第1部 第7章

 地上のグリーンエリアはコロニーから出ている専用地上エレベータに乗っていくことができる。

 このグリーンエリアは元々、エリア外をさまよっている人間、コロニーの市民権がない、あるいは剥奪されたものが住む土地である。表向きは………。

 このコロニー3の地上東地区は、特殊な人たちの集まりである。

 昔、真衣姉さんの父親、甲斐田悠一氏によって保護された住民の居住区である。

 テロリスト集団に多くの人命が取られた事件の時に、機転を利かせた悠一氏が人質全員を保護したことにより未遂で終わった。

 それ以降この地上東地区に住み、農業や家畜の世話、小さな商業団の設立などを営んでいる。悠一氏も支援していたこともあり、今では地上の発展都市となっている。

 そのおかげもあり、この東ブロックでのグリーンエリアは、四乃宮家や甲斐田家は融通が利く。

 しかし、問題もある。

 この地上東ブロックの住民地区は一番の被害を受けるようになっており、防衛線時に緊急アラートが鳴り、隔壁が落ちるようになっているものの、飛び火でシェルターが壊され、そのまま建物の被害が出る場合がある。これは防衛線がこのグリーンエリアに隣接するように作られているためだ。

 コロニーの拡張工事は、数百年ごとに大きくしている。そのため、地上の防衛線を広げる工事を数十年ですぐにはできないため地上東ブロックは歪な形に増設してしまった。

 そのため、被害が他のブロックと比べると大きい。

 ただ人命に関しては問題ないと言いえるだろう。ここに住んでいる人たちはシュガーの強化訓練のおかげで防衛線を守護している部隊よりも強靭だ。

 かくいう僕もシュガーの訓練を受けた身である。シュガーの訓練を受けた住民の強さは折り紙付きだ。

 ———そう、思っていた。




 地上に上がってきたときにすぐに違和感に気が付いた。

 人がおらず閑散としているのだ。

 その表現も適切ではない。


 のだ。


 いつもこの時間であれば、商人たちのにぎやかな声が聞こえてくるはずである。

 しかし、何も聞こえず人の姿も確認できない。

 明らかに異常事態だ。

 すぐに商業通りを過ぎ住宅エリアに走る。

 が、ここにも人の姿を確認することはできない。

 そう思ったときだ。

 「お、おにいさん?」

 呼び止められて後ろを振りむく。

 ごみ収集箱の中から顔をのぞかせたのは5歳くらいの少年だった。

 確かこの近所に住んでいる子供で、よくスミレちゃんと遊んでいた。

 駆け寄ってみると、切り傷や擦り傷などの新しいかさぶたがある。

 命に別状はないもののこの異常事態に巻き込まれたとみるべきだろう。

 「何があった? この人の少なさは異常だ。町のみんなは?」

 「わかんないよ。だって俺、お母さんに連れられて逃げてここまで来たんだ。でも途中でお母さんが捕まってそれで俺、………何もできずに隠れて………。」

 涙交じりに語ってくれたことは驚愕だった。

 襲撃があったのであれば、防衛局に連絡が来るようにシステム化されていた。

 市民権がなくても彼らの所属はこのコロニー3だ。

 地上地区の守護は防衛局の義務だ。

 しかし、この様子だと防衛局の派遣は来ていない。

 どういうことだ?

 「最初、お母さんが、電話回線がおかしいことに気が付いて周りの人たちもつながらなくて。そしたら遠くから悲鳴が聞こえて、それで確認した人たちからすぐに逃げるように言われたんだ。お父さんはアラームが鳴らないことに気が付いて回線復旧に行ったっきり、戻んなくて………。」

 それが事実であれば、今回の襲撃は………。

 「ほかに変わったことはなかった?」

 「………最初抵抗しようとした人たちがいたんだけど、なすすべなく倒れていって。なんか魔法が使えなくなったらしくて。」


 魔法妨害(アンチマジック)………。


 特定の金属片を散布することによって、数時間魔法を妨害することができる。

 しかし、高価なため実践で使用することはかなり稀な事象だ。

 だが、こと今回において最悪だ。あらかじめ対策をしておけば、妨害も防げるがその装備を個々の住民は所持していない。さらに言えば襲撃者は対策を行っているため魔法による襲撃で一方的に蹂躙できるのだ。

 「その襲撃からどのくらい時間が立ってる?」

 「え、えっと。三日前くらいかな。」

 ———かなり時間が経過していた。

 それに三日前なら僕が防衛局に出社している。

 警報は来てない。

 「これからエリアを確認するから生き残っている人をいっしょに探してくれる? 手伝ってくれないかな?」

 「え、怖いよ………。」

 「大丈夫、この空間に知らない反応があったらお兄さんが対応するから。それに………。」

 「それに?」

 心の奥底から燃え上がる炎が感情を高ぶらせる。

 「———うん、なんでもない。」

 あくまで安心させるためいった言葉だったけど逆に少年の顔が歪んでしまった。

 相変わらず、僕の人付き合いスキルはうまくないらしい。

 ———それに、あの親子のことが心配でじっとしていられないのだ。

 魔法を展開する。

 エリア展開したところ知らない反応はなく、生存者がポツポツ存在していることが分かった。

 保護した彼らを一旦中央広場に集める。

 その過程で各場所に設置されている警報装置はことごとく切断されていた。

 また警備を行っていた者たちの無残な死体を発見した。

 口元を抑えられてから首筋に一撃。

 即死に近い状態だ。

 中央広場に集まってもらった人たちの数はおよそ50人といったところだ。

 知っている限り、この地区の1割程度の人数になる。

 彼らの話を聞く限り、最初子供の人質を盾に住民を無力化させていき、抵抗する人たちを殺していたらしい。

 居なくなった住民はどこかに連れ去られたとのことだ。

 そして今日来た目的でもあるもいなくなっていた。

 くすぶる黒い感情が湧き上がってくるのを深呼吸で飲み込む。

 冷静に対応するべきだ。

 急いで中央司令部に緊急の連絡をしようと思ったが、まず保護した住民を何とかしなければならなかった。

 回線相手はシュガーに設定してコールする。

 すると3コールで出てくれた。

 『いかがなさいましたか、木偶の坊。』

 『ごめん、今回は緊急案件。地上東地区が攻撃されていた。』

 『はい?』

 『今、生存者をそっちに送るから、まずごはんの用意をお願いします。僕はこれから防衛局中央司令部に報告に行くから。』

 声色を察してか先ほどまでの軽口がなくなった。

 『わかりました。お待ちしています。』

 これで話は付けた。

 市民権がない人間をコロニーに入れるのは問題だが、守ることができなかった我々の責任でもあるから剣崎家は納得するだろう。

 そう思い、自分の体内回路に魔力を流し込んでいく。

 はこのくらいで。

 そしてを設定して開く。

 すると目の前に先ほどまでとは違う景色が映し出された。

 四乃宮邸である。

 そこに保護した住民を通していく。

 数人を移動した段階で屋敷の奥からシュガーが出てきてテント機材や、炊き出し用の器具を持ってきた。

 「おかえりなさいませ。」

 「ごめんなさい、紅葉さん。押し付ける形になって。」

 「いえ、それよりも早く防衛局中央司令部へ。———あと私はシュガーです。」

 「わかっていますよ。………後のことを頼みます、シュガー。」

 「仰せのままに。」

 やっぱり頼りなる人だ。

 そう思いながら今度は座標を防衛局中央司令部に設定した時だ。

 緊急アラートが鳴り響いた。

 「最悪のタイミングだな………。これは長い一日になりそうだ。」




 防衛局の入り口に門を作り、管制室に直行する。

 その道中でいつもよりすれ違う人数の多さに違和感を覚えた。

 おそらく今回の警報アラートで変則的対応を迫られているのだろう。

 さらに悪いことは続くものだ。

 まさか到着早々、問題児に会うとは………。

 「げ。」

 「あん? 人の顔見るなり嫌悪するのが礼儀か?」

 茶髪、つり目、ヤンキー、言葉より拳。

 おそらく、この項目で検索すると出るであろう人物。

 今、会いたくないリスト断然一位の剣崎郁美様のご登場だ。

 「い、いやぁ、出社は明日のはず…だった気がするんだけど………。なぜにいらっしゃるのかなーと、思いまして、はい。」

 「明日、初出勤の予定だけど慣れるために施設見学しに来てんだよ。悪いかよ!?」

 この野獣のようなオーラを身にまとったやべぇやつが前の任務の護衛対象だった人だ。

 元々、親御さんは内政側に就職させるように普通校に通わせていたが、急に方向転換して今ここにいる。それを止めようとして僕がタコ殴りにされた挙句、雑木林に埋めらえた記憶は新しい。

 つまり、である。

 「んで、お前こそどーしていんだよ。今日、休暇って聞いてたはずなんだが?」

 はい、きました。予想してました。気に食わないと質問攻めタイム。

 「ちょっと、立て込んでるから。また後で。じゃ!」

 騒がぬ神に祟りなし。

 時間もないし、悠長に構えてられないのだ。

 廊下は走らないのが鉄則だがそうも言っていられない。

 「あ、こら! 待ちやがれ!」

 「あ、廊下は走ってはいけないんだよ!」

 「目の前で走ってるお前に言われたかないんだよ!」

 わかるよ、でも仕方ないんだ。それにお前めんどくさいし………。

 「誰がめんどくさいだ! てめぇ許さないからな!」

 あれぇ?

 なんで心の声聞こえてるの!?

 テレパシー!?

 通信回線も開けてないから聞こえるはずないのにぃ!?

 「おめえとは、何年の付き合いだと思ってやがる!? 思考や表情から大体読み取れんだよ!」

 いつの間にかめんどくさい人間がさらにめんどくささを増しててマジ面倒。

 そんなことを考えながらオペレーションルームに入る。

 オペレーションルームは、かなりあわただしい様子でアラーム解除もしていない状況だった。

 今日の当直長である石永中将のところに向かう。

 元真衣姉さんの上官だった人だ。

 「お忙しいところ失礼します。状況をお聞きしたいです。」

 対面している男は、まるで巌のようなガタイの人であり隆起した筋肉が実直なトレーニングを積み重ねてきたことを物語っている。

 しかし、悲しいかな。昔、脚を故障したおかげでうまく歩けなくなったらしい。そのため、戦線に行くことがかなわなくなったとのことだ。

 「甲斐田の坊主か。こっちはてんてこ舞いだ。監視カメラが誤作動したのかノイズのみ。探知は働いているから総数は把握できるものの、対象が何なのか把握できない上に、現場に急行してもらった部隊員たちの通信が途切れる現象が起きていてよくわからん状況だ。」

 あきらかにおかしい。

 誤作動が起きることは仕方がない。予期せぬトラブルは多々ある。しかし、それが重なる可能性は低い。ゼロではないにしても明らかな異常事態と捉えるべきだ。

 なら、先ほどの件も今のうちに報告するべきだ。

 「石永指令、お耳に入れたいことがございます。先ほど地上東ブロックの居住区が襲撃されていたことが確認されました。」

 「なんだと!?」

 「今、緊急保護のため四乃宮邸で無事な者たちを保護していますが、この状況と照らし合わせると無関係とはいいがたい状況です。おそらく周到に用意された計画のように思われてなりません。」

 「………現状わからないが、頭に入れておこう。」

 石永指令は司令官の中でも柔軟な対応が取れる人だ。

 不幸中の幸いといえるだろう。

 剣崎最高司令なら、それどころではない、とか慌ててそうだな。

 「それと、石永指令。いま現場にいるのは誰ですか。」

 「北を戸高、東をアルフォード、南を北条がそれぞれ指揮しているはずだ。」

 目的の人物がいた。

 この中で、唯一と言っていい変わり者がいる。

 北条正樹(ほうじょう まさき)。

 機械オタクであり、某アニメに取りつかれた結果、人型決戦兵器なるものを作り出した。あと機体を真っ赤に染めている。まさか仕事に趣味の領域を持ってくるとは思わなかった。

 北条は僕を特段特別視していなかったことから、他の同僚より付き合いがある。また、北条の才能に関しても特異的なものがあるので交流が続いている。

 少し賭けになるが………。

 「石永指令、使えない通信は防衛局支給の【ゼロシフト】ですか?」

 「ああ、そうだ。」

 だとすると、まだ希望がある。

 あとは、北条が渡しておいた機器を機体に取り付けてくれていることを願うばかりだ。

 渡しておいた回線機につなぐ。

 コール音とともに対象者がすぐに出てくれた。

 『パイ先? この忙しいときにどうしましたか?』

 おそらく操縦中なのだろう。機械の駆動音が回線ごしに聞こえる。

 これでつながるということは、各エリアに魔法妨害が行われていると断定したほうがいい。周波数式の旧世代の通信機が役に立った。

 『現状を把握したい。お前の報告をそのまま石永さんに伝える。』

 『え? マジっすか!? ありがたいっス! 通信機が使えなくて報告できない状況で………。というか、パイ先、今日休みじゃありませんでした?』

 こいつ、なんでのんきなん?

 『いいから、状況を教えろ!』

 『ハ、ハイっス! 目標物、防衛線第一での警告無視。続いて第二で威嚇射撃も効果なし。依然進行中っス!』

 『目標は見えるか?』

 『現在砂嵐がひどくてよくとらえられませんが、人型で規則正しく配置されてるように見えるっス!』

 その報告に石永指令が口をはさんだ。

 「人型? だが、こちらのレーダーだと各エリア50は超える数をとらえてるぞ?そんな人数どこから湧いて出てるんだ?」

 『知らないっスよ………。それより今は、どう対処するかが先っスよ。』

 その通りだ。

 ふざけているが的確な判断能力を持っている。

 やはり有能だ。

 『第三防衛線には来ないでほしいっスね。ラインに入ったら無条件殺傷になるっス。人でないことを祈るのみっスね………。』

 『ほかに気が付いたことはないか?』

 『そうっスね………。』

 こいつの洞察力はかなりのものだ。

 戦場を俯瞰して、いつも一歩先のことをやってのける。

 『ここまで北、東、南それぞれ50体くらい確認されてるみたいっスけどなんで、西側にはないのか気になるっス。』

 「西が海岸沿いだからでは?」

 石永指令の問いには答えず北条は気になることをさらに口ずさんでいく。

 『あと、北、東、南に50体きっちり割り振られてるのも不自然っス。普通であれば、何かしら偏りが生まれるはずっス。』

 確かに。

 「北条、南エリアの人数は何人いる?」

 『いま、自分も含めて30人弱っス!』

 「10人連れて西エリアに飛んでくれないか? 石永さんには許可をとる。」

 『了解っス!』

 回線は開けたまま、いまのやり取りを石永指令に伝える。

 「甲斐田、あまり独断で命令を出すな。それにお前は本来、休暇の身なんだぞ? 労基にとがめられる身になれ。」

 「すみません。しかし、今は迅速な対応が求められます。故に了承行為を省いた次第です。それに石永指令であれば同じ判断をすると思いましたので。」

 「………、お前は年相応の対応を覚えろ。」

 そういいながら、手でゴーサインを作ってくれた。

 許可は取れた。

 が、すぐに悲鳴じみた声が聞こえた。

 『パイ先パイ先! やばいっス! どうなってるんすか!?』

 「どうした!?」

 『どうしたもないっス! 西エリアに入った途端、前方からレーダーに反応があるっス! しかも、ものすごい数っス!』

 「っ!」

 急いで、戦闘員のサポートをしているオペレータたちに言い放す。

 「オペレータ! 西地区の映像を出して! 西は通信障害起きてないだろ!?」

 「は、はい!」

 が、急いでモニターに出してもらったが特に何も映し出されていなかった。

 どういうことだ?

 「北条、レーダーは、確かなのか? こっちの映像には何も映ってないぞ?」

 『パイ先、地表じゃないっス。この反応、っス!』

 「っ………最悪だな。」

 このコロニー3では、映像監視やレーダー感知システムを採用しているが、それは地表から50mまでの範囲までだ。前世代の甲斐田悠一氏からは再三にわたり警告されてきたことだが、50m以上直線距離10km範囲飛翔は困難とされてきたため、予算の都合上見送られ、昨今においては予算削減で棚上げにされてきた。

 「確実に弱点を突いた動きだ! 北条、上空に向けて一斉射撃。うち漏らしはこっちでカバーする!」

 『了解っス!』

 その間にオペレータにモニター画面を動かしてもらう。

 「オペレータ、画面を上空に!」

 「了解!」

 画面を上に向けてもらった。

 解像度は低いものの動きは見えた。雲の中を大量の何かが移動していた。

 以前理奈姉さんから旧古代のビデオでみたイワシの群れを連想させるものだった。

 またこの映像から北、東、南エリアの敵勢力は囮であることを示していた。

 「狙いは!」

 石永指令が焦るように言い放ち、それが周りに拡散して混乱がたちどころに起きる。

 これでは抑えようがない。

 「郁美! そこにある非常用ボタンを押せ!」

 「お、おう! まかせろ!」

 即断即決が、剣崎のいいところであり欠点だが、今回はいい方向に動いてくれた。

 この非常用ボタンは、最終的に防衛局中央司令部が追い込まれたときに魔法障壁を張る使用になっている。

 だが機能としては一時的だ。

 それを超過すると破けるのが道理だ。

 だからこそ被ダメを減らす必要がある。

 自分の魔術回路を励起させる。


 「入り口!」


 自分が今、扱える魔法を駆使するしかない。

 の入り口を作り、飛翔物を隔離する。

 それが今できる最善だ。

 それでも限界は来る。

 例え北条が西地区から迎撃していても、剣崎が防衛機能を展開していても。

 それをこえる火力で押し切られれば。

 上空から押し寄せる飛翔体が直上から一気に押し寄せてきた。

 防衛局司令部の直上に次元の入り口を開く。

 「ぐっ!」

 限界まで入口を広げるが中央司令部全域を覆うことは不可能だ。それに今は戦闘用の軍服でもない。

 通常、着用していれば持続時間や領域の展開範囲が広がる。

 また補助武器もない。

 今は、ないないの状態なのだ。

 北条たちが限界まで迎撃をしている姿が見えるが数が多すぎる。

 あふれたものを次元の入り口に送っているが、3割ほど障壁に漏れていた。

 モニターが直上から降ってくるものをとらえた。

 それは人形だった。

 マネキン人形。

 その人形に大型の飛翔ユニットと爆薬を載せて突っ込んできているのだ。

 たとえ障壁があるとは言え、一体だけでも衝撃はすさまじいものだ。

 障壁にぶつかって爆発するたびに、衝撃で建物全体に響き渡る。

 しかも一体一体の爆弾量はそうでもないのに、コロニーの防御機構が揺らいでいる。

 正確に言うには、消えかけているのだ。

 ご丁寧につきかよ………。

 体から力がどんどん抜け落ちていく。

 それと同時に冷や汗が止まらなくなってきた。

 魔法の行使は、限界を超えると命を削る諸刃の剣となる。

 そして、無理に使い続けるとマイナス領域に入り意識を失う。

 仕方がないとはいえ、限界まで使うのには今のままでは無理だ。

 息も絶え絶えになりながら石永指令をみる。

 僕の顔を察してか、みんなに指示を出す。

 「各員、ここを破棄する。E4アラート発令! 指令室を下層BF3の予備施設に移行。急げ!」

 やっぱり、石永指令は頼りになる。即応してくれるし、柔軟性が高い。

 『パイ先! 上空からくる飛翔体、もうすぐなくなりそうっス! レーダーだとかなり減ってきてるっス!』

 「それでも、こっちも限界が近い。こっちの展開時間は残り数秒だ。」

 『それ、やばいっス! この数からしてあと3分くらいは続きそうっス!』

 そういっている間に、展開している入口がどんどん縮小していく。

 「急いできたとはいえ、戦闘用装備がないとこれが限界か!」

 『パイ先! 今まで補助なしでやってったんっスか!?』

 「何言ってやがる! 今日は休暇だから私服だっつうの!」

 『パイ先、やっぱしすげぇーっス! 通常、戦闘用の服があるのとないのじゃあ魔法行使率が違うっス! だいたい70倍とされてるんスよ!? そんでもって………。』

 「しゃべっる暇があるならもっと撃ってくれ!」

 後輩からの賛辞を受けながらもさすがに限界を迎えた。

 体に刻まれている回路が焼けるように熱い。

 そのあとすぐ、プツッという音が聞こえた。

 視界が暗転する。

 限界に達して回路が冷却状態に移行したようだ。

 当然それは、次元の入り口が閉じることを意味する。

 入口が閉じた瞬間、怒涛のような衝撃が一気に押し寄せた。

 力が入らず地面に転がっていることしかできない自分がもどかしい。

 視界の焦点を合わせる間もなく、手の感触だけで周囲を探知する。

 次元魔法は今、冷却中だ。

 なら他に使えそうなものを使うだけだ。

 他の隊員が持っていたリングを手元に手繰り寄せる。

 設定を防護壁にして一気に3つ起動する。

 すでにマイナス領域であるが、リングは魔力を消費しないバッテリー機能が存在する。その間に、少しでも回復に努める。

 焼け石に水かもしれないが、防衛局中央司令部に展開されている障壁の上にさらに障壁を三重に貼る。

 「手ぇ貸すぜ!」

 剣崎も障壁を展開し、層は5層になった。

 「おい、剣崎! 退避命令出ただろうが!」

 「うるせぇ、てめぇも休日中に来て命令無視連発してんじゃないか! 俺ばっかり、わるくいってくんじゃねぇ!」

 そんなやりとりをしている間にすでに5層張った障壁は2枚にまでなっていた。

 「本格的にやべぇ………。」

 「だから、言っただろが!」

 こいつはほんとに後先考える前に体が動くタイプだから面倒なんだよ。

 だが、確実に数は減ってきていた。

 あと少し………。

 だが、こっちの限界はすぐに来た。

 張っていた障壁が消え、建物に直接の衝撃が走り指令室の天井が崩れ崩壊した。

 そして、侵入した人形3体が閃光を発したと同時に衝撃が自分に襲い掛かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る