第1部 第3章

 食卓には、自分の分の食事にラップがかかっていたのでレンジで温め直す。

 その間、居間の方に行き、こたつの中に入る。

 この時期のコタツには、驚異的な吸引力がある。

 一度、吸い込まれると抜け出せない罠だ。

 最悪、意識を手放してしまう。

 居心地の良さから、眠ってしまうのだ。

 ………でも、気持ちいい♡。

 すると真衣姉さんがミカンを持ちながら同じコタツに入ってきた。

 「さ、食べましょう。」

 こたつといえばミカンが定番である。

 が、真衣姉さんが独り占めするために置いているに等しい。

 もし、ここで頂戴と言うとミカンのをよこしてくるからだ。

 ………伊達に何年も一緒に暮らしているわけではない。

 「ミカンなんて用意してくるあたり要件があるんでしょ?」

 「察しのいい弟は好きだよ、都木。」

 かまをかけたけど、そのまま用があったらしい。

 確かに、真衣姉さんは腹芸ができない純粋(馬鹿)な人だ。

 真衣姉さんは何の用事がなくてもまるで猫のようにじゃれてくる場合があるが、わざわざ外で待っていたからには、何か言いたいことがあったことがあるように思えたからだ。

 大体は想像がつくが………。

 「どうせ、剣崎の件だろ?」

 「うちの弟は、エスパーに目覚めたのかしら?」

 茶化しながら真衣姉さんがわざとらしく驚いている。

 遠くの方でレンジの温めが終了した音が聞こえた。

 この温もりから出るのは億劫だが出なければ朝食にありつけない。

 こたつから出て冷える空気に耐えながらレンジの扉を開けて、空気とは対照的な熱い食器を掴み、こたつまで戻る。

 本来ならキッチンの食卓で食べなければ最強のメイドに激怒されるが、今日はいないのでこたつで食べる、というちょっとした贅沢をかみしめることができる。

 バレたら、殺されるけど………。

 それに真衣姉さんをほったらかすと後が怖い。

 最悪、この邸宅が吹っ飛びかねない。

 ———比喩ではなく、何度か吹っ飛んでいる。

 正確には、真衣姉さんとメイドの攻防によって何度も壊れている。

 とりあえず、話を聞きさえすれば別に問題ないので食事をしながら話を聞くことにする。

「それで?」

「大体わかっていると思うけど、剣崎家はこのコロニー3の重要な家系なのは、知ってるよね?」

「あぁ。も、でしょ?」

「ええそうね。あなたは反対していたけど剣崎家は防衛局の最高司令官にあたる役職を継いでいる。その娘である郁美さんが防衛局に所属しようとするのは妥当だと思うけど?」

「それは実力が備わっていればの話でしょ? 今まで普通校に通っていたが突然、進路変更して軍学校も入らずに実践投入なんて無謀にもいいところだけど?」

 それにあいつは、頭が足りてないところがあるから。

 「実力ならあるでしょ? あなたたちは誘拐されて、一年かけてこのコロニーに戻ってきた経歴があるじゃない? あなたからの報告書を見る限り、ここで訓練しているルーキーより実践に強いことはわかってるわよ?」

 誘拐されたのは剣崎な。僕は、しかたなく救援したに過ぎないよ。

 昔のアルバイトで剣崎の護衛任務をしていた。で、アルバイトの時間外の時に剣崎が誘拐されたため雇い主兼親の嘆願もあり、救出する流れになった。成り行きとはいえ、情報収集から救出、金銭トラブルによって戻ってくるのに一年かかってしまった。

 ———そのあとの理奈姉さんは怖かった。

 家に帰ったはずなのに、殺されかけた。

 心配したって、言いながら首は絞めないでほしかった。

 人は呼吸をしなければ死ぬことを知っているのだろうか?

 でも、めった刺しにされるよりはマシだろう。


 しかし、気になることがある。

 やけに真衣姉さんは郁美に対して擁護的だ。

 四乃宮家と剣崎家は、昔のイザコザで反目の中のはずだ。

 理由は真衣姉さんのお父さんを見捨てたからだ。

 それによって当時の四乃宮家当主であり真衣姉さんのお母さん、四乃宮静(しのみや しずか)さんが元剣崎当主ら計23名を惨殺し、今の現当主の左腕右脚を引き裂いた過去があるからだ。

 それに、真衣姉さんと現剣崎最高司令の仲も不仲。

 仕事の仕方が、お互いに会わないのも理由の一つだ。

 そのはずなのに………、郁美の要望に沿っている。

 「そんな無責任にできる仕事じゃないのは姉さんも知ってるでしょ? 少し間違えれば痛い仕事なんだよ?」

 「自分で望んで進路を決めたのなら、それは覚悟の上でしょ?」

 ………真衣姉さんの真意が見えてきた。

 どうやら、所属するところまでは説得するけれど、その後は別にどうでもいい、と言っている。

 誰が死でも構わない。

 本当は剣崎家に依頼されても親身になることはない。むしろ毛嫌いしている。

 根本は変わらないものの、自分に説得しているところを見るに剣崎郁美に何かしら思うところがあるのか………。

 しかし、こちらにも懸念するべきものがあるのだ。

 「それに軍学校での仲間の絆は厚いよ? そこにぽっと出のキャリアが入ったら軋轢が生まれることになるよ?」

 「そんなの知らないわよ。それにキャリアだろうと何だろうと戦場に出れば同じでしょ?」

 「それは昔の話でしょ?」

 実験室の子供とコロニー内部で軋轢があるのは事実だ。

 試験管ベイビーたちは、魔法適正、身体能力、学術能力をクリアしたものが防衛局に上がってくる仕組みであるためエリート意識がある。且つ周りも見知った顔であるからか、を毛嫌いする傾向にある。

 軍学校は9割が試験管ベイビーである。彼らがエスカレータ式で防衛局に上り詰めてくる問題が存在している。

 昔、自分が軍学校に入ったときにいわゆる“”にあった。

 僕としてはどうでもいいし、理奈姉さんみたいに早く自立できるようにと勉学に励んだ。………昔は、僕もまじめだったなあ。

 それが彼らをエスカレートさせていった。正直、鬱陶しい程度にしか感じなかったので教官に注意するように言って放置した。

 ただ教官もよくなかった。

 僕らの時代がかなり成果のいい子供たちだったらしく、臍を曲げないように注意だけで終了させてしまい、僕がさらにその報復を受けることになった。 

 そのせいで自分の持っていた教材をすべて燃やされてしまった。

 この時、僕自身が達観していたのがさらに良くなかった。

 真衣姉さんも同じ軍学校に入学していたため、お古の教科書をもらおうと、ことと経緯を話した。


 


 その後の惨劇はひどかった。

 真衣姉さんが、早朝に僕の教室で殴り込みをかけた。

 僕がいつも通り教室に入ると中は血の海となっていた。

 僕が真衣姉さんを止めなければ、死人が出ていたことは確実だった。

 その後、僕とクラスメートは真衣姉さんからの条件を飲んで、この件は終了となった。

 終了後、僕の保護者兼メイドのシュガーに散々怒られている真衣姉さんの姿があった。

 後日談にはなるが、過度な嫌がらせもなくなり平穏に過ごすことができるようになった。

 ただ、ねじ曲がった変化もあった。

 クラスメートが僕を見る目が、軽蔑の目から尊敬の目に代わったこととか、教官が廊下であったら敬礼してくることとか。

 四乃宮家では、剣崎家とひと悶着あったが真衣姉さん的にはメイドからのお説教が一番堪えたと言っていた。それに、メイドのシュガーが剣崎家に行って黙らせた、というのもある。………うちのメイド、昔のヤクザの鉄砲玉では?

 「あの時のトラウマのせいで、同期防衛線メンバーは四乃宮って名前を出すだけで泣く人もいるし、僕を見ると崇拝するように崇める人もいるくらいだよ。」

 「従順になってよかったじゃない?」

 よくない。

 むしろやりづらさを感じている。

 毎回、休憩室に入ろうとするとさっきまで和気藹々とした雰囲気から張り詰めた空気なり、起立して敬礼してくるのだ。

 それも同期だった人たちが。

 「護衛をしていた時よりも給料は上がったけど、コミュニケーションの取りづらさを覚えるね。畏敬の念は、肩を窮屈にするよ。」

 「なら、剣崎さんをいれても問題ないんじゃない?」

 「………うーん。」

 この姉がここまでするのはなぜか?

 他人なんてどうでもいいと思っている姉が………。

 しかも剣崎家の娘を持ち上げるなんて、死んでもやらなそうな人が………。

 「姉さん。」

 「うーん、何?」

 皮をむいたミカンを口にほおばっている姉に思い当たることを告げる。


 「もしかして剣崎に自分の告白を手伝ってもらった?」

 「ぶっぼっ!」

 勢いよく噴出されたミカンの汁は僕の顔面へ。


 真衣姉さんに好きな人がいるのは知っていた。

 最初知ったとき、開いた口が塞がらなかった。

 真衣姉さんが、恋!?

 僕と理奈姉さんは、一週間、夜しか眠れなくなった。

 そして反応を見る限りを引いたらしい。

 それよりも、姉が吹いたミカンの汁が僕の目に大ダメージを与えた。

 「目がああああああ!」

 効果はバツグンだ。

 「お、おかしなことを言う弟にはバロスを食らわせただけよ!」

 あんたは古代文明の末裔か!

 「自分の恋路を手伝ってもらった代わりに弟への説得を受け持つ姉に言われたくないよ!」

 こたつから立ち上がり、スーパーダッシュで走り出す。

 視界がぼやける中、フェイスタオルを取りに更衣室に行き、所定の場所から取り出す。

 そのまま備え付けの蛇口から水を出して顔を洗う。

 洗って、顔を拭くと目が赤くなっていた。

 ミカン、恐るべし。

 でも、さっきの話には考えさせられた。

 認めるべきことは認めるべきだ、と。

 本人が望んだことであれば、こちら側が止めることではない。

 悔しいけどその通りだ。

 僕自身、まだまだ世間を知らない。

 一人前とは程遠い存在だ。

 そんな僕が他人の進路を止めるは、おかしいことなのかもの知れない。

 それに剣崎も昔に比べればかなり成長したと思っている。

 昔は会うたびにツンケンしていたが、今ではちゃんと対等に話をするようになった。

 気に入らないことがあるとすぐに飛び掛かったり、学業でわからないところを教えると生意気だと言って、殴りかかられた。

 ボディーガードをサンドバックと勘違いしている節があるものの、昔のように右といえば左のような天邪鬼さはなくなったので成長したと思える。

 ———うん、そういうことにしておこう。

 明日は休みで、明後日の朝からの勤務で剣崎とは顔を合わせることになる。

 そう思うと気が重い。胃がキリキリする。

 向こうは初勤務。

 おそらく防衛局の館内案内を新規配属者全体で受けた後、オペレーションルームに移動してそれぞれの適性判断で所属ごとに割り振られる。

 でも適正とは言っても、後方支援が勤務初期に与えられる任務のはずだ。

 突然、現地入りさせられることはないだろう。

 僕のようなを除けばだが。

 なぜなら、敵を知ることが最初の試練だからだ。




 このコロニーを維持するには敵の排除は必須となっている。

 敵としては複数の種類がある。

 盗賊や罪人、テロリストから中央司令への侵入を防ぐこと。

 彼らに中央指令室を占拠されると、他コロニー情報や、コロニー住民への危害、備蓄食料の盗難が発生する。

 さらに危険な生命体がある。

 【ホワイトカラー】と呼ばれる異形種だ。

 人類の敵と呼ばれ、現在は地上の支配者だ。

 【ホワイトカラー】は300年前くらいから観測された生命体で、人間を追い回し捕食する危険生物だ。

 形態はさまざまで大まかに7つ存在されている。


 暴虐の使徒 ギュスターブ。

 憑代探し ネクロイーター。

 精神衰弱 サンドサウルス。

 過重力 グラビトン。

 鏡写し ミラーマジック。

 飢餓の群衆 ピグランド。

 幻影の蜃気楼 ザイカ。


 どの形態も特殊な能力を有し、防衛線維持において最も死傷者数が多くなる原因だ。

 今では彼らが地上の支配者である。

 遭遇は災害と同等であり不定期に地上を巡回しているので予知ができない点も難点の一つである。

 まあ、僕にとってはでもあるけど………。



 そんな脅威からコロニーを守るのが防衛局の仕事だ。

 ちなみに真衣姉さんは、防衛局の中でも実力者だ。

 特務隊の大佐として働いている。

 特務隊は、防衛線の外部を巡視して怪しい施設及び敵対勢力がいないかを索敵することが仕事であり、その間、コロニーとは無線圏外となるためトラブル時に助けることができない。

 が、問題はない。

 まあ、そもそもである。

 このコロニーで真衣姉さんに対抗できる人は防衛局にはので、勝てない時点でこのコロニーの命運が尽きたことを表す。




 居間に戻るとコタツがガタガタ音を立てて動いていた。

 ………またか。

 姉の醜態を見せられる弟の気持ちをわかってほしい。

 「真衣姉さん、着替えくらいコタツから出てよ。」

 「寒いんだから、いいでしょ?」

 まるでノミ虫のように真衣姉さんがコタツから這い出てきた。

 先ほどまでのパジャマにカーディガンの服装から黒のパーカーにジーンズを身につけている。

 「いまさらだけど仕事開始は、朝の八時半からでしょ? もうすぐ昼だよ?」

 「うちの部署は私がいなくても回るからいいの。」

 「いや、大佐なんだから時間は守ってあげようよ。あとミカンの皮は捨ててね。」

 そのままにしておくと、シュガーに怒られるよ?

 「大佐だなんて、肩書でしかないから。あの子たちには自分たちで判断できるように教育してるから大丈夫よ。」

 教育………。

 の間違いでは?

 その時、つけていたテレビから特報が流れた。

 『速報です。宗教国家アルカディアが全コロニーに対して宣戦布告を発表しました。隣接するコロニーにでは、今でも交渉が続いておりますが、衝突の回避は困難を極める状況となっております。』

 また、面倒な話題が出てきた。

 以前、行った時もあの国はめんどくさいしがらみがあって、人間至上主義者たちがコロニーの存在を神への妨害行為やら、人類の明日を閉ざす行為だとか、何かにと難癖をつけていた。そしてここに至って、宣戦布告………。

 「また? 都木君さぁ、もう一度行って来たら?」

 「何言ってんの?」

 「だってさ、この人たち現実が見えてないようだから。」

 「行っても同じ結果、もしくは時間稼ぎくらいにしかならないよ。」

 「そうかなぁ、あそこが導入しているさえぶっ壊せばそろそろ実感してくれると思うけど?」

 「前回の勇者様を倒したけど、現状変わらないってことが実証されたよ。」

 「………ま、そうね。」

 宗教国の思想には理解が及ばないからほんとに厄介である。

 そんなとき、まるで思い出したかのように真衣姉さんが話を振ってきた。

 「ところでさ、うちの部署に早く移動してくれない? うちの隊員たちから要望が大多数きてるんだけど?」

 まただ。

 別に興味ないのに。

 「言ってるでしょ? 特務隊には行かないよ。めんどくさい作業が多そうだし。」

 「給料は上がるよ?」

 「めんどくさいのがいやだから今のままでいい。」

 「ちぇ。」

 自分の自由財産は現状のままでいい。

 ………いや、たしかに給料が上がってガチャできるならうれしいけれど。

 「あきらめないから、はやく部署移動しておいで。」

 手をひらひら振りながら真衣姉さんが玄関に移動していく。

 特務隊なんて他部署が扱いきれない事柄が最終的にくる厄介ごと部署だ。

 絶対にヤダ。

 そうでなくても僕の休日中に特務隊の人から姉さんを止めてくれ、と苦情が出た結果が明日の代休にあてがわれている。

 自覚してほしいものだ。

 「ところで、今日はどうするの? 仕事は明後日からでしょ?」

 「まず、寝る。そんで起きたら晩飯の時間頃になるから食べて朝まで寝る。」

 「シフト勤務は時間帯がずれるから体への負担デカいよね。日勤の時間の方がよくない?」

 まるで切り口を見つけた悪魔だ。

 「就労の時間無視してる人に言われても………。」

 「いいじゃない。それじゃ行ってくるね。」

 手を振って家をドタバタ出ていく姉には頭が痛い。

 計画性をもって行動してほしいものだ。都合が悪くなると逃げる癖もなんとかしてほしい。………あ、ミカンの皮そのまんま。

 そして姉さんのせいで朝食が散在しているコタツ。頭がさらに痛くなる。

 とりあえず、無事な朝食を胃に詰めていく。

 いや、時間帯からしてもう昼食といってもいいかもしれない。

 はやく食べ終わって眠りたい。

 そう思っていた矢先である。


 「やあ。」


 音もなくその男は立っていた。

 スーツ姿でどこかのサラリーマンとも思えてしまうが、気配もなく蛇のように気が付いた時には目の前にいる。

 「みんな、僕を眠らせない気なのかな?」

 苛立ちを覚え、不満をぶつけるように言い放つ。

 「今日は機嫌が悪いようだね。」

 全く悪びれずに飄々とした態度でコタツに入ってくる。

 入ってくるのはいいけどスーツのまま入って大丈夫なのだろうか。そのまま入ると後でシワが付いていたりするから嫌な思いをしたことあるんだけど。主にシュガーのスーツチェックで、シワ一つで拳が一回とんでくる事件があったから。

 まあ、無視無視。眠いから必要最低限のエネルギーでことを済ませよう。

 「そりゃそうだよ。こっちは寝たいの。なのに、みんな予定をぶつけてくるんだもん。」

 「いやいや、困ったね。」

 「感情のこもっていないご感想ありがとう。」

 「難しいな。ご機嫌取りは。」

 皮肉をカウンターしてきやがった。

 「それで、要件は何だよ。」

 「なに。いつも通りさ。」

 なら、帰ってくれ。

 「自称悪魔さんは暇なのかね。」

 「いや、全然。予断を許さない状況だよ?」

 この男は、度々現れてはよくわからない会話をして去っていく。

 それに自分から悪魔と言っているのだからそうなのだろう。

 事実何もないところから僕の空間検知にも引っかからずにここまで来てるのだ。

 「毎回言ってるでしょ? アフターケア? カウンセリングだって。」

 「眠いんでパスで。」

 「今日は機嫌が特に悪いみたいだね? 寝不足かい?」

 「やっと食事にありつけたと思ったところに突然の来訪があったからね。」

 「そうかい。大変だね。」

 どこ吹く風である。

 この男に皮肉は効かない。

 さっさとご退場願いたいので促すことにする。

 「大体さあ、なんでそんなことをする必要があるの?」

 「昔、成り行きのまま人に関わったら、世界が滅びかけたからだよ。」

 さらっと爆弾発言を突っ込んできたが、もうすでに頭の回転は8ビットCPUと同じだ。

 「つまり、自業自得なわけだ。」

 「いや、確率的に起こりえないことだったんだけど、『ありえない』を可能にする能力だったからね。」

 「何が違うんだよ? 世界に『絶対』は存在しないことは知ってるでしょ?」

 「絶対はないが、可能性が低いことより高い方に注視するのが一般だろう?」

 そういいながら、僕のおかずのハンバーグに手を付けるな。食事の楽しみが減るだろ?

 「それで、予期しない方向に未来が改変された結果、今に至ると。………おい、二切れ目に手を出すな。」

 「そうだね。そういったことを防ぐために、定期的に会いに来てるんだよ?」

 善良ぶっているが、おかずのハンバーグを半分食べている時点で悪魔の所業だ。

 ………いや、悪魔だったわ。

 「それはどうもありがとうございます。なので、お引き取りください。」

 「……これだけぞんざいに扱われたことはないよ。」

 最後の一切れを食べてよく言う。

 「ハイハイ、そうですか。ハンバーグ全部食べていただいたおかげでメインがなくなりました。で、あとは食器を洗って寝るだけになりました。おやすみなさい。」

 事実、ハンバーグがなくなり、ものさみしくなったお皿が一つあるのだ。

 突然やってきて、朝食の楽しみの一つをとったのだ。イライラをぶつけてもいいと思う。

 「授業料さ。タダで慈善事業はやらないさ。」

 「そうですか。こっちは早く寝たいのでお引き取りください、このクソ野郎。」

 「そうかい。それじゃお暇するよ。またね。」

 そう言うと登場と同様に空気に溶けるように消えた。

 相変わらずわからない男である。

 真衣姉さんがほったらかしにしたミカンの皮を回収して、生ごみ入れに入れる。食器を洗浄機に入れ、その間に歯磨きをして就寝の準備を整える。

 洗浄機から終了のアラームが鳴り、食器を取り出し元の戸棚に戻しておく。

 きっちり戻しておかないと後で怒られるためである。

 もう時間は正午を回っていた。

 自室に入る前にルームプレートを就寝中にしておく。

 自室に入り、ベッドに倒れこむように横になると自然と瞼が重くなり閉じられていく。




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