信仰と犠牲編

生きるために

 私は生まれたときから目が見えませんでした。

 正確には、で見てはいけない存在でした。

 私が見たものは石となり崩れ落ちるので、目を開けて対象を見てしまうと死人や環境を壊しかねないとのことでした。

 そのためいつも目に包帯を巻きつけられ暗い世界を見ていました。

 でも人間は適応して慣れるもの。

 視界がない中でも、空間を認知できるようにできていました。

 私は音やにおい、あと魔力による感知が、鋭敏になりました。

 母親は、私のことを不憫に思いながら抱きしめてくれました。

 でも父親は、私のことを疎ましく思っていました。

 こんな世界で視覚が見えない障害児を連れていることがどれほど危険なことか知っていたからです。ましてや、コロニーの地上地区にも住めないならなおさらのこと。


 ———だから、父親は私を殺そうとしました。


 母親は私を庇い、父親が振りかぶった斧で死にました。

 鈍く、生ものを叩き切られた音があたりにこだました。

 その時、私は初めて目が見えないことを幸運に感じました。

 

 ———部屋が汚れるのを見なくて済む。


 キレイな空間に、ペンキがブチ撒かれるのを誰だって嫌悪する。

 その感覚と同じだ。

 しかし、次は私だと感じた瞬間に目の包帯を緩めました。

 開いた視界には、ありえないという表情をした男の姿が見えました。

 それが父親だったと初めて知りました。

 それも束の間、男は石になり崩れ落ち砂粒に変化していきました。

 それよりも、男の表情が気になりました。

 なぜ、あんな表情をするのか。

 殺されそうになったのだから、自己防衛するのは当たり前だというのに。

 それとも父親だからという行いを正当化させていたのだろうか。

 ともあれ死人に口なし。考えたところで意味がない。

 それより、今後どうするかを検討しなければなりませんでした。

 何せ、身寄りがないので食べるのに困ってしまうからです。

 一難去ってまた一難とはこのことでした。

 とりあえず、母親の死体も石化させ消しておきました。


 ———だって衛生上よくないから。


 悩んだ末に、私は冬眠状態ならぬ休眠状態になりました。

 余計なエネルギーを使わないようにして眠ることで生命維持だけに集中しました。

 そうすると、あら不思議。

 盗賊さんやテロリストさんたちが来ました。

 私が女性だからでしょうか。

 家に入ってくるなり、私を見て、下卑た笑いを浮かべて近づいてくる足音が聞こえました。

 だから私は、せめて顔を見させてください、というと馬鹿正直に包帯を取ってくれました。

 あとはただの作業と化しました。

 目の前にいる男を見て石化させる。

 連れの男たちは惨状を見て固まる。

 もしくは悲鳴を上げるので、その間に頭のみに集中して視点を送り石化させました。

 あとは石化してない部分をバラして

 見えないため、手探りでやりました。

 とても不味かった。

 時々、石化させた砂利が口の中で踊るのです。

 それに人間の肉はとてもおいしくない。

 豚や牛の肉が恋しく感じました。

 母のシチューが初めて恋しいと感じました。

 でも、生きるために必要だったため口に無理やり詰め込み食べました。

 人間の肉を食べるということに嫌悪感はありませんでした。ただ、『ああ、こんな味か』程度で罪悪感はありませんでした。

 だって、こうしなければ、死んでいたでしょうし………。

 そんなことがあって数年がたったころ。

 家にが、やって来ました。

 今度は、子供か。

 と、当時の私は思っていました。

 子供の肉は、大人よりも柔らかいからマシだろうと思う程度でした。

 しかし二人のうち一人、彼は私を気遣い、私の視野について調べてくれました。そのうえ治療を施してくれたのです。

 おかげで私の左目は普通に包帯を外しても問題がないようになりました。

 魔力だまりができていた、発動条件、片目のみ見えるように……、など言っていたが、私の耳には聞こえていなかった。

 広く開け放たれた視野から、世界はこんなにも明るく、色彩にあふれ、生命に満ち溢れているのだと学ばされた。


 ああ、こんなにも世界はすばらしいのか!


 なんでも、世界の理を学んだ結果、私の病は治ったとのこと。

 つまりは、学を得ることで世界はより照らされる!

 世界のすばらしさに触れることができる!

 同じく病に侵されている人々を救える!

 世界の脅威からみんなを守ることができる!

 そしてみんなと同じ目線に立つことができる!

 だからこそ私は、学び続ける。

 それが私、ネイト=ダンタリアンである。




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