええええええええええええええええええ!!」
先頭のダークウルフがお母さんに飛び掛かろうとした瞬間、私は自分の腕を目一杯伸ばした。
ナイフを刺すことは不可能な距離、だけど……。
「がっ!?」
「掴、めた!」
私はダークウルフの尻尾を何とか掴むことができた。
これで少しは足止めができる。
「お母さん! 私のことはいいから今のうちに!」
「できるわけないでしょ! あなた1人を残して私だけ生きていくなんてそんな、の……」
「――が、あ?」
私はダークウルフと我儘を言うお母さんとの距離を離すために掴んでいた尻尾を引っ張った。
するとダークウルフは簡単に持ち上がって、しかも勢いがついてその手を離してしまったたからかそのまま上空に放られた。
上空できょとんとした顔を見せるダークウルフ。動きを止めあっけにとられながらその光景を見る他のダークウルフ。
お母さんも信じられないという表情だし、多分私もそんな顔をしている。
レベルアップ……。私はあの声が響き異常な力を身に着けることができた、らしい。
「ジュリア、あなたその力は……」
「私もなんでこんなに強くなれたのか分からない。でもこれだけは分かるわ。お母さんも生き残った村の人たちももう大丈夫。私は……こいつらより、強い」
あっけにとられている今がチャンス。
私は今の自分の力を信じながら残ったダークウルフたちに視線を向けて一歩踏み込む。
「が、あ?」
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◇
そうしてまず1番近いダークウルフの喉元目掛けてナイフをあてがい、切り裂いた。
判断が早かったお蔭か、避けられることはなかった。
簡単。あんなにも強く感じたモンスターがこんなにも簡単に殺せるなんて……。
「があっ!」
◇
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◇
2匹目。
「が、あああああああああああああああああああああああああ!!」
◇
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◇
3匹目。流石に3匹目は急所をずらすような素振りを見せたから殺すのに3発かかった。
でもこれで分かった。この数字は生命力。これが0になると死んだ、ということになる。
更に言えば私がナイフで1回刺すごとにこいつらの生命力は100減り、3回刺すだけで確実に死ぬ。
つまりは……。
「私にとってこいつらは……家畜よりもしぶとくない存在。雑魚ってことね」
「あ、が……」
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◇
4匹目。
逃げようと背中を見せた瞬間に急いで3回突くだけの簡単なお仕事だった。
これで残ったのは残り1匹。最初に放って地面に叩きつけられて身動きが取れなくなった1匹だけ。
「……。よくも。よくもやってくたなあああああああ!!」
冷静さが戻ってきて憎しみが湧き上がる。
私はそれを発散させようと残った1匹に思い切りナイフを刺した。
「ぉぁ……」
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「終わっ、た……。ハルトは……」
未だに燃える村、私の戦っていた様子を見ていた村長を含む生き残りの村人による拍手、抱き着いてくるお母さん。
私は安堵の空気が流れ始めたことを確認しながらふっと息を吐いてハルトが出て行った先を見た。
本当は今すぐにでも追いかけたい。
でもこんな状態の村を村人を置いてはいけない。
突如村を襲ってきたモンスターの出どころ、その原因だって分かってないのに。
「……。原因の排除、か」
私はそう呟くと泣いているお母さんと一緒に村長たちの元に移動。村の様子や今後の考えについて聞く。
いつか勇者としてハルトがここに戻ってきた時……。
今度はその冒険についていけるように私はこの村を再建、強固にして……もっともっと強くなる。絶対に。
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