第11話

「ユウジは今週末も学校見学か」


「うん。今度は歩いて行くよ」


夕食中、父さんから話を振られた。

先週の私立高校の学校見学では、父さんに車で送ってもらったのだ。


そして、今週末には竹明ちくめい高校の学校見学がある。


「そうか。サクラちゃんにもよろしくな」


「うん」


結局、夏休み中はサクラ以外の友達に会わなかったな……。

そもそも友達が多いわけではないし、何より連絡手段がないのだから仕方ない。


「ユウジ、今回は私達も一緒に行くわ」

「私達が案内してあげる」


「あんた達って休みじゃないの?」


突然同伴を申し出た姉さん達に、母さんのツッコミが入る。


「休みよ」

「でも、ユウジが行くなら私達も行くわ」


「はあ、そうかい。じゃあパパよ、私達もどこかに出かけるとするかね?」


「おお!!」


両親もお出かけのようだ。

姉さん達と一緒に過ごすことになるサクラのことが心配でならないが、俺から自分が通う高校に付いてくるなとは言えない。

まあ、うん。

サクラ、ごめん……。




「おはよう、ユウくん……」


「おはようサクラ……」


当日の朝。

うちの方が高校に近いということで、中学の制服に身を包んだサクラが玄関の前に立っていた。


そして、


「おはようサクラ」

「久しぶりね」


同じように高校の制服に身を包んだ姉さん達と対面していた。


「驚かせてごめん。なんか、姉さん達もついてくるみたいで……」


「そ、そうなんだ。お、おはようございます……」


姉さん達とはこれまでにもたまに顔を合わせてはいるのだが、未だ人見知りは解消されないようだ。

まあ、俺も年上との交流は得意ではないから、サクラの気持ちもわかる。


極力姉さん達には大人しくしていてほしいのだが、


「サクラは相変わらずちっちゃいわね」

「でも、それが可愛いわね」


「私、サクラが作ったお菓子って食べたことないのよね」

「ユウジから話は聞いているのよ」


「あうぅ……」


先ほどから、姉さん達はサクラの周りをぐるぐると回りながら一方的に話しかけている。


「はあ……。姉さん達、その辺にしてあげて」


俺はサクラを救出し、そのまま歩き始めた。

姉さん達のペースにのまれると埒が明かないのだ。



高校に着くと、靴を履き替えて体育館へと向かう。

館内には折り畳み式のパイプ椅子が2席ずつ並べられており、おそらく生徒とその保護者で隣り合って座れるようになっているのだろう。

しかし、周りを見れば生徒同士で座っているところも多い。

俺達もそれに倣うことにし、空いていた席にサクラを座らせ、その隣に自分も腰をかけた。


「「……」」


先程から、立ったままの姉さん達が無表情でこちらを見つめてくる。

それはサクラにも刺さっているようで、居心地が悪そうにしている。


しかし、それがしばらく続いたところで一人の高校生が向かってくるのが見えた。

姉さん達と同じくらいの身長で、黒髪を後ろで纏めたしっかり者のオーラを感じる女子生徒だ。

姉さん達も彼女に気づいたようで、俺たちに向けていた圧を解除すると、そちらに顔を向けた。


「あ、リンちゃん」

「あ、リンちゃん」


「あなた達、何してるの?」


「ユウジの付き添いで」

「サクラもいるわ」


姉さん達がこちらを向いたので、リンちゃんと呼ばれている女子生徒もこちらに目を向けた。

目が合ったので会釈しておく。

横では同様にサクラも頭を下げていた。


「ああ、あなたが例の弟くんね。私は1年の遠藤凛よ。竹明高校へようこそ」


「初めまして、弟のユウジです。姉達がお世話になっています」


「あら、しっかりしてるのね。お姉さん達はこんななのに」


「みゅ、」

「みぃんちゃん、」


二人の頬がリンさん?リン先輩?に引っ張られている。

どうやら、彼女は姉さん達の扱いを心得ているようだ。


「じゃあ、学校見学楽しんでね。あんた達は行くわよ」


「え?」

「私達はユウジを案内しなきゃいけないのよ」


「説明会まで一緒にいる必要ないでしょ! ほら、せっかく来たんならちょっと手伝いなさい!」


「あ、ちょっと、リンちゃん」

「か、髪はだめだよリンちゃん」


姉さん達はリン先輩(と呼ぶことに決めた)に文字通り後ろ髪を引かれながら体育館から消えていった。

友達の少ない姉さん達に、高校で新しい友達ができたようで何よりだ。




説明会が終わり、体育館から出るところで姉さん達と合流した。

どうやら、午後の部に向けた準備に動員されていたらしい。


この後は先週と同じように部活動見学の時間である。

どこから回ろうかとサクラと話し始めたところ。


「カリン、私達の部活は紹介しないの?」

「そうねえ。行ってみましょうか」


「え、姉さん達って部活入ってたの!?」


夏休み終盤にして、初耳である。

中学では部活に所属していなかったが、高校では何か興味を惹かれるものがあったのだろうか。

そう期待したのだが、


「この高校、全員何かしらの部活に入らなきゃいけないのよね」

「だから、仕方なくね」


ということらしい。

確かに、さっきの学校説明で文武両道を掲げていたが、まさか全員部活に強制参加なのか……。

じゃあ、今のうちに部活動見学もちゃんとしておいた方が良いのかな。



そんなことを考えているうちに、活動場所へ到着したようだ。

カリン姉さんが教室の扉を開け、それに続いて入っていくと、


「コンピューター室?」


室内には何十台ものノートパソコンが整然と並んでいた。


「そう、私たちが所属しているコンピューター部の活動場所よ」


そうやや自慢げに説明する姉さん達とは対照的に、部屋にいた高校生達は皆ポカンとした表情を浮かべている。

そして、段々とフリーズから回復してくると、


「こ、此花このはな姉妹!?」

「え、なんで此花姉妹がいるんだ!?」

「ちょ、部長!どういうことですか!?」

「えっ、いやっ、僕も知らないよ!?」


パニックに陥っていた。


「えっと、姉さん達って活動には参加してるの……?」


「もちろん」

「してないわ」


そうだよね。部員さん達、戸惑ってるもんね……。

姉さん達はいわゆる幽霊部員というやつだろう。

そんな双子の幽霊が突然現れたのだから、驚くのも無理はない。


一通り驚かれた後、1人の男子生徒がこちらに向かってきた。


「よ、ようこそコンピューター部へ。えっと、此花さんはどうしてここに……?」


「弟のユウジの付き添いで」

「部活動見学よ」


「そ、そうなんだ……。えっと、ようこそ、コンピューター部へ。部長の高橋です」


「弟のユウジと言います。突然押しかけてすみません」


こちらに声をかけてくれた部長に頭を下げる。


「(此花姉妹の弟だって)」

「(別に似てないな)」


後ろに控える他の部員達からそんな声が聞こえてくるが、わざわざ血が繋がっていないことを伝えることはしない。

ただ、せっかく訪れたので、コンピューター部の説明を頼むことにした。


コンピューター部といっても活動内容は人それぞれで、ゲームを作っている人もいれば、プログラミングをやっている人もいるらしい。

活動自体は毎日やってるらしいが、参加は自由で、緩くやってるから幽霊部員も多いと苦笑いで話していた。



「ありがとうございました」


「うん。勉強頑張ってね」


部長からの説明を聞き終えた後。

先週と同様に、弓道部、料理研究会、手芸部を回ったのだが、どこも姉さん達が来ると驚かれた。

やっぱり、姉さん達って高校でも有名人なんだなぁ……。



部活見学も終わり、校門を出ようとしたところで、リン先輩がこちらに向かってくるのが見えた。


「あ、いたいた」


「り、リンちゃん」

「カリン、逃げましょ─」


「逃さないわよ。ユウジ君、ちょっとこの子達借りるわね?」


姉さん達の手を掴んだリン先輩が尋ねてきたが、その目は肯定しか受け入れるつもりはないと伝えてくる。


「あ、はい、どうぞ……」


「ありがとう。30分で返すわ。じゃ、気を付けて帰るのよ」


そう言って、今度は手を引かれながら姉さん達は校舎へと戻っていった。

なんか、先生に引率される保育園の園児みたいだ……。




帰り道。

まだ日は真上にあり、これから午後が始まろうかというところ。


「ごめん、サクラ」


「うん?」


「姉さん達がいたから気を遣わせてしまったなって」


人見知りなサクラに対して、急に姉さん達と行動することになったことを詫びる。


そして、


「よかったら、お昼食べた後また集まらないか?今日はあまり話せなかったしさ」


「うん! あ、うちでご飯食べる?」


サクラの家のご飯は美味しいから、それはとても魅力的な提案である。

でも、俺一人で先に済ませちゃうのは流石に姉さん達が可哀想な気もするからな……。


「俺は姉さん達を待とうかなー」


「そ、そっか……」


「えっと、うちでサクラも一緒に食べる?」


「遠慮しとく……」


まあそうだよね。

姉さん達苦手だもんね。


「じゃあ、ご飯食べたら行くよ」


「うん。待ってるね」


ご飯を食べてからサクラの家にお邪魔することにして、俺の家の前で別れた。

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