第9話

とある日曜日の朝。


「いってきまーす」


「おう、頑張れよ」


「いってらっしゃい、ユウジ」

「頑張ってね、ユウジ」


玄関で父さんと姉さん達に見送られて、俺は家を出た。




今日は模試の受験日であり、これから受験場所の私立大学まで電車に乗って移動する。

暑いので本当は車で送ってもらいたいのだが、公共交通機関を利用するようにと運営から指示されているので仕方ない。



俺はサクラの家に着くと、インターホンを押した。

サクラも同じ模試を受けるので、一緒に行く約束をしていたのだ。


玄関で待っていたのか、インターホンから返答があるより先にドアが開いた。


「おはよう、ユウくん」


「おはようサクラ」


「今日も暑いね」


そういって外に出てきたサクラは、半袖のセーラー服を身に着けていた。

ちなみに、俺も中学校の制服を着ている。


サクラは照りつける日差しから身を守るべく日傘を差した。


「ユウくんも入る?」


うーん。

まあ今日は一段と日差しが強いからな。


「うん。入れてもらう」


サクラから日傘を受け取って、2人でその陰の下に入る。


「えへへ」


日差しは防げたが、左腕の辺りはより暑くなった気がした。




「3つ先の駅で乗り換えて、その隣の駅で降りる。そしたら2番出口から出て、すぐ近くにある横断歩道を渡る、で合ってるよな」


「うん」


俺達は電車の座席に隣り合って座りながら、会場までの行き方を確認していた。

というのも、俺達はまだスマホを持っていないので、プリントアウトした地図だけが頼りなのだ。

万が一、乗り換えやその後の経路を間違えてしまうと遅刻してしまうかもしれないので、念入りに確認していく。

こういう時にスマホがあればいいなと思うが、うちとサクラの家は高校合格後に買ってもらうことになっているので仕方ない。



会場の最寄り駅に着けば、制服を着た人達が同じ方向に流れていく様子が見えた。

これなら地図がなくても迷わなさそうだ。

大勢の同学年に見られるのは流石に恥ずかしかったので、駅からは日傘をサクラに返した。




会場に着けば、受験番号によって校舎や階が決まっているようで、それを案内する張り紙の前は少し混み合っていた。


「なんだか、始業式のクラス発表を思い出すな」


「ふふっ、たしかに」


俺とサクラは小学校から、なんなら幼稚園の時からずっと同じクラスである。

ランダムではなく、先生達がクラス分けを考えているという噂も聞くが、ここまで一緒のクラスが続くとこれも意図的なものなのかもしれない。


案内板に書かれた受験番号を確認する。

俺達の受験場所は3号棟の1階らしい。

ちなみに、サクラと俺は連番なので同じ教室だ。



席についてしばらくしたところで、説明が始まった。

午前の科目は国語、英語、数学の順で、1教科は50分。

その後昼食休憩を挟んで、理科、社会の試験となる。




チャイムが鳴り、試験官が試験終了を告げた。

後ろから送られてきた答案用紙に自分のものを重ねて前に送れば、しばらく待っているようにと注意が入る。

そして、全員分の答案が確認できたのだろう。


「皆さんお疲れ様でした。これより昼食休憩となります」


そう告げられた途端に教室内は騒がしくなった。


そういう俺も、


「あ~疲れた〜」


と声を発しながら、手を組んで背筋を伸ばし始める。


「お疲れ、ユウくん」


「ああ、サクラもお疲れ。じゃあご飯食べようか」


後ろに座っていたサクラから声がかかった。


受験生は皆、長机の両端に、間を2席空ける形で座っている。

左端に座っていた俺は1つ右の席に移り、俺が座っていたところにサクラが座った。


時間もあまりないので、さっそく食べ始める。

持ってきた弁当箱を机に置き、蓋を開いた。




「それ、お姉さんが作ってくれたの?」


「うん……」


サクラが俺の弁当を見て質問してきた。

俺もそれに目を向ける。


弁当の中には♡が至るところに散りばめられていた。

ご飯の上には鮭フレークの♡。

おかずの人参も♡。

卵焼きも♡だ。

そして、♡でこそないが、ケースの中に入っていた箸にはピンク色の花が描かれている。

って、これカレン姉さんのじゃん……。


少なくとも、この弁当は俺の母さんが作ったようには見えないので、カリン姉さんかカレン姉さんが作ってくれたのだろう。


「なんか、私のより女の子のお弁当って感じだね」


「うん……これはちょっと恥ずかしいかも」


そう言ったところで、サクラが何かを取り出した。


「ユウくん、これも食べれる?」


ぐいっと押し付けるようにして渡されたのは、おかずが入った弁当箱であった。


「え、食べていいの?」


「うん。これ、私が作ったやつなんだけどね。ユウくんに味の感想を聞きたくて。よかったら食べて?」


「う、うん。サクラの料理は久しぶりだな」


やや圧倒されながらも、弁当箱を受け取る。

正直、少し足りないかもと思っていたからありがたい。

男子中学生にとって重要なのは、可愛さよりも量なのだ。


「おお!めっちゃ美味い!」


「そ、そう?」


「うん。これは絶対に良いお嫁さんになれるな」


「!? えへへへ」


そんな感じで、昼食の時間は和気藹々と過ぎていった。




午後の試験が終わり、皆が一斉に教室を後にする。

構内は多くの受験生でごった返しており、外に出ても、駅までの道は制服を着た人達でいっぱいだ。

俺たちはそんな彼らに流されながら、帰路を辿っていた。


「サクラは今日の模試どうだった?」


「うーん、理科のグラフができなかったかな……」


「あー、あれ難しかったよな」


「ユウくんはどうだったの?」


「対策してた範囲はできたと思うけど、基本的に大問の最後は無理だったな」


「そっかー。英作文は──」


帰り道はずっとサクラと模試について話していた。

家に帰ったら自己採点しなきゃな。




夕食後。

母は、弁当箱と水筒を洗っていた。

これらには食洗機を使用できないためだ。

そこで─


「なんでカレンの箸があるんだ……?」


ユウジの弁当箱と水筒の中に、ピンク色の花が描かれた箸が目に入った。

これはカリンが水色、カレンがピンク色で、姉妹でお揃いになっているものなのだ。


「間違えたのか?いや、カレンならわざとかもしれんな」


まあなんでもいいかと、深く考えるのをやめて流すことにした。




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