第10話

「お待たせ」


「準備はいいか?」


「うん」


車に乗り込み、運転席で待っていた父さんに声を掛ける。

今日はこれから私立高校へ学校見学に行くのだ。

第一志望はもちろん竹明ちくめい高校だが、受験校が1つだけというわけにもいかない。

そのため、併願予定の私立高校にも見学に行くことになっていた。




「明後日は何時に着けばいいんだ?」


「集合時間が10時だから、9時40分ぐらいには着きたいかも」


「となると、ここを出るのは9時15分ぐらいか」


夕食後、リビングで父さんと当日の時間を確認していた時のこと。


「ユウジはどこに行くの?」


カレン姉さんと一緒にゲームをしていたカリン姉さんが質問してきた。

どうやら、俺たちの会話を聞いていたらしい。


「明後日、私立高校の見学に行くんだよ。あ、父さん。サクラも一緒に乗せてもらってもいい?」


「ああ、もちろ──」


「「私も行く」」


姉さん達は声を揃えて同行を願い出た。


「いや、高校の見学なんだから姉さん達は無理だよ」


「でも、サクラも行くんでしょう?」

「この前の模試の時だってそうだったじゃない」


「いや、サクラは俺と同じ中学3年生だからね?」


高校生の姉さんは模試にも学校見学にも同行できないだろう。


「カリン、カレン。流石にお前たちは行けないと思うぞ?」


父さんも姉さん達を説得にかかる。


「「(ぷくーっ)」」


すると、姉さん達は頬を膨らませて、不満を表明した。

かわいいけど、無理だからね?




サクラの家に着けば、サクラと共に彼女の両親が外で待っていた。


「おはようございます」


「おはようございます」

「本日はよろしくお願いします」


父さんとサクラの両親が挨拶を交わしている。

それを横目に、俺はサクラに声を掛けた。

ちなみに、今日も俺達は制服である。


「おはようサクラ」


「う、うん。おはよう、ユウくん」


サクラはなぜか緊張しているみたいだ。


「サクラちゃん、後ろ乗ってね」


「は、はい、よ、よろしくお願いしますっ」


後部座席に俺とサクラで座わり、目的地へ向かい始めた。




「じゃあ、楽しめよ!」


「うん、ありがとう父さん」


「あ、ありがとうございました」


高校に着き、俺達は車から降りた。

父さんは一度家に帰り、また後で迎えに来てくれるみたいだ。


サクラと並んで高校に向かう。

サクラとはなんだかんだ一緒に過ごした時間が長いからか、間が持たないということが全くない。

話は自然と浮かんでくるし、たとえ沈黙が生まれても、そこに気まずさは無く。

なんていうか、親友ってこういう感じの相手を言うんだろうな。



校舎に入ると、サクラと一緒に教室に案内され、しばらくすると説明が始まった。

この高校は、特進コース、進学コース、普通コースに分かれており、好きなコースを受験できるらしい。

各コースの違いを俺の解釈でまとめると、


特進コース: 外部の難関大学を目指すコース

進学コース:基本的には内部進学を目指すコース

普通コース:成績上位者は内部進学もある


という感じのようだ。

俺が受けるのは進学コースだな。



説明が終わった後は自由行動で、部活動の見学が行えるようだ。


「サクラは何か興味のある部活はある?」


「えっと、料理研究会は興味あるかも」


パンフレットを見ながら、どこを回るか打ち合わせを行う。


「サクラらしいな。俺は弓道部を見てみたいかも」


「中学校にはなかったもんね」


「そうそう。高校に入ったら何か新しいことを始めてみるのもありかなって」


「そっか。じゃあ、私は手芸部も見てみようかな」


「OK。じゃあ、先にサクラの方を回るか」


そうして、俺たちは部活の見学を始めた。




部活の見学を終えた後、父さんと合流した。

車に乗り、そのまま家に帰るのかと思われたところで、父さんがサクラに話しかけた。


「サクラちゃん、何かご飯食べてく?」


「え、えっと……」


父さんに声を掛けられたサクラがしどろもどろになっている。

まあ、急にそう聞かれても困るよな。

でも、このまま解散というのも少し寂しい気がするので、俺は父さんの提案に乗ることにした。


「せっかくだし、食べていかないか? 無理にとは言わないけどさ」


「う、うん。じゃあ、お願いします」


「よし、じゃあご両親に連絡入れとくな! 何か食べたいものはあるか?」


そうして、俺たち3人はこのまま昼ごはんを食べることになった。




帰り道にあったファミレスへとやってきた。

奥のソファーにサクラと俺で座り、向かいの椅子に父さんが座る。


注文を済ませて料理を待っている間、主に父さんがサクラに質問する形で会話が進んだ。


「サクラちゃんはどこ目指してるの?」


「えっと、竹明高校です」


「じゃあ、ユウジと一緒か」


「はい」


「やっぱ家から近いっていう理由? それとも、ユウジと一緒だから?」


「え、えっと、その、えっと……」


からかい混じりに投げられた父さんの質問に、サクラがパニックに陥っている。


「父さん」


「あ、ああ、すまん。ごめんな、サクラちゃん……」


「い、いえ……」


その後の父さんは、雑談というには慎重に言葉を選びすぎていて、なぜかカタコトになっていた。




父さんが席を外したタイミングで、サクラがポツリと零した。


「お店でユウくんと一緒にご飯を食べることなんてないから、なんか、すごく変な感じがする」


確かに、普段は友達と外食なんて行かないし、その上今は制服を着ているからな。


「俺も、父さんとサクラの組み合わせは変な感じだ」


「確かに。挨拶はするけど、ちゃんと話したことはあまりなかったかも」


近所に住んでいるし、お互いの母親同士の仲が良いため、これまでにも家族同士で顔を合わせることはあった。

しかし、その時も大人同士の会話に混ざることはなく、子供同士で距離を測り合っていることが多かった。

そのため、俺もサクラの父親とはほとんど話したことがない。

ただ、家にお邪魔した時にサクラの母親にはよく話しかけられていて、


「ユウジくん、いらっしゃーい!」


「これミサキちゃんに持って行ってもらえる? よろしく〜!!」


「プリント届けてくれてありがとう〜! あ、もしかしてメッセージカードとか挟まってる? え~ないの~? じゃあ今から書こう!」


顔は似ている母娘なのだが、性格は似なかったようだ。





店を後にし、サクラの家の前に着いた。


「じゃあ、また来週」


「うん、またね」


来週には竹明高校の学校見学がある。

その時もサクラと一緒に行くつもりだ。


「サクラちゃんまたね!」


「はい!ありがとうございました」


あの後は上手く会話を弾ませることに成功して、お互いの距離を縮めることができたようだ。



サクラと別れ、車で俺達の家に向かう。


「サクラちゃんと一緒の高校に行けるように頑張らなきゃな」


「うん」





ユウジが学校見学へ出かけた頃。


「むー」

「よしよし」


家では未だに不満を漏らしているカレンをカリンが慰めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る