第2部 第4章

 起きたときには、もう夕暮れに差し掛かっていた。

 足元ではコスモスちゃんが、まだ寝息を立ててグルグルと寝ていた。

 しかし、ちょっと気になったことがあった。

 「なんかでかくなった?」

 もともとの体長が1mくらいだったのが2mとちょっとくらいまでに大きくなっていた。

 まあ、慣用句にもある通り『男子、三日会わざれば刮目して見よ』だな。

 たぶん女の子で一日もたってないけど。

 さらにいればこの慣用句は志を持つもののことを指すから全然違うけど。

 さて、起こすのは心苦しいが仕方がない。

 「起きてコスモスちゃん。」

 「………ガゥ。」

 すごく眠そうな反応だ。

 「日陰ぼっこは終わり。また次元の間で眠ってて。」

 「ガウ。」

 そういうと、次元の隙間に入っていった。

 おそらくサンドサウルスは燃費が悪いのだ。

 常に砂の底で休眠していて獲物が来た時だけ起きて捕食する。

 それに常時展開型の精神作用系の魔法を使っている。

 餌が少ないところでは常時眠っているのだろう。

 それにより、エネルギーを節約する手段を体得しているのかもしれない。

 それでもしばらく、飢えることはないはずだ。

 エネルギーは摂取させたし。

 さて、それよりもこれからどうするかだな。

 おそらく、ここでのタイムリミットも近い。

 迅速に対応しなければならない。

 そうしなければあの親子の生存率が下がっていく。

 なにより、

 「手加減されて負けちゃたからなあ。恥ずかしくて顔向けできないなあ。」

 確かにいろいろ状況が悪かったのもあるけど、守れなかった自分が何よりも恥ずかしい限りだ。でも、行動しなければ本当に取り返しがつかないことになる。

 とにかく、これからどうすればいいのか。

 ここでのタイムリミットは最低でも3日間として、移動に1日、救出に3日ってところかな。

 つまり、ここのヘリポートさえ使えれば時短につながるわけだ。

 どうしたものか。

 ここは、速度重視で行くか。

 方針は決まった。


 そこに、レグノとデレクが走ってやってきた。

 「なんか、休息のために寝ていたらえらいことになっていてびっくりしましたよ。」

 「しかも、自分たちに御用家の勤めが回ってきて、頭が回ってません。」

 なるほど、上の人たちは誰も中継ぎをしたくなくて全部下に押し付けたってことかな?

 まあ、考えられることだなあ。

 「おめでとう。はれてお偉いさんになったってことだね。」

 「よくありませんよ! 御用家なんて重大な責務どうこなせばいいかわかりません!」

 結構、責任感がある人だな。

 今の時代にしては珍しい。

 でも、そんな人だからこそ任せることができる………かもしれない。

 「そんな難しく考えることないよ。強ければいい。そしてコロニーを守ればいい。それだけだよ。」

 「簡単にいわないでください!」

 「そうです! 作戦ならともかく内政なんてわかりませんよ! それに防衛線の実力だって———。」

 ふむ。急に言われて頭が混乱していると見える。

 「単純に考えればいい。………って言ってもわからないか。じゃあ、まず課題を一つ一つクリアしていくのみ。」

 「「は?」」

 「それじゃあ、練習試合といこう。もちろん、僕は補助具無しの素手でやるけど。」

 「「まっ———。」」

 「打ちどころ悪いと死ぬからちゃんと気を引き締めてやってね?」

 



 5分後

 「はぁはぁぁ。」

 「………ぁっ。」

 二人とも呼吸が荒くなっていた。

 「どうしたの? まだ五分しかたってないよ?」

 そういいながら、間髪入れずに脚を思いっきり地面に叩きつけ、砂埃を舞い上がらせる。

 「視界不良というイレギュラーだよ。さ、目だけを使わずにあらゆる手段で防いでね。スピードはさっきと同じくらいでいくよ。」

 「まっ、ゲホッ。」

 「ゲホッゲホッ。」

 「敵は待たないよ?」

 身近にいたデレクの襟をつかみ空中に投げ捨てる。

 つぎに、レグノの脚を蹴り、倒れたところに追撃のために脚で頭を踏み抜こうとしたがよけられた。うんうん、いい反応。

 でも、さすがにもう目が死にかけている。

 「5分間休憩として呼吸を整えたら再開するよ。」

 「5分ですか? 短くない?」

 「この練習、この前の襲撃より過酷………。」

 「カミさんに会いたい。」

 「俺も……。」

 どうやら、二人とも所帯持ちのようだ。

 ちょっとイラっと来た。

 「次は、そのカミさんのもとまで吹き飛ばないように頑張ってね。」

 「……帰りたい。」

 「せめて、最後の言葉くらいの残したかった。」

 その後、しばらく爆音と人の悲鳴が響きわたった。管制室では二人が宙を舞いながらも、対抗すべく粘る姿が映し出され、この二人は密かな信頼を得ていたのであった。




 あらかた訓練は終了し、二人の力量を見たが良くも悪くもなく、だが感じるものはあるといった段階だった。

 この調子なら、オリジナルの固有魔法まであと少しといったところだろう。

 他の防衛班も見てみたいが時間の関係で見れないのが悔やまれる。

 まあ、少なくてもこの二人の実力があればしばらくコロニー78は保つだろう。

 コロニーは1から300くらいまであったが、現存するコロニーは165まで減っている。

 テロリズム、革命、食糧不足、宗教、挙句の果てに自滅したものまである。

 まあ、災害に見舞われたものも存在するが、それは致し方ないことだ。

 さて、訓練も終了したし、目的を完遂するか。

 「じゃあ、僕は言ってくるよ。」

 「……行って…来る……とは、どこに……ですか?」

 もはや息も絶え絶えな感じでレグノ君が質問してきた。

 いまさらそんなこと言うかなあ?

 「こんな膠着状態気持ち悪いからね。それにさっさと終わらせたいし、本拠地行ってくるわ。」

 「「は?」」

 仲がいいのか相変わらず、二人の言葉が被る。

 「だからちょっとアルカディアに行ってくるわ!」

 少しは察ししてほしいものだ。

 「「は!?」」

 ダブルハーモニーで疑問符を立ててくるとは、さては幼馴染だな?

 もはや、認識が追い付いていない二人を置き、ジープの用意を進めていく。

 その過程で、

 「私もいいですか?」

 ネイトが進み出てきた。

 「いいけど、守れないよ? ネイトって補助具持ってないでしょ?」

 「大丈夫です。ここの人たちよりは強いですから。それに、このとおり戦闘服はありますから。」

 確かに強さで言えば剣崎と同じレベルだろう。

 防衛局の人よりは力量は上であることは確かだ。

 「いいけど、邪魔はしないでね?」

 「お手伝いをするだけです。」

 うーん。

 大丈夫かな。

 確かネイトって昔から行動の裏に別な思惑があったりして好きになれないんだけど。まあ、いいか。

 「ところでどうしてジープで行くんですか? あなたならすぐに着くでしょうに………。」

 「戦場では、捕虜や一般人の虜囚がいてもおかしくないからね。それに毎回、僕が居れる状況じゃないから、移動手段はなるべく多く用意しておくのがポイントかな。」

 それに魔法を使うことで敵に察知される恐れがあるからというのもある。

 何はともあれ出発だ。

 「振り落とされないでね。」

 そういって、ペダルを押し込み、ギアを上げてさらに加速させていく。




ジープを走らせること2時間、途中の元敵中継地点まで到着した。

ここで、しばらく休憩をはさむ。

が、ここは死体の山だった。

 「いまだに血でベトベトだな。」

 この前来た時の段階で燃やしておけばよかった。

今は死体にハエが集って臭気もすごいことになっていた。

これじゃあ、コスモスちゃんも食べないだろうな。

 「それじゃあ、ここを消しちゃいますか。」

 「消すんですか?」

 ネイトは不思議そうに思っているが、当たり前だ。

 「ここは元敵陣の中継拠点、いわゆるイエローゾーンに該当………コロニー78の接続ポイント兼補給ポイントになってるんだ。ここを潰すことでアルカディアへの嫌がらせになる。」

 「でもこんな大きな拠点どうやって………。」

 「こういったところには必ずあるんだよねー、あれが……。」

 小首をかしげているが、ここは中継ポイントだから、物資はそれなりにあり兵糧もある。

それなら………。

 「あった。」

 ガスボンベと灯油缶だ。

 調理用のプロパンガスと夜営用の一斗缶。

 通信機の類はプロパンガスで爆破。

 施設全体は簡易的な木造部が多いので腐敗し始めた死体をつなぎ合わせていって灯油を撒き、まとめて焼却する。

 というか、そもそもこんな施設作らせないように監視の任はどうなっていたんだろうか?

 あ、そういえばあのボンクラがお偉いさんだったな。うん、納得。

 灯油を撒き終わり、プロパンガスも設置し終えた。

 あとは、胸ポケットに入っているライターで着火するだけだ。

 が、ネイトの姿が見当たらない。

 周囲を見渡してもどこにも見えない。

 「どこ行った?」

 ここで、着火すると事故の原因になる。

 「うーん、しかたないから探すか。」

 歩き回ると、あっさりとネイトを見つけることができた。執務室の書類を見ているようだ。

 「何かあったのか?」

 「………いろいろ疑問があったのです。」

 「うん。」

 「この物資はどこから来ているのか。宗教国家アルカディアだけでは扱えない量で、さらに最新兵器。出所はどこなんだろうと………。」

 「ああ、だったでしょ?」

 その言葉に驚きの顔をしたネイト。

 「気が付いていたのですね?」

 「そりゃあ、気が付くよ。物資の出所は最も重要視するところだから。それに、うちのコロニーが狙われたばかりだからね。」

 「つまり、テロリストはどこかのコロニー軍部?」

 「いやいや、違うと思うよ。大方、廃棄されたコロニー内部を調べられて弱点構造を把握、資源調達、兵器量産を行い、手頃なコロニーを陥落する。そして陥落したコロニー内部を掌握して人質をとり、更なる軍備増強をして攻め落としていった。概ねこんな感じだと思うよ。」

 「あの爆弾。最新といっても技術会で発表されたのは約1年前。すぐに取り掛かったとしても理論設計者がいなければ浸透するのはもっと先だったはずなのに………。」

 ああ、確か特定の金属種を混合させてばら撒くことでより火力が強くなる設計だったな。

 「ところで、その理論設計者はどのコロニーにいるんだ?」

 「コロニー8です。」

 ビンゴ!

 「オーケー。それじゃあ、この施設を燃やすからすぐ出てくれない?」

 「………、わかりました。」

 いまだに何か引っかかっているのか考えこんでいる。

 が、これ以上は待てないので退室を促して、着火位置につく。

 着いたところでネイトが出てきたのでライターを液だまりに投げ入れた。




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