第2部 第5章

 「ん?」

 なんか背中に寒気が………。

 「どうしました?」

 「なんか姉一号が便器に突っ込まれた気がして………。」

 「どんなことが起きたら便器に突っ込むことになるんですか? あり得るとしたら、泥棒が子供を追い詰めるために、空き家に入ったらバーナーで頭を焼かれて便器に突っ込むくらいしか考えらあれません。」

 いや、それ有名な映画の話でしょ?

 しかも突っ込んだ後、さらにひどいことになった気がしたな………。

 まあ、気のせいだろう。

 あ、でも帰ったらもう一回見たくなったな。

 エメプラで見れないかな?

 今は、ジープを中継地点から走らせて約2時間経過時が経過したところだ。

 そこでようやく目的地が見えてきた。

 「はー、でかいなあ。」

 宗教国家アルカディア。

 コロニーのような地下都市ではなく、地上に現存する地上都市国家だ。

 地上には、いまだに都市国家が残留しているところがある。

 宗教国家アルカディアもその一つだ。

 端的に言えば、地上でも生活できる環境がそこにあった、というだけだ。

 この街を俯瞰するために小高い丘にジープを止めて眺める。

 円形の外壁を囲うように侵入防止用の鉄フェンス、有刺鉄線などがそこら中に張り巡らされていた。

 それに………。

 「この外壁模様………。」

 黒いシミが、そこかしこに散在して見えた。

 乱暴に塗り付けたようなそんな大雑把なものが外壁すべてにあるのだ。

 それに、何よりこの都市………。

 「気持ち悪いな。」

 「? なにがですか?」

 「何って、めちゃくちゃ瘴気が内側に籠ってるからさ………。」

 「瘴気? 私には何も感じませんが………。」

 いやいや、やばいって。

 こんなところに一時間もいたら思考がおかしくなる。

 サンドサウルスみたいな精神汚染系の魔法領域だ。

 しかも一般に察知されない特殊系のものだ。

 僕のように空間探知系の能力があれば、この異常な瘴気を察知できるだろう。

 出所は………地下、かな。

 「これから、中に入るけど。精神汚染耐性の防護術は持ってる?」

 「その類なら心得があります。」

 「なら、入る前に対策なり準備しておいてね。あの大きな大聖堂かな? あそこからものすごい瘴気が放たれてる。」

 なんなんだ、あれは………。

 宗教国家って言ってるくらいだから清純なところだと思っていたけど、見た印象は汚泥みたいにドロドロしている。

 「でも、なんで瘴気が町を満たしているんですか?」

 「憶測だけど、あの聖堂に奉られているのが真っ当な神様じゃないんじゃない?」

 「と、言いますと?」

 ピンと来ていないネイトに説明していく。

 「かなり昔から、怨霊や邪悪な存在となってしまった者たちを神として崇めた時代があったんだ。例として、あるものは陰謀に、あるものは親族の恨みに、あるものは時代に。そのせいで強い恨みを残して逝った人達が後世の人たちから恐れられ、怒りを鎮めるために神様として持ち上げられたってことが時代の調書に残ってるよ。それと似たようなものだと思うよ。」

 「はあ………。私は博愛主義ですが、人間の身勝手な行動を許すのか、は別ですね。」

 まったくだ。

 そういったことのないように、欲はほどほどにしなければならない。

 何事も、ほどほどが一番。

 「それでこれからどうしますか?」

 「どうって?」

 「どうやって侵入するかですよ。」

 え? いまさら?

 「いやいや、そんないまさら………。」

 「何か作戦でもあるんですか?」

 ハハハ!

 面白いことを言うな、ネイト!

 そんなの決まってる。

 「正面から乗り込むだけだよ。」

 

 


 正門の入り口を手に持ったハルバートで叩き壊して中に入る。中からは瘴気が一層濃く感じられる。

 「うっ。」

 本当に気持ち悪くなるな。

 城壁の異変に気が付いた衛兵たちがこちらに集まってきたので、ハルバートを振り回しながら打ち上げていく。

 すると開けたところに出た。中央広場だろう。

 「そこまでだ!」

 「? だれ?」

 5人くらいのパーティーだろうか。

 盾を構えたおっさん、中間にいる剣を構えた少年、後衛に2人の女性陣。

 「我々は勇者一行だ!」

 あー。

 勇者システムだったっけ? 都市の中で強いものを闘技させて選抜させる旧世代式成り上がりシステム。ほんとうに懲りないなあ。 

 とりあえず義務を果たすか。

 スリーカウント。

 「とりあえず、武装を解除して投降してくれない?」

 「断る!」

 「今なら、だれも傷つかずに済むから。」

 「世迷言を!」

 「このまま開戦すると死者が多数出るからやめてくれない?」

 「お断りだ! 悪の信徒め!」

 交渉決裂。

 でも義務は果たした。

 ———つまりは、どうしようとだ。

 「歴代最高である先代には及ばないものの、我々は負けない。」

 先代………。

 ———ああ。あの装備任せの特攻野郎が?

 「ハハハ!」

 「何がおかしい!」

 「いやね、あれが歴代最強なの? ハハハ!」

 「我が兄を侮辱するのか!?」

 「侮辱も何も程度が知れるってものだよ。」

 だって、装備任せで突っ込んできて自滅しただけだし。

 僕は、ただちょいちょいとだけだ。

 「っ! 許しはしないぞ!」

 そういって単身で中衛を任されていた少年が怒り任せに突っ込んできた。

 「未熟だな。」

 そういってハルバートをほぼ真上に投げた。




 相対している隻腕の男の底力が見えなかった。

 闘技場で戦ってきた相手は大体が力量を見ることができた。

 スピードも体力もコンディションもすべてわかった。

 でも、今、目の前にいる男は何もわからない。

 沼のように底が見えないのだ。

 それでいて、隙だらけのフォームを取っている。

 まるでやる気が感じられない。

 「いやね、あれが歴代最強なの?ハハハ!」

 「我が兄を侮辱するのか!?」

 「侮辱も何も程度が知れるってものだよ。」

 挑発だと思っていても怒りがわいてくる。

 兄は努力を欠かさなかった。

 隙があれば素振りを行い、ランニングを怠らず、必死でこの都市を守り抜いた偉人だった。

 ———それなのに、兄の死体は無残だった。

 鋭利な刃物で切り刻まれたのか左太腿は輪切りにされ頭部にいたっては原型がなかった。

 どうして、そんなことができるのかわからなかった。

 世界を守る勇者がこんな惨い姿で戻ってくるなんて想像ができなかった。

 みんなが言うには悪魔にあった。と言われていた。

 その名も『血の海(レッド・デス)』。

 その名前は、この都市内で畏怖の対象になっている。

 だが、その強敵を打ち破らなければ先はないと思い、これまで努力を重ねてきた。

 いつの日にか、その悪魔と出会うことになると思っていたからだ。

 そして、今目の前にいる人物こそまさに間違いなく10年前、兄が戦った相手だろう。

 ここで倒し、兄を越え、世界を救う!

 そう思い、男に向かい身体強化で近づく。

 その途中で男はあろうことに武器を空中に投げ捨てた。

 まさに気軽に。

 完全になめられている。

 「っ! おい!」

 仲間の静止の声を聞かずに突っ込む。

 武器を持たない相手ならばこちらが圧倒的に有利。

 ………そう、思っていた。

 振りかぶった剣を相手めがけて振り下ろす。

 が、相手は半歩下がるそれだけで斬撃の範囲から抜けたのだ。

 そして、振り下ろした剣に足を載せて反撃の蹴りをお見舞いしてきたのだ。

 防ぐために剣でガードしたが、衝撃を殺しきれず剣は砕けてしまった。

 完璧な間合い把握能力。

 ここからは、武器を取られた以上素手での殴り合いになるが、一旦下がった方が無難だろう。武器はないものの味方に強化付与してもらえれば、まだ勝機は———。

「———未熟。」

 相手が余裕で言ってくるが、ここで動かないことを後悔すればいい。

 まだ次の一手が………。

 自分の頭上に影が落ちた。

 そして、視界が暗転した。




「未熟。」

 目の前でトマトをつぶしたかのように、ハルバートに潰され破裂した男に同情すら覚える。

 彼の仲間内を見ても何が起きたのかわからないといった顔をしている。

 おそらく同格レベルなのだろう。

 戦闘は相手の思惑通りに動くことはご法度だ。

 だから、常にを見る必要がある。

 でもここにいる人たちは、僕にばかり気を取られて武器には目もくれていなかった。気が少し引けるけどこれから起こることは自分たちが引き起こしたことだと認知してほしいものだ。

 一ミリも温情をかけようなんて思わない。

 時間もない。

 手を上空に上げる。

 手に魔力の塊を作り、打ち出す。

「フィールド形成。」

 打ち上げられた魔力の塊は花火のごとく打ちあがり、上空の一点ではじけ、ドーム状に都市を覆った。

———これで彼らの退路は断たれた。

「さて、一仕事しますか。」

「私はどう動きますか?」

 敵勢力が呆けている間に、ネイトが聞いて来た。

「うーん、それじゃあ、西ブロックをお願い。僕はあの大聖堂を含めて東ブロックを攻めるよ。北ブロックは今からコスモスちゃんにやってもらうから。」

「南ブロックはいいのですか?」

「南ブロックは人がいないのを確認しているよ。理由の検討はつくけどね………。あ、あと西ブロックの中心らへんに人質っぽい反応があるから回収は任せるよ。」

「わかりました。それではほかの人物は………。」

「鏖殺だ。」

「一般人も?」

「もちろん、は厄介だから対象全員殺すよ?」

「なぜです?」

「瘴気が立ち込めてるとはいえ、信仰によってここの神様は形成されている。だから信仰するを断てば神様の弱体は免れないからね。」

「つまり、生かしておいてもいい感じですか?」

「———別にいいけど、そこまでうまくいけば、ね?」

「大丈夫です。問題ありません。」

 そういって、薄氷のような笑みを浮かべた。

 この笑顔。

 大抵サイコなことを考えてるな?

 ———まあ、いっか。

「ぬからずに、ちゃんと仕事はしてくれよ?」

「問題ありません。先ほどの件で力量は把握しました。私は博愛主義ですので慈悲の心は持ち合わせております。」

 昔から、読めないんだよなあ。この人。

 でも、そつなくこなすからいいけどね。

 それはそれとして、

「コスモスちゃん、出ておいで。」

 そういって次元の空間から出てきたコスモスちゃんを召喚した。

 コスモスちゃんは、また大きくなっていた。大体、体長3mくらいになったのだろうか。これは親を越えるのも時間の問題だな。

「ガぅ。」

 ああ、コスモスちゃんも気持ち悪そうだな。

「ごめんね、防護してあげるから。」

 そういって、コスモスちゃんに精神系の防護障壁を纏わせる。

 それにより楽になったのか苦しそうな息遣いから穏やかな表情に変わる。

「ガウガウ♡」

 そういって足元にスリスリしてきた。

 マジかわいい。

 これ終わったら目一杯可愛いがってあげよう。

「いいかい、コスモスちゃん、ここからまっすぐ行ったとこにいる人たちを全員食べていいよ。食べ残しは、殺していいからね。でも、ネイトはダメだからね。傷つけたり、ましてや殺して食べたりしたら僕が君を食べちゃうぞ♡」

 そういうや否やコスモスちゃんはネイトの匂いを嗅ぎ始めた。

 ある程度嗅ぎ終わったのか、戻ってきて、

「ガウガウ。」

 わかった、と。

 本当に呑み込みが早い。

 いい子いい子♡

「それじゃあ、鏖殺開始♡。」

 そういって一歩踏み込んだ僕らを悲鳴が向かい入れた。




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