第1部 断章2
「つきましたよ、大佐。」
「あ、ありがとう。」
いまだにお腹がうなり声をあげてるさなか、目的についてしまった。
できれば、今すぐにでもウォシュレット付きトイレに引きこもりたい気分だが作戦決行を決めたのは自分だ。
早く済ませるに限る。
「目的の建物の索敵はどうしますか?」
「いいよ、すぐ突入で。めっちゃ苦しいし………。」
「大佐、しっかりしてください。日程を決めたのは大佐なんですから。」
「いやね、うちの使用人に一服盛られるとは思ってなかったから………。」
「日ごろの行いが悪いのでは?」
私の心を抉る一言を発するとは………。
この部下、有能では?
「でもね、私はいつも通りに………。」
「早く済ませましょう。ぐずぐずしてないで突入してください。」
この部下、もしかしてうちの家政婦の親戚では?と思ってしまう。
先行部隊に遅れながらも合流し対象建造物を見る。
見た目は旧都市にある町工場を連想させるものだ。これが一夜にして現れるのは不可解だ。
「警戒を厳となせ。罠の可能性が大いにある。故に慎重を期して対処に当たれ。」
皆に外線で通達する。
しかし、問題が発生した。
「大佐、南エリア外部隊と通信できません。機材故障でしょうか?」
「的場ちゃん? ここは敵地だよ? 通信遮断をしている可能性が大いにあるよ。通信兵、ジープで、ここから移動して通信可能エリアまで後退し、南エリア担当部隊と連絡し、作業に当たれ。」
「了解。」
まったく、いつもの的場ちゃんらしくない。
いつもなら、こんな初歩的なことを言う人間ではないのに。
周辺索敵を終えた部隊員から入口を発見したとの報告を受けているが、罠の可能性があるところからご丁寧に入る必要はない。
「C4爆弾を設置しろ。」
「はい。」
入口に罠の可能性があるのなら別な入口から入るだけである。
「総員、耳をふさげ。」
「点火!」
すさまじい爆発とともに壁は崩れ落ちていた。
「総員、ここで待機せよ。中は私が確認してくる。」
「了解です。その間、周辺索敵しておきます。」
教育の成果か、言われずとも自分の役割をこなしていく部隊を誇らしく思う。
気持を切り替えて内部に突入する。
自分の装備している熱源感知器を頼りにあたりを索敵する。
しかし、あたり一帯を調べても何も出てこなかった。
諦めて引き返そうと思ったところである一室を発見した。
壁ごしだが、熱源と運動を感知した。
内部を確認しようとしたが、よく聞き取れなかった。
仕方がないので、扉の取手に手をかけ勢いよく内部に突入した。
これが間違いだった。
中には見覚えのある顔があった。
「………エバンス。」
椅子にロープで身動きを封じられ、胸に爆弾を設置された状態で。
思考が停止している間に、ピーという音がこの施設中に響き渡った。
そしてあたりが光と衝撃に包まれた。
自分の体を確認する。幸いにも打撲と脱臼程度で済んでいる。
骨折がないのは不幸中の幸いだ。
脱臼した肩を無理やりはめ直して、瓦礫に手を伸ばす。
覆いかぶさっている瓦礫を吹っ飛ばし、自分の体を起こして、施設外に出る。
体のあちこちが痛いが問題ない。
この程度は、うちの使用人に鍛えられてる。
問題になりえない。
「四乃宮様、ご無事ですか!?」
駆けつけてきた部下たちを手で制しながら支持を出す。
「作戦中止、即コロニー戻る。的場ちゃん、南エリアにも通達して。」
「それが、南エリアの部隊たちと連絡が取れないんです。ノイズがひどくて連絡のしようがないんです。」
やられた。
この施設自体が罠で、そもそもわたしたちがこの場所におびき寄せることが目的か!
「急いで、コロニーに戻る。総員撤収、急げ!」
「なんですか、大佐。せめて理由を聞かせてください!」
隊員の一人が撤収準備を進めながら聞いてきた。
手を止めずに方針に従う姿は教育の賜物だ。
また、みんなが気になっていることを率先して聞くところもまた有能だ。
だが、ことは一刻を争う。
「奥に進んだ先に、熱源を感知して突入したところ見覚えがある顔を発見した。」
その顔は、よく覚えていた。
昔、落ち込んでいた私に笑い方を教えてくれたり、鬼のメイドからかくまってくれたあの老人。そして、お父さんが救った命。
「地上東ブロックの人だった。」
地上東ブロックで商業を営んでいた人であり、我々が守らなければいけない人だ。
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