第14話
「遂に出発だなユウジ!」
「うん」
「楽しんでこいよ!」
「うん。お土産も買ってくるよ」
修学旅行当日の朝。
俺は玄関で家族に見送られていた。
今日は名古屋駅に現地集合のため、いつもより早く家を出る必要がある。
そのため、普段なら先に家を出ている父さんもまだ残っていた。
ちなみに今日は普段着であり、修学旅行中に制服の出番はない。
「ねえカリン、実は私達も今日から修学旅行じゃなかったかしら。東京に」
「カレン、それはないわ。残念ながら」
「変なこと言ってないで、あんた達も支度しなさい」
「「はーい」」
「ユウジ楽しんできてね」
「お土産待ってるわ」
そう言葉を残し、姉さん達はリビングに戻っていった。
「ユウジ、楽しんできな」
「うん、母さん。行ってきます」
こうして、修学旅行の初日が始まった。
☆☆☆
「ユウジ、グミいる?」
「ありがとう」
俺達が乗る『のぞみ』は、先程名古屋駅を出発したところであり、今から約1時間半かけて東京へ向かう。
座席はクラスと男女で分かれており、俺はエイトの隣に座っていた。
「それにしても、ユウジが仲西さんと同じグループっていうのには驚きだよな」
「俺自信が一番驚いてるよ」
「でも、なんでいつもみたいにレンや佐伯さんと組まないんだろうな。ランチのときも雰囲気やばかったし」
「ああ……、席替えがあって助かったよ」
計画表作成の翌日に席替えが行われたため、エイトとは別のグループになってしまったものの、息苦しいランチタイムを過ごすことはなくなっていた。
結局、仲西さんが俺達に声をかけた理由はわかっていない。
ただ、無闇に詮索する気はなく、今は東京散策を楽しめるかどうかだけが気がかりであった。
★★★
隣に座るアヤカとの間に会話はなく、居心地が悪い。
新幹線の座席は夏休み前に決めたため、このような事態になるとは想定していないかったのだ。
果たして、こんな調子で修学旅行は楽しめるのだろうか。
窓の外は曇天であった。
★★★
東京駅でバスに乗り換え、12時前に千葉県の舞浜にあるテーマパークに到着した。
入場前に注意事項の説明と、フードチケットの配布があり、それが終わり次第入場していく。
俺はエイトと共に、園内を一緒に回る約束をしていたメンバーを探し、合流した。
「よおユウジ、エイト」「久しぶりだね」
リョウヤとカズキと言葉を交わす。
「夏休み以来か」
「そうだなー」
リョウヤとカズキは隣のクラスだが、この4人は皆小学校が同じであり、昨年はクラスが一緒だったのもあって今回は行動を共にすることになった。
別にここではグループ行動の決まりはないが、一人よりも友達と一緒のほうがきっと楽めるだろう。
ちなみに、サクラも他クラスの友達と一緒に回るようだ。
「ハハハハハハハ!!!!」
「つめてぇー!!」
「うわぁ」
「ははは……」
ボートに乗って滝から落ちるアトラクションで水に濡れたり。
「なんでここには男しかいないんだ」
「誰も誘おうなんて言わなかったじゃん」
「サクラーーっ!!」
「おいやめろ」
小さな世界を男4人で回ることに虚しさを覚えたり。
「あった!」
「お、今度はキャラメルか」
「ユウジ頼むー」
色んな味のポップコーンを食べ歩いたり。
そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
★★★
「はあぁ……」
とてもではないが、当初予定していたメンバーで回る気にはなれず、だからといって他の人を誘うことも躊躇われて。
結局一人レストランで時間を潰している有り様である。
そうしてだらだらとスイーツを食べていると、
「お、カエデちゃんじゃん。もしかして君もサボりかい?」
担任のスーちゃん(涼宮先生)に声をかけられた。
そして、スーちゃんは私の正面に腰を下ろし、
「いやー、修学旅行中はお酒禁止なんてやってらんないよね〜。でも、私は皆のお手本となる先生なのでちゃんと我慢するよ! あ、宝箱
スマホを横持ちにしてポチポチと触り始めた。
この先生は「元気にやる気がない」のだが、そんな先生も閉塞的な中学校という環境においては新鮮で人気がある。
でも、なんで夢の国に来てスマホゲームなんてやっているのか。
スーちゃんならいろんな生徒に誘われただろうに。
「先生はなんでお一人なんですか?」
気になって理由を尋ねてみたのだが、
「はっ!? おいおいおい、君は聞いちゃいけないことを聞いちゃったねぇ。なんで私が独身なのかって???」
「まだまだ若い君達にはこの辛さが分からんのだああーー!!!」
「あ……」
どうやら地雷を踏んだらしく、伸びてきた手によって食べかけのドーナツが奪われてしまった。
☆☆☆
時刻は18時を過ぎ、そろそろ退園しなければならなくなってきた頃。
俺達は入口近くにあるお店で、お土産を買うことにした。
各々バラバラになって広い店内を回っていたところで、
「サクラ」
「あ、ユウくん」
ぬいぐるみコーナーの前でサクラを見つけた。
彼女が見ていた棚に目を向ける。
「……買うの?」
彼女は大のぬいぐるみ好きなので、ぬいぐるみを眺めているのは納得できるのだが、ここに並んでいるぬいぐるみ達は結構高い。
なので、買おうと思っているのかと尋ねてみたのだが、
「……今回は持ってきてないの」
「それは……、寝るときにぬいぐるみが欲しいってこと?」
「……うん」
どうやらいつも寝るときに抱いているぬいぐるみを家に置いてきたらしい。
なんでも、一人で寝るのは落ち着かないそうだ。
「え、忘れたの……?」
「違う! ……けど、その、…………持ってきても恥ずかしくて使えないから、置いてきたの。
で、でも! ここで買ったやつならみんな気にしないかなって思って……」
「そ、そうか」
確かに、それならまだマシかもしれない。
でも、やっぱり値段に躊躇しているのだろう。
俺達には明日の東京散策も控えているので、使いすぎるわけにはいかない。
けれど──
「わかった」
「?」
「全額は無理だけど、半分出すよ」
「ええっ!?」
「明日の東京散策でサクラが寝不足だったら困るだろ?」
仲西さんがどうなるかわからない明日のことを考えると、せめてサクラには元気でいてほしかった。
★☆★
あの後はスーちゃんに連れられて、位置情報ゲームのポイントに足を運んだり、途中で見かけたゲームコーナーで遊んだりして、なんだかんだ楽しかった。
そして、退園してホテルに向かう道中。
──明日はユウジくん達のところでしょ? あの子達となら楽しめると思うよ。
この先生は適当なように見えて、私達のことを結構ちゃんと見ているようだった。
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