第2部 断章2

 体を揺さぶられ眠っていた意識が覚醒していく。

「お嬢様、少しよろしいでしょうか。」

「シュガー?」

 あれ? 私いつの間に寝ていたのだろうか?

 そうだ、今何時だろう?

 そう思い、時計を見るとまだ朝の5時だった。

 現場に行くまでにはまだ時間はある………。

 ほっ、と気が緩まる中で、なぜシュガーが起こしに来たのかが気になる。

 あと普通に起こしてくれることもできたんだ………。

 「どうしたの?」

 まだ寝ぼけている頭をなるべく回転させるように努める。

 「久々の睡眠の最中、申し訳ありません。」

 いつものぞんざいな態度ではなくまるでメイドのような対応にまじめな話であることが理解できた。

 いやね? メイドらしくないメイドが我が家のメイドだから。

 「馬鹿にしてますね?」

 馬鹿にしてないです。

 眠くて頭が回っていないだけです。

 怒らないでください。

 心を読まないでください。

 「まじめに聞いてください。」

 はい、まじめに聞きます。

 「この度の襲撃ですが、このコロニー3だけではないかもしれません。」

 「………つまり、他のコロニーも襲撃されていた可能性もあるってこと?」

 「そうなります。———協力者からの情報提供があり、その可能性が高いとの連絡がありました。」

「協力者? 信頼できるの?」

 交友関係皆無のこのメイドに協力者がいることに驚きだ………。

 「ええ、お嬢様と同じくらい馬鹿ですが、信頼できます。」

 いまさらっと当主を馬鹿って言ったな、このメイド。

 「馬鹿に馬鹿といっても現実は同じなので問題ないかと。」

 「せめて頭のネジが緩いくらいにとどめておいてよ!」

 「その場合、ネジが何本も足りないと表現するのが適切かと(笑)。」

 容赦がない。

 「事実なので。」

 そこは嘘でも否定してよ。

 「事実なので。事実なので!」

 大切だからって2度も言わんでいいのよ。

 「本題に戻しますね、馬鹿当主。」

 ………はい。

 「情報提供者によると、廃棄されたコロニーを使用して他コロニーを制圧していき、今回の襲撃を行ったのでは? と。」

 「証拠は? せめて、爆弾が起爆前に回収できればロット番号から製造コロニーを特定できるのだけど………。」

 「こちらをご覧ください。」

 左手のチップから受信した画像をみる。

 「これは現在、宗教都市アルカディアとコロニー78の戦闘エリアで宗教都市アルカディア側の使用していた爆弾になります。」

 画像からするに最新型。既存のどの型にも当てはまらない。

 そしてこのロット番号………。

 「コロニー8製造品………。」

 「はい、その通りかと。」

 コロニー8は、このコロニー3から西に行ったところ、海で隔てられた小島に位置するところに存在する。その品が、かなり距離のある戦地にて、コロニー78の襲撃に使われていた、と。

 それに人形型の襲撃場所からすると、………理に適う。

 「今はそれだけですね。しかし、この近辺で廃棄されたコロニーはコロニー9です。この位置取りを見ると6,7も陥落しているとみるべきですね。」

 「———厄介極まりない状況ね。」

 これから調べるにしても、時間も人も足りない。人質がどのコロニーにとらえられているのかもわからない。こんなべらぼうな状況だと打つ手もない。

 うーん、これは手詰まり感がある。

 最悪、より多くの人間を助けるために取捨選択をしなければならないかもしれない。

 「なので、これからコロニーの一つを協力者に潰して情報収集をしてもらうことにしました。」

 「………大丈夫なの?」

 「ええ、もし人質がいたとしても逆に好都合かと。」

 「潜入系に強い感じなの?」

 「弱いです。そっこーでアラームを鳴らす人です。」

 「ダメじゃない!」

 「アラームが鳴り響く時には中心の指揮官を引き裂いてる人ですから。」

 なんだそれ。

 でたらめな奴がいたものだ。

 「同じくでたらめな人に思われたくないと思いますよ。」

 心を読まないでください!

 私は常識人です!

 本来なら馬鹿でもない一般ピーポーです。

 「は? 何言ってんだ、こいつ?」

 そんな蔑んだ眼と使用人にあるまじき口の利き方!

 「巨乳には夢が、貧乳には希望が詰まっていると聞いていましたが、———あなたの場合見栄しか詰まっていないようですね? フッ(笑)」

 笑わないでよ! 私の体は、なぜか脂肪分がたまらないの!

 「だから貧乳じゃない! スレンダーなだけ!」

 「私や理奈様のものを触って確認しますか?」

 いじめるな!

 あなたたちはいいですよーだ。

 いや、違う! ———そう! 私の成長期は来てないだけですぅ!

 「失礼しました、胸を張れなくなったら今度こそ胸無し、いや、陥没……フフフ。」

 「してないし!」

 このメイド、今後私の恋路もいじってくるに違いない。

 「当たり前です。溜まってた鬱憤、ここで消化させていただきます。」

 そうするとかなりのいじられ方を………。

 「ええ、それに………。」

 あれ、何か怒ってない?

 「昨夜のお酒は楽しかったですか?」

 メイドの雰囲気が一変した。

 鬼に変貌しはじめているぅ!?

 あれ、何で知ってるの?

 匂ってる?

 あ、そういえば香織さんは?

 「帰ってきてみれば泥酔して、床に吐瀉した方がいました。」

 香織さん!!!

 ダメだって! ここでゲロ吐いたら!

 しかもよりによって、シュガーが香織さんと鉢合わせになるなんて………。

 犬猿の仲なのに———そんな事態を目の当りにしたら………。

 「私は理奈様の介護で付きっ切りで対応していたのにご自身たちはお酒に酔っていたと………。」

 「それは申し訳ないと思うけど、ゲロ吐いたのは香織さんであって私のせいじゃない! それに、私はコップ一杯だけだから………。」

 我がメイドの後ろから幽鬼が立ち上っているかの如く形容しがたい圧を感じる。

 知っている。

 この弁明が無意味であることを。

 「では、死ぬがいい。」

 休み明け一発目、私は便器に突っ込まれた。




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