第4話

「カリン、カレン。楽しみなのはわかるけど、そんなの持っていけないからな?」


家族旅行当日の朝。


姉さん達が人生ゲームを持っていこうとして母さんに止められていた。

やはり、姉さん達もこの旅行が楽しみなんだろう。

ポケット版を買っておけば良かったとぼやきながらも、トランプやUNOを鞄に詰めている。


そういえば、姉さん達はあまりぬいぐるみに興味を示さない。

そもそも持っている数は少ないし、それらも小さい頃に水族館やテーマパークへ行った時に買ってもらったもので、自分から新たに買うことはなかった。

こういう旅行の時って、普段ぬいぐるみを抱いて寝ている人だとそれを持って行きたがると思うのだが、姉さん達の抱き枕は俺だから要らないということだろうか。


そんなこんなをしているうちに、車にガソリンを入れに行っていた父さんが戻ってきた。

さあ、荷物を積んで出発だ。




いつも通り、後部座席で姉さん達に挟まれるように座る。

俺達の成長に合わせて、年々密着度合いが増しているな……。

一応、母さんが俺と席を換わるかと尋ねてくれたのだが、俺が回答する前に姉さん達に阻止された。

それを見て、母さんは「相変わらずだな……」と苦笑していたが。


ここから最初の目的地までは3時間程かかるらしい。

運転手は父さんだ。

父さんは姉さん達よりも北欧人の色が濃く、髪は明るい茶髪で、身長は183cmもある。

初めて会った時から優しく愛情を持って接してくれており、今では俺にとっての実の父親のような存在だ。

そんな父さんだが、家では女性陣の尻に敷かれがちであり、その点において俺は強い親近感を感じていたりする。



車内では俺に関する話が始まった。


「ユウジはやっぱり竹明ちくめい高校を目指してるのか?」


竹明高校とは、俺が目指している近所の公立高校のことだ。

俺は最初見たとき『たけあき』と読むのかと思った。


「うん。家から近いし」


「そうか。でも、別に公立高校にこだわらなくてもいいからな?父さんも母さんも働いてるし、私立高校に通わせるぐらいはなんてことないさ」


父さんが頼もしいことを言ってくれるが、それでも俺は志望校を変えるつもりはない。


「ユウジは私達と一緒がいいのよ」

「私達もユウジと一緒がいいのよ」


そういって、姉さん達がくっついてくる。

確かに、それも理由のひとつではあるのだが、正直にそれを語るのは恥ずかしい。


「そ、そうか。姉弟の仲が良くて何よりだよ……」


「パパよ。娘がユウジにとられて寂しそうだな」


母さんが父さんをからかって笑っている。



「──いやなぁ……ユウジであれば娘を任せてもいいんだが……でも2人共っていうのはなぁ……」





その後も車内では他愛のない話を続けながら、遂に最初の目的地に到着した。


「おおーー!」

「城だーー!」


目の前には、白と黒の二色で構成される立派な天守がそびえていた。

長野県が誇る国宝、松本城である。


「おおー!名古屋城とはまた違ったカッコよさがあるな!」


父さんも姉さん達と同じように興奮しながら城を見上げている。


「天守の中は階段が急らしいからな。体が丈夫なうちに来れてよかったわ」


母さんも笑顔でそう言って、天守の中に入るための観覧券を買いに向かった。




30分程待って、ようやく中に入ることができた。

入口で靴を脱いで、貰った袋に入れる。

松本城は築城当時の天守が残っている貴重な城で、バリアフリー化などはされていないため、足元はよく滑るし、中の階段は大変急だった。


「ね、姉さん、頼むから足を滑らせないでくれよ」


「う、うん、気を付けるわ」

「ユ、ユウジも気を付けて」


そういって俺の前を姉さん達がいく。

今日の姉さん達はこの階段に備えてのパンツスタイルだ。

もしミニスカートなんて履こうものなら、下から丸見えだろう。

それを避けるため、母さんが事前に注意喚起していたのだ。


細心の注意を払いながら慎重に進んでいる俺達の後ろから声が聞こえた。


「やっぱり急だな」


そう言いながらも、母さんは楽しそうだ。




最上階からの景色や、城内の展示を楽しんだ後、俺たちは旧開智学校へ来ていた。

こちらも国宝に指定されている建築物で、明治時代初期の近代化を象徴する建物である。

松本城の後だと、古さだけでなく新しさも感じられて面白い。

現在は博物館になっており、こちらも展示を見ながら回っていった。


「教室だわ!」

「椅子が小さいわね!」


テーマパークやアウトドアスポーツもいいけど、こういう歴史を体験するのも、非日常的で楽しいものだ。




遅めの昼ごはんを済ませた後、俺達はわさび農園に向かっていた。

ちなみに、お昼は山賊焼きだ。

ひとことで言えばでかい唐揚げなのだが、これがワイルドで美味しかった。



わさび田が一面に広がっている。

流れている水は綺麗で緑も多く、清々しい場所だった。

普段、ある程度の都会に住んでいるからか、こういう自然を感じられる場所に来られるのは嬉しい。

園内を、所々にある解説を読みながらぶらっと回ったところで、売店へ。

そこでは『わさびソフト』なるものが販売されており、多くの人がそれを食べていた。

俺達家族もそれに習って『わさびソフト』を購入。


「うわっ!?」


一口目はわさびのインパクトが強烈だった。

しかし、食べ進めていくと違和感もなくなってきて、俺の最終的な感想は「美味しかった」に落ち着いた。


「うん」

「まあ、不味くはないか」


母さんと父さんはそんな反応をしている一方で、


「みゅ!?!?」

「みゅん!?!?」


姉さん達は変な鳴き声を上げながらも、スプーンを忙しなく動かしていた。

この反応はお気に召したようだ。




「さて、じゃあ宿に向かうか!」


太陽が日の入りの準備を始めた頃。

母さんの号令で俺達は宿に向かい始めた。



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冬に松本城へ訪れる際は、足元の防寒にご注意ください。

あと、スカートも注意です。

また、現在旧開智学校は耐震工事のため休館中のようです。

みゅーーーん……

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