君に経験値効率最高な俺を殺してレベルアップして欲しい。~経験値モンスターに転生した俺は推しキャラを成り上がらせるために鍛えに鍛えたあとスキル《蘇生》で何度でも殺されに行きます~

ある中管理職@会心威力【書籍化感謝】

第1話 転生

※次回10/07


『あなたは、生きて……。私の、ことはもう……。あなたは、この世界を救う勇者なのだから……。……。ねえ、最後に……。ううん。なんでもない。……。さっさと行っちまえ! この泣き虫野郎! その辛気臭い顔を一秒でも私に見せるな!』


 

「――う、ぐ……。ここ、何度見ても名シーン過ぎるだろ!」


 王道のRPG『XX~勇者たちの軌跡~』。


 その冒頭でまだ覚醒する前の勇者をこの気の強い幼馴染『ジュリア』が魔物に襲われた村で自分の身を挺して逃がすシーン。


 このシーンが本当に泣けるんですよ! ジュリアは俺の推しなんですよ!


 いやもうこの後出番はないし、そもそも二人で冒険するパートも少なくてそこまで感情移入できるの凄いって言う人もいるよ。

 でもツンツン女子が自分の気持ちを押し殺して主人公を逃がすこの表情がさぁ……。


「アップデートでジュリアルートとか出ないのかよ」


 このゲームでは複数の勇者視点を選べて物語を進められる。

 だから多種多様なエンディングが見られることでも有名なんだけど、どれを選んでもジュリア生存ルートは存在しない。


 そうなればプレイヤーにできるのはこの名シーンのムービーを何度も何度も見返して、同人誌を買い漁るくらいしかない。


 というわけで俺は今日も今日とてこのシーンを見て泣いている、と。

 数千回は見てるけどオールウェイズ、常に100点満点のムービーを提供してくれるとか本当にこのゲーム神だって。中毒性で言ったらあの有名ラーメン屋の比じゃないって。


「あー、泣いた泣いた。えー、これで俺一人での再生数が9999、か……。はは、どんだけ俺このシーンで楽しんでるんだよ。自分で言うのもあれだけど……。変人ってレベルじゃねえぞ、おい! って、なにこれ?」



『条件を満たした人間が現れました。問います。あなたはこの運命を変えてくれますか? YESorNO』



 急に真っ暗画面が映ったかと思ったらよく分からない選択肢が浮かび上がった。


 バグ? それとも隠し要素? そんなの攻略本にも開発者インタビューにもなかった気がするけど……。


「ま、バグだろうが何だろうがこんな選択肢をジュリア推しの俺にさせたら……そりゃあYESしかないよなあ!」


 迷うことなくYESにカーセルを合わせて丸ボタンを押す。

 すると……。


「は?」


 目の前が真っ暗になった。


 停電? いやいやいやいや昼じゃん、今。遮光カーテン使ってるわけでもないし……まさか俺の目がおかしくなった?

 ……。うわ。マジかよ、まだ昨日やっとの思いで買えた同人誌開いてもないってのに。


 って、だんだん明るくなって……。

 それでもってなんか……熱い?


 「あ、はは……。私、最後の最後までなんでこんな性格なんだろ?」


 え? ジュリア? こんなイベントシーン見たことないんですけど。

 ってか滅茶苦茶リアルで……。


 ――パチ。


「プぺ!」


 プぺ? 今の俺の声?

 っていうか、あっちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!


 何だこれ何だこれ何だこれ!

 村から、主人公とジュリアのいる村が魔物にやられて燃やされた村から流れてくる火の粉が……マジで熱いんですけど!

 喋れない、ってか変な鳴き声しか出ないし、熱いし、訳わかんない状況だし、リアルジュリアめっちゃ可愛いし!



「がるる……」

「あはは。まさか、『ハルト』のために集めてたこの薬草がこんな風に役に立つなんてね」


 『ハルト』……。ああ、そうか勇者はプレイヤー名。つまりは俺の名前のままなのか。

 こうしてフルボイスで呼ばれるとこそばゆい気持ちに……ってそんな場合じゃなくね?



 このままだとジュリア死んじゃうんだけど!!



 村を襲う魔物。

 今、目の前にいるこいつらって物語中盤に出てくるやべえのだし、しかも俺の知ってる情報だとここまでに1匹としか対面しないはずなのに……。


 今はえっと……5匹もいるのかぁ。


 ……。……。うん。

 あ、それとですね。オタクの俺だから今の自分の状況はもう何となく分かってますよ。


 これ多分転生してます。


 いや転生って普通滅茶苦茶強い何かになって無双のパターンがほとんどだからこれに気づいたときいけるかな、って思ったけどさ……。


 さっき俺自身が発した鳴き声って……。


 えっとぉ。俺、スライムに転生してますよね?


『要求に応じステータスを開示。またジュリア死亡まで残り1分。窮地打破適正レベルまで残り20レベル。残りリセット回数5回。ランダムで転生先が選択・決定、ユニークスキルが発現。ユニークスキル:蘇生が発現しています』



人名:天野晴人(あまのはると)

種別:スライム種

魔物名:ブロンズスライム

レベル:1

攻撃力:5

魔法攻撃力:5

防御力:1000

魔法防御力:1000

ユニークスキル:魔法完全無効、蘇生

スキル:軟体化(デメリット:防御力急低下)

魔法:なし



 やっぱスライムだったあ!

 しかもドラゴンスライムとかポイズンスライムとかある程度戦えるタイプのスライムですらない!


 いやね、スライムっていってもこの状況を打破できるような種類はいるんですよ。このゲーム。

 でもブロンズスライムって……。


 完全に経験値稼ぎ専用魔物じゃねえかよおおおおお!!

 倒されるために存在する魔物に転生とか無双とは縁遠いにもほどなんですが!


 どうする? どうするどうするどうするどうする?

 諦めて逃げる? いやいやいや! リアル化した推しを見捨てるとかありえないから!

 と、なれば……。

 

「――ぺぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「え?」


 なんとかこの魔物共を足止めして、ジュリアが逃げられる時間を作るっきゃねえ!

 幸いブロンズスライムって防御力はやたら高いから簡単には死なない! っと思う!


 っていうかさぁ、今俺反撃されるの覚悟で決死のスライムタックルを放ったのよ。


 そんで結果なんだけど、先頭の個体にヒット。からの沈黙なんだよね。


 


 もしかしてだけどこれ勝て――


「ふっ」

『初めての戦闘を確認。魔物の情報をできる限り表示します』



種別:ウルフ種

魔物名:ダークウルフ

HP:299/300



 ……。さっきからサポートしてくれてるアナウンスさん、本当にありがとうございます。

 しっかりと絶望させていただきました。


 ダークウルフ君、そりゃあほくそ笑むよね。


 リセット回数残り5回……。

 ならもうこのターンは捨てかな? あははは。


 あははははははははははははははははははははははは!!

 そんなこと言うとでも思ったか! 怯えると思ったか! オタク舐めんな!

 なら攻撃せずに時間稼ぐだけだっての!


「――ぺぽあっ! ……。……。……。ぺぼぼおぼぼぺんぼおえのおえぺぼあっぁぁああぁぁああ!!」

「がるぁあああああぁぁぁああぁあぁあぁあ!」


 ジュリアに這いずってでも早く逃げてくれって視線を送る。

 そんでもってちょっと重めのこのブロンズスライムの身体で俺はダークウルフたちを翻弄しようと必死に動き回る。


 そうすると俺よりも動きの速いダークウルフの攻撃はそんな俺に噛み付いたり、爪でひっかいたりしようとしようとして、それがたまにヒットする。


 めちゃくちゃ痛い。痛いけど、これ時間稼げる!


 さっき見た感じちょっとだけだけどジュリアは動けそうだったし、『これチャンスかも……』みたいな表情してたし……ワンチャンあ――


「巻き込まれたこんなに弱いスライムが必死に抗ってるのに……。諦める、訳にはいかないわよ、ねっ!」


 ダークウルフの攻撃で出血する脚を震わせながら立ち上がるジュリア。


 血を流しながら生気を宿す瞳で真っ直ぐ俺を見つめるその顔は流石俺の推し、可愛くてかっこいいんだけど……。


 あの、俺はあんたに逃げて欲しいんだけど。

 これ戦って散るパターンじゃん。間違いなく。


「はあああああああああああああああああああああ!!」


 地面に落ちた護身用の小型を拾い上げてそれを振り上げる。

 でもそれを見たダークウルフたちはまた薄ら笑う。


 ジュリアの必死の一撃が無駄に終わろうとする。


「……。べぽ!」


 そんな瞬間が訪れようとする瞬間俺の頭にはある考えが閃いた。


 この一撃を無駄に終わらせちゃいけない。

 でもそれをダークウルフに当てる考えも方法もない。


 じゃあ俺に今できるのはなんだ?

 俺はスライム。ブロンズスライム。経験値豊富な魔物……。


  そうだ。俺にできるのは……。


「え?」



 ――軟体化。


 

 ジュリアの前に出ると俺は心の中でスキルを呟いた。

 そして防御力が急低下した俺の身体にはゆっくりとその一撃が刺さった。


 なんで俺がこの魔物に転生したのか。

 その理由は……。


『ジュリアがあなたを殺しました。付与した経験値1000。ジュリアのレベルが20に上がりました。窮地打破が確認出来次第次の窮地打破適正レベルを行います。蘇生発動まで残り30分。その間こちらの視点を共有します』


ただただジュリアの取得経験値になるためだったらしい。

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