1日目➂
「ハンカチは…あ、教室だ。ごめんね」
「人のハンカチなんて使わないよ」
私と冬月さんは屋上へと続く階段で座っていた。
はやく落ち着かなきゃならない。
「…椹木さん、何かあったの?」
「分かんないし知らない。けど思い出したくない」
私が何を思い出そうとしていたのか、どうしてあんなに錯乱してしまっていたのかは自分自身でもよく分からない。
でも、多分もう大丈夫。
「…私、死んじゃうんだ」
「知ってる」
「これは告白じゃ無かったんだけど…」
冬月さんの言葉に「あぁ、そう」と適当に返す。
興味無い。興味無いけど…
「あ、猫被るのやめたら?」
「えっ?」
「えって何」
そのくらい見てれば分かる。
冬月さんってクラスには友達いなそうだったし。
だから皆の前では猫を被って、外では素の自分を出してたって感じだろう。
「はは…分かっちゃうんだね」
「悪いことじゃないでしょ」
猫を被るのは悪いことじゃない。だってそんなの皆やってることでしょ。
無理に他人と合わせるのはキツいと思うけど、そうしなきゃこの世界はやっていけない。
「私、結構性格悪いし。皆に悪く思われたくなくてね」
「友達の前では良いの?」
「私の性格が悪いことを知ってて、それでも仲良くしてくれる友達だから」
それは結構良い人じゃないか。
でも…
「私は君の性格を悪いとは思わないけどね」
「…え?」
「だって、私のことを心配してくれていた時の冬月さんは、素の冬月さんだったでしょ」
…これで違ってたら恥ずかしいけど。
「それに、私のほうが性格悪いよ。冬月さんの事はどうでもいいやって思ってたし」
「皆そうでしょ。このクラスに仲のいい人なんて居ないし」
私はかなり恵まれているのかもしれない。
同じクラスに友達が居るから、他の人なんか気にする必要無いし。
「でも…やっぱり独りは寂しいから」
「そっか」
独りは寂しいかと言われたら、私は別に寂しくなんてない。
ただ私は今の友達が大切だから。遠くで幸せになってるならそれでもいいやって思えるタイプだと思う。
でも、死んじゃったら悲しいし、離れるのは嫌だ。
独りは好きだけど、友達といるのも好きだってこと。
「私、冬月さんに関心を持った」
「?」
「どうでもいい他人からどうでもよくない他人に変わったってこと」
「ふふ、他人かぁ」
素の冬月さんのその柔らかい笑顔も、人柄も。今日、この世界から失われてしまうのだ。
それがどれほど惜しいことか。東は一度考えたほうが良いんじゃないか。
「曖さんって呼んでもいいかな」
「…良いよ」
私がそう返すと、綾音さんはまた笑顔になった。
「じゃあ…曖さん、今夜私を殺してくれる?」
「…良いよ」
さっきと同じ返事をもう一度、次は綾音さんと顔を合わせずに言った。
悲しんでいるのか、笑っているのかは分からないけど。
それを知ってしまうのが、何故だかとても怖かった。
(前回が長かったので、今回は短めです)
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