第1部 断章3

 「早く飛ばして、的場ちゃん!」

 「大佐、このジープだとこれが限界です!」

 すぐに撤収してきたとはいえ、こちらが陽動なら本命はコロニー奇襲だと予想される。

 戦力の分散とは考えたものだ。

 しかもうまくいけば、戦力の何割かを削ることができる。

 どちらにせよ相手にとって得をするように仕掛けられていた。

 今、交戦しているであろう北エリアの負担にならないように西側を迂回して北西の地上北ブロックを経由して北防衛線に合流しようとしているのだ。さらに時間がかかる。

 「まだ、連絡が付かないの!?」

 「ダメです。通信に誰も出ません!」

 「もうすぐ北ブロック防衛拠点に到着する。そこで通信機を拝借するわよ!」

 「了解!」

 が、予想はさらに悪いものとなった。

 「何あれ?」

 ジープの運転手である的場ちゃんがその異変にすぐに気が付いた。

 防衛局中央司令部方面から煙が上がっていたのだ。

 ただならない雰囲気のなか、北エリアの防衛線に到着してエリア担当者に話を聞くことにした。

 「おい、戸高。現状を教えろ。」

 「!? 四乃宮様、どうしてここに!?」

 「いいから早くしろ!」

 「す、すいません! 今、北条の部隊から防衛局中央司令部が陥落したとの連絡が入りました。また支援部隊が来るまで現状の戦線維持の連絡を受けています!」

 「いま、指令は誰だ?」

 「本日は、石永指令だったのですが負傷したらしく、現在、甲斐田都木氏が代行しているようです。」

 「は? なんで都木が? 今日休暇のはずでしょ?」

 「そこまでは自分も知りません。しかし、通信網を抑えられた現状では今どのような状況なのかわかりません。」

 「わかった。こちらの通信兵を貸す。人力になるが仕方がない。ジープを乗り回して連絡を取り合うよ!」

 「了解です!」

 「私はそのまま防衛局中央司令部に乗り込む。」

 「了解です。」

 そして、通信兵に話した内容を伝える。

 「的場ちゃん、戸高との連絡担当よろしく。」

 「わかりました。」

 ここからは全速力で向かう必要がある。

 だからジープの速度より走った方が早い。

 私の魔術回路に魔力を流して『彼女』を召喚する。


 『簡易召喚 マキナ』


 すると背後から薄い気配がした。

 『はい。何でしょう。』

 「力を貸して。身体強化は得意だったでしょ?」

 『わかりました。体にかなり負担がかかりますが気を付けてくださいね。』

 「早くして!」

 ここから7km走らなければならないのだ。

 それも最短で。

 体に私ではない魔力が流れてくる。

 私自身の魔力じゃないため痛みが駆け巡るが、そんなこと言ってられない。

 脚に力を込めて走る。

 風景が流れるように後ろに飛んでいく。

 実際には自分がとんでいるのだ。

 足の裏に力を込めて地面と平行に滑空している。

 それでも7kmを走るとなればかなり時間がかかる。

 この調子だとあと3分かかる。

 脚の筋肉にも負担が大きい。

 痛みがさっきよりひどくなっている。

 でもそんなことを気にしていられない。

 あと1分というところで、


 目の前で———、


 防衛局中央司令部が光を放ち爆散した。

 

 爆風と衝撃で、私はその場から吹き飛ばされた。

 一瞬、あっけにとらわれたが、再度走り出しすぐに加速した。

 悪い予感がした。

 こういった予感はたいていよくない方向にいく。

 私の中で、15年前の事件が頭をよぎる。

 その時と同じく背中がゾワゾワするのだ。

 爆散した防衛局中央司令部は瓦礫すらなく平坦になっていた。

 そう平坦になっていた。

 そして、そばに黒ずんだ左腕が転がっていた。

 見覚えのある、をつけた腕が。

 こんな形で再開したくなかった。

 ああ、本当に………最悪だ。




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